私は、美崎由(みさきゆう)。
ここにお世話になってかれこれ10年になる。
先生も奥さんも、とてもいい人達で、そのせいかスタッフも皆いい人ばかり。
居心地が良すぎて居座っている。
「すみません。ほって置けなくて。でも通訳の人が一緒だから大丈夫です」
そう言って、どうしてこうなったかを説明した。
診察を終え「骨は大丈夫でしょう。軽い捻挫だと思います。治療して固定しておきます」と先生が言ったので、診察ベッドのカーテンを閉めようとしたら、その人に「行かないで」と腕をつかまれた。
通訳を頼んだ。
「15分程電気治療して、その後、固定するだけだから心配しないで」
それでも「行かないで」と言うので
「知らない所で、それも外国でこんな事になったら不安よね。仕方ない」とカーテンを開けた。
先生が、通訳の人に詳しく説明をし始めたので、私は仕方なく、その人と又、知ってる限りの単語や身振り手振りで話し始めた。
「私は、美崎由です」
「ボクハ、イ・ソンジェデス」
「え?ドラマと同じ?」
「ソウデス」
「私は、L.Bさんの大ファン。ほら見て」
携帯の待ち受けを見せて、L.Bさんの目が好きだとか、このキャラクターが良かったとか、本当に通じていたのかどうかは解からないけど、ひとり喋っていた。
あちらでは、固定の材料を持ってきた先生の奥さんも交え、
「よくあんな、単語だけで話が出来るものね」
「僕ならいらいらしますよ。ソンジェもよく辛抱してるものだ」と、からかい半分で見ていたらしい。
固定をしてもらい、治療が終る頃には、彼も安心したのか笑顔が出るようになっていた。
「お世話になりありがとうございました。お礼に食事でも」
「いいえ、とんでもない。お礼なら先生に。私はこれで失礼します。お大事に」
「ソンジェはあなたが“OKしてくれた”って言ってますけど」
「いいえ。そんな事言ってないですよ。片言だから誤解があったのかもしれないからうまく説明しといて下さい。じゃあ、気をつけて」
「ダメデス。ヤクソクシマシタ」
「ソンジェ、無理言うな」
「いいじゃない、美崎さん。私達はもう食べたけど、美崎さんお昼まだでしょ。ご馳走になったら?」
「奥さん!」
「食事はしないと駄目ですよ。さぁ行きましょう」
「いえ、本当に結構です。行くなら先生達も一緒に」
「私達はもう食べたから、美崎さん行って」
「奥さん、余計な事言わないで・・・」
「いいじゃないの、さぁ帰って、帰って」