撮影も終わり、ソンジェの仕事も一段落し、少しゆっくりと出来るようになってきた頃から、私は、彼の小さな変化に気付き始めた。
 スタッフの人達に、それとなく尋ねても“何も変わっていない”と言うから、どうやら私といる時だけのようだった。

 時々、いつもは優しい彼が、冷たい目で、信じられない様な言葉で突き刺し、どんなに激しく求めても優しい彼が、自分勝手な愛し方をした。
 そんな彼に、嫌悪感さえ覚えた。

 ソンジェもそんな自分に気付いていたのか、以前、事故の時お世話になった事のある、先生を訪ねると言い出した。

 その日は、嵐が近づいていると、ニュースで言っていた通り、とても強い風が吹いていたけれど、予約をしてあったので出かけて行った。



 先生は、私の話を聞き、ソンジェを連れて行った。
 「医者の立場からは申し上げにくいのですが」と念を押し
 事故の後、意識を回復した時に、診察した時も信じ難かったのですが・・。

 あの時彼は、一度は死んだけれど、“あなたの所へ戻らなくては”という強い意志で、生き返ったと言っていました。

 今、もう少し深く追求してみると、同時に亡くなった人と、美しい場所にいて、向こうには、お互いの亡くなった両親が立っていた。
 その人は、両親の元に行き、彼は、損傷の激しかった自分の身体を捨て、その人の身体に戻った。

 ご両親は、とても淋しそうで、彼もまた、両親に甘えたかったけれど、あなたの為に戻ったそうです。

 どうやらその時に、心残りがあったようです。
 その心残り、つまり、あなたのせいで、ご両親に淋しい思いをさせ、自分もご両親に甘えられなかったと言う思いが、彼の中に、あなたを憎む、別の人格を作ったのかも知れません。



    「それは、どういう事ですか?どうすれば・・?」
    「難しい問題です。時間をかけて、ゆっくりと治療を進めましょう」




 病院を出る頃には、風はますます強くなり、後の予定を取り止めて帰る事にし、車まで急いで歩いた。


 その時、風にあおられた落下物の直撃を受け、私達は、病院に運ばれた。
P18へ  トップへ P20へ
前へ トップ  次へ