しばらく沈黙が続き、社長が口を開いた。

 「と言うことは、Love Dreamはえりかで、えりかは愛夢が創り、愛夢は川下愛で、川下愛は、由さんって事?」
 

 「そうだ、電話しなきゃ」

 「ソンジェ落ち着け。契約がまだだ」
 「そうだった。僕としたことが」
 「その必要はないわ。私は、そういう事は何も解からないし、マネージャーがいる訳でもない。日本での事は社長に、韓国での事はソンジェさんに任せる。ただ、私のことは黙っててほしい。その分社長やソンジェさんが、大変な目に遭うかもしれないけど」
 「それは問題ない。僕達はプロだから」

 二人はあちこち電話をした。

 私は、窓の外を見ながら、「これでいい。これで良かったんだ」と自分に言い聞かせていた。

 これで、ソンジェさんが、この街に来る理由も無くなってしまった。

 “色々しなくてはいけない事があるので”と、社長は東京に、ソンジェさんはソウルに帰ることになった。

    「由さん、契約は後日になるけれど、僕が責任を持つから心配しないで」
 「由、しばらく会えないけど、毎日電話するよ。そしてきっと来る。今度来る時は、由をソウルに連れて帰る。だから、パスポートを用意しておくんだよ。愛してる」

 ドアが閉まり、涙でぼろぼろの私を残し、二人を乗せて新幹線が動き出した。


 それから何日かが過ぎ、パスポートも出来上がった。

 約束通り、ソンジェさんは来日し、まっすぐ家に来てくれた。

 「ソウルに連れて帰りたい」と強く、でも誠実に話す、彼の気持ちが伝わったのだろう、娘達は気持ちよく賛成してくれた。
 先生達にも挨拶に行き、ソウルへ発った。
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