「何から話そうか?言いたい事や聞きたい事がいっぱいあったのに、由さんの顔を見たら、忘れてしまった」

 「私も。でもまず、お礼言わなきゃ。ソンジェさんありがとう。あなたのお陰で、こうして話をする事が出来るようになったわ」

 「僕の方こそ。由さんと出会わなかったら、日本語を話せるようになれなかったと思う」

 「じゃぁ、約束どおり、バツイチになった訳でも話そうかな?私はね、やきもち焼きで、わがままで、いい奥さんじゃなかったけど、彼はね、優しい人で、仕事も真面目にやるし、子供達の面倒も良く見てくれるし、酔って暴れるとか、ギャンブルをするとかと言う事も無い、とてもいい主人だったのよ。ただ一つの欠点は、私以外の女の人にも優しくて、よくモテタってことかな?ソンジェさんも男なら解かるでしょう?数え切れない位の過ちを繰り返し、最後に私は絶えられなくなって“THE END”」

 「彼の事はよく理解できないけれど、今は感謝しているよ」
 「感謝?」
 「そう。由さんを独身にしてくれた」
 「独身?独身には違いないわね、子供はいるけど」

 「じゃあ、今度は僕の番。僕が今まで独身だったのは」
 「その話はもういい。この前は本当にごめんなさい」

 「ずっとお母さんの看病をしてた訳じゃない。若い頃は、恋もしたし恋人もいた。でも僕は、悪い恋人だった。その頃は、仕事が楽しくて、毎日忙しく働いていた。会いたくなれば恋人もいるし、僕は毎日楽しかった。彼女の淋しさや悲しみに気付きもしなかった。だからどの恋も実らなかった。そんな時、お母さんが病気になって、恋をする余裕もなくなった。出来るだけ側にいて、看病してあげたかったし、元気になってほしかった。お母さんが死んで、僕は悲しくて、恋をする気持ちになんてなれなくて、独身になってしまった」

 「これから恋をすればいいじゃないの。男の人はいくらでも若い人と恋が出来るもの」
 「僕が日本語を必死で勉強したのはなぜか解かる?次に由さんに会った時、どうしても伝えたい事があったからなんだ。由さんは、きっと途中で勉強を投げ出すだろうから、そうしたら由さんに伝えられないだろう?」

 「良く解かったわね。私に伝えたい事って?」

 「あの日、由さんに初めて出会った時、僕は、由さんに恋をしたんだ」

 「ちょっと、ソンジェさん?」

 「いいから聞いて。由さんと目が合ったあの時、身体の力が抜けて、心の中に抱えていた色々な事がすべて飛んで行って、暖かいもので包まれた感じがしたんだ。この人の側にいたい。ずっと側にいたい、そう思った。だから、由さんと話がしたくて、必死で勉強した。そして、毎日電話で話をするようになって、僕はもっと、由さんに恋をした。由さん、僕は初めて会った時から、由さんが好きです」

 「ちょっと待って。私は、あなたよりも年上だし、子供もいる。私は、ものすごくやきもち焼きだから、今度、恋人の心の中に他の人が住んだりしたら、きっと殺人犯になってしまう。子供達を殺人犯の子にはしたくない。解かったでしょう?私が、あなたの気持ちに応えられない訳が・・」
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