あの日、車を拾えずに困っている人を、乗せてあげたんだ。
 その人は、僕と同じ歳で、背格好も似ていた。

 「子供の頃に、両親を事故で一度に亡くし、それから何も良い事がなかった。仕事も恋もうまくいかず、おまけに会社が倒産して、部屋も引き払い、誰にも告げずにここに来た。だからもし、今日自分が死ぬ事になっても、誰も僕だとは気付いてもくれない。つまらない人生だ」そう言って嘆いていた。

 そんな時、事故にあって二人とも死んだ。

 気が付くと、そこは、とても美しい所で、向こうにお父さんとお母さんがいた。
 お母さんは、すっかり病気も良くなって、元気そうだった。

 二人でそっちへ歩き出した時、僕は、由の事を思った。

 (由を置いていけない。)

 お父さんとお母さんは淋しそうだったけど、僕はさよならをした。

 その人は、「この先も何も良い事がない人生なら、僕はお父さんやお母さんに甘えたい。だから向こうへ行くよ」って歩き出した。
 だから僕は「じゃあ君の身体を僕にくれないか?」って言ったんだ。

 「いいよ、あげる」って言ったから、急いで戻った。

 だけど、慣れるのに時間がかかっている間に、由は病気になるし、解かってくれないし・・・。
 でも少し嬉しかったよ。
 ソファーで一人眠る由を見てて。

 
 「だって、私が眠るのは、ソンジェの腕の中だけだもの」

 「由、僕は、どんな事があっても、何度でも由の所に戻ってくるよ」

 彼の指にリングをはめ、彼の腕の中で眠り、彼の腕の中で目覚めた。
 前と変わらない、幸せな朝が来た。



 次の休日、花を買いに出かけ、約束どおりテラスの手入れをした。
 色とりどりの花で、前の様に、とても素敵になったテラスで夕食を食べた。

 (神様、今、命を終えたら、悔いが残ります。もう一人は嫌です。この幸せが、ずっと続きますように)
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