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  「高倉 健」

 青少年の凶悪犯罪が毎日のように新聞紙上でクローズアップされる。私も含めて誰も彼もが評論家になり、よってたかってその原因を分析している。経済至上主義、少子高齢化、学歴偏重主義などなど。しかし一億2千万人が総評論家になって、その背景は見渡せても、凶悪な行動にいたる原因や動機はどうもはっきりとは見えてこない。そして「現代は闇である」としめくくる。大切なこととは思うが、どうも都合よく大人達が納得しようとしているだけのようで、本当にそんなことだけでいいのだろうか。

 少し前になるが(1999年)、日本アカデミー賞の表彰式がテレビで放映されていた。最優秀主演男優賞の発表。「鉄道員(ぽっぽや)」の高倉健氏であった。
 「生きるために俳優になりました。そしてたくさんの人に出会い・・・」ということばで受賞の喜びを語りはじめた。
 何十年という俳優人生からかもし出されるなんともしぶい深くて味のある言葉。働いて稼がなくては食うこともできず生きてはいけない、そのために俳優になったという意味であったろうが、私には「俳優という仕事で数多くの人物を演じ、そして多くの出会いに恵まれた、しかしそのことは同時に私自身がどう生きるのかということの確かめの歩みでもあり、尋ねていく歩みでもありました」と聞こえてきた。
 きっと「生きる」ことへの誠実さが私に響いてきたに違いない。
 人生、生きている実感がほしい。


      (「サンガ」季節風から)(禿)




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