「一緒に来て!」社長に手を引かれ、ここに連れて来られた。

    目の前にソンジェの免許証。
    私がプレゼントした財布。
    二人の写真。
    そして、私の誕生石、サファイアのリング・・。

 「由さんは見ない方がいい」と私を抱き寄せた社長の
 「間違いありません。ソンジェです」
 声が耳の奥で響いていた。

    (ここに横たわっている人がソンジェ?)

    「そんなはずは、ソンジェのはずが無い!」

 社長の腕を跳ね除け、横たわるその人の肩のアザを見た時、私は気を失った。


 長い間、暗闇の中を彷徨っていた様な気がする。

 「お母さん起きて」娘の声で目を覚ました。
 「良かった、気が付いて」
 「・・・」
 「何か飲む?」
 「・・・」
 「お母さん?」
 私は、ショックで声を失ったと聞かされた。

 あの日ソンジェは、撮影現場を覗いて来ると出かけた。
 途中で事故に巻き込まれ、即死だったそうだ。


 神様は、優しい彼の方を連れて行った。


 私が、目覚めた時にはもう、ソンジェのお葬式もすべて終わり、仕事の方も“社長の遺志を継ごう”とスタッフの人達が頑張ってくれていた。

 ここで暮らすのは辛いだろうと、娘と社長に付き添われ、日本に帰った。
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