「今日は、どうしました?日本に帰られたと聞きましたが。また何か問題でも?」

 「いえ、問題と言えるのかどうか。日本では、生きる気力も無くしていた前と違って、ご飯も食べるし、普通に暮らしていたんです。それでこの頃、ソンジェさんとの思い出を、ひとつひとつ書き始めたんです。そうしたら、彼の夢を見るようになって・・」

 「夢に出て来てくれたのですね」

 「ええ。それが・・・。夢の中で彼は、生きていた頃のように、優しく私を愛してくれるんです。そんな夢を見た朝は、彼の腕の中で目覚めていた頃のように、とてもやすらいだ気持ちになるんです。そんな夢を、たびたび見るようになって・・。私、どうかしてしまったんでしょうか?」

 「大丈夫ですよ。ただ、何もかも忘れたいと、日本で生活して、少し落ち着いてきたのでしょう。彼との事を、思い出として書き綴り、思い出として、認識しようとし始めたのですから。そうしたら、閉じ込めていた彼への想いが、溢れ出してしまったんじゃないですか?」

 「この頃、何故“私の所へ戻って来て”と引き止めなかったんだろうと、後悔する事もあるんです」
 「また、ソウルに住まれたらどうですか?」
 「でも、それは・・」

 「荒療治って知っていますか?」
 「ええ」
 「日本で、彼との事を思い出すのではなく、彼との思い出が沢山あるここで、ひとつひとつ思い出として認識し、彼の死を受け入れられる様になるまで、過ごされたらどうですか?」
 「・・・・・」

 「でも、彼の事だから、あなたに会いたくて、また戻って来たのかも知れませんよ。あっ失礼。失言です」
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