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  『周防大島』

 瀬戸内海に浮かぶ金魚のような島、山口県周防大島。日本中を旅し、その土地と暮らしを見つめ人びとを励まし続けた民俗学者、宮本常一の生まれた島でもある。この島は全人口にしめる65才以上の人口の割合、つまり高齢化率日本一の島であるが、そこに住む老人たちはとてもいきいきと暮らしているため「大往生の島」と言われている。

 かがやく海をながめながら島の人は語る。
「山や畑とちがって海はみんなのものです。誰でも受け入れてくれます。島に帰ってきた人も、外からやってきた人も、誰でも船さえあれば漁師になれますしね」
「今の社会じゃ老人は保護の対象ですけれど、ここでは立派な社会の一員、みんな現役ですよ」、
「みんなお金持っていないし贅沢もしていないけれど、心に余裕がありますね」
「この島は外の人とのつながりが生きているから過疎地ではないんです」
などなど。
 いきいきと生きている老人たちの言葉は姿勢がいい。

 島にある泊清寺の住職は語る。
「この島の人たちには生きる深さがある。
この島は一周遅れのトップランナーです」

 この島は老人の島である。朽ち欠けた家々も多く、発展とか進歩とかという言葉とは無縁のところである。しかし、人と車の波にもまれながら暮らしていると、なぜか忘れていた遠いこの島が思い出される。

  (「サンガ」季節風から)(禿)




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