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  「あぁ〜、やらなあかんこと、ほっといたな!」

 新年明けましておめでとうございます。つつがなく新しい年をお迎えになられたことと存じます。
しかしながら、なかなか、「またひとつ年とった、歳とるたびに眼が開いて、世の中少し広くなる」とは、ほんと幾つになってもかなわないものです。

 さて、昨年、ある御門徒のおばあさんが、着物の帯を仕立て直し、お寺の水引(御本尊前卓の横に張る幕)にして御寄付いただきました。そのきっかけが、なんとも教えられます出来事でありましたので、ご紹介いたします。

 ひとり暮らしの88歳になるそのおばあさんは、昼間、テレビで「東日本大震災から3年」という番組を見ていたそうです。そして、お腹が空いたので、モチを食べようと思いました。当然、日ごろから年齢のこともあり、モチを喉につまらせないように、気をつけなあかんなぁ〜と思いながら、モチを「きなこモチ」にする準備をしたそうです。ようやく出来上がって、テレビを見ながらいただいたその時、「ウッ!」と、喉にモチが詰まってしまったのです。そのうち、息ができなくなり、気を失いそうになってきた。なんとかせなあかん〜なんとかせなあかんと思い、そして水を飲まなくてはと、朦朧としながらなんとか台所の蛇口へ向かうものの・・・。意識がなくなってしまったそうです。
 ひっくり返って気を失うその時、いろんな思いがめぐったそうです。「年寄りが喉にモチを詰まらせて死ぬというニュースはよくあるけど、息子はビックリするやろなぁ」「あれほど気をつけなあかんと言っておいたのに、食い意地はって、アホやなぁって言われるやろか」とか、なんともなさけない状態でしたと。
 そして、なんとそのおばあさんは、夜中に目を覚ましたのです。「あぁ〜生きてるんや、ありがたい」。でも、手にモチが乗っており、さらに胸がとても痛い。這いながらなんとか寝床へ。次の日の朝、息子に電話。そして病院へ。結果、肋骨が2本折れていたそうです。どうも、水を飲みに台所に行って、途中、意識が無くなり、テーブルに胸を打ちつけ、その拍子に、喉に詰まったモチが飛び出し、手の中に。ほんと九死に一生を得たのであります。
 そしておばあさん思ったのです。「あぁ〜、やらなあかんこと、ほっといたな!」と。その後すぐ、おばあさんは、以前からしようと思っていたこととして、着物の帯を持ってお寺にこられ、この帯を水引に仕立て直して仏さんに寄付したいと申し出られたのであります。

 このお話、私には、「いったい何をやってきたのか、そして何をやろうとしているのか」と問われる。ガツンとやられたお話でありました。
 やらなあかんこと、それは、仏様に寄り添わせていただくことだけであります。本年もなにとぞよろしくお願いいたします。 

          合 掌




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