「いったい何の騒ぎだ?」
 「あっ、こんにちは。あの人・・。いきなり入って来て、社長のデスクで仕事し始めて・・」

 「ソンジェ!戻って来たのね」
 「由さん!落ち着いて!あれは、ソンジェじゃない。ソンジェは死んだんだよ」
 「ソンジェよ。ソンジェはもうすぐ戻るからって言ったもの」
 「とにかく落ち着いて!今、調べてみるから」


 あの日、ソンジェの車には、同乗者がいて、一緒に事故に巻き込まれたらしい。

 「一人は、即死。一人は、意識不明で、命は取り留めたが、顔の傷を少し手術した。意識が戻り、検査やリハビリをし、言葉が話せる様になったので聞いてみると、“イ・ソンジェ”と名乗り、住所や、会社名も実在したので、今日退院させた。ひどい状態だったので、どこかで遺留品が、入れ替わったのかも知れない。こんな事になり申し訳ない。あちこち連絡をしていて、そちらに連絡するのが遅れた」と言う事だった。

 「何てことだ。映画やドラマじゃあるまいし・・」

 その間も、その男は、てきぱきとスタッフに指示を出し、仕事をこなしていた。

 ソンジェから、住所や会社の事を、聞いたのかも知れない。
 由さんの事だって、きっと聞いてるはずだ。
 疑ってみたが、デスクで仕事をしている姿は、ソンジェそのものだ。

 指示を出す口調、姿勢、癖。
 そんなものは、いくらコンピューター並の頭脳を持っていても、短い時間で真似出来るものじゃない。
 第一、見てもいないのだから、解かるはずが無い。

 顔は手術したって言ってたし、あれは間違いなくソンジェだ。

 スタッフ達も「社長が戻った」と嬉しそうに指示を受け、事務所は活気付いた。

 「こら、由。これじゃ仕事が出来ないよ。もうすぐ終わるから待ってて。終わったらみんなで食事に行こう」

 間違いなくソンジェだ。

 「ソンジェ、生きていてくれて良かった」
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