社長に電話をかけ、ソンジェの部屋がもう売れたか確かめ、不動産屋さんに鍵を持って来てくれるよう頼んでもらった。

 「イヤー助かりました。社長さんから電話をもらって。いい部屋なので、何人か見に来たんですけどね。売れなくて、困っていたんですよ」と鍵を開け、その人は恐る恐る中に入った。
 「大丈夫ですから」と、言ってはいるけど、何かビクビクした感じで「大丈夫ですから」を繰りかえし、
 「あれ?今日は何も起きない。変だな?いつもは、何か物が落ちたり、急に水が出たり、何も無いのに転んだりして、皆、気味悪がって、売れなかったんですよ。でも、もう大丈夫みたいです。鍵お返ししますので」と帰って行った。


 窓を開けた。

 一筋の風が、部屋中を吹き抜けて行ったような気がした。

 すべての窓を開け、クロゼットの扉やバスルーム、すべての扉を開けて掃除をし、必要な物を買いに出かけた。

 ソンジェとの思い出の部屋で、一人食事をしていたら、涙が溢れ、テレビを見ても、何をしても、ソンジェを思い出した。

 (泣かない。ソンジェと約束したもの)

 涙を拭き、いつもの様に、ソンジェの写真に、今日一日の報告をし、おやすみのkissをして、ベッドに入った。

 夢を見た。
 ソンジェが、私の髪を撫でながら話している夢だった。

 『由、おかえり。やっと帰って来てくれたね。日本にも会いに行ったのに、気付いてくれないから悲しかったよ。でも今夜からまた、由と一緒だ。この部屋は誰にも渡したくなかったのに、売りに出しちゃうから大変だったよ。でも売れなかったから、良かっただろ?今日は疲れただろう。ゆっくりおやすみ』
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