テルペン・・・イソプレンからできる生体物質

 

 

テルペン : 生合成、分類

 

参考    :コレステロール、脂質ラフト

 

テルペンは、2つ以上のイソプレン単位 ( C5 ) から構成されています。

植物の精油カロテノイドクロロフィル植物ホルモン

昆虫の性フェロモン、

その他、コレステロールステロイド、脂溶性ビタミン、ユビキノン、ヘム等の原料になります。

 

尚、古細菌細胞膜は、グリセロール-1-リン酸のイソプレノイドエーテル、です。

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テルペン

分類

 

植物や昆虫、菌類などによって作り出される生体物質です。

炭素10が基準で、2つ以上のイソプレン単位 ( C5 ) から構成されています。

 

テルペン類のうち、カルボニル基やヒドロキシ基などの官能基を持つ誘導体は、テルペノイドといいます。

 

これらをまとめてイソプレノイドといいます。

 

植物の精油の主成分で、大部分は疎水性です。

 

モノテルペンは、バラや柑橘類のような芳香を持ち、香水などにも用いられます。

 

モノテルペン類より大きなテルペノイドは、生理活性を持つものが多く、

昆虫の性フェロモンや警告フェロモン、

植物ホルモンのアブシジン酸などがあります。

 

また、植物色素のカロテノイドも、テルペノイドです。

 

スクアレンコレステロールは、イソプレノイドから生合成されます。

 

ビタミンADEK、コエンザイムQ10(ユビキノン)、クロロフィルヘム、胆汁酸もテルペノイドに由来します。

 

イソプレンが多数重合すると、天然ゴム(イソプレンゴム)となります。

テルペン

 

 

テルペンの生合成

テルペンは、メバロン酸経路と、非メバロン酸経路MEP経路 )で生成される、

イソペンテニル二リン酸 ( IPP ) と、ジメチルアリル二リン酸 ( DMAPP ) から、生成されます。

 

モノテルペンは、ゲラニル二リン酸から生成されます。

セスキテルペンは、ファルネシル二リン酸から生成されます。

ジテルペンは、ゲラニルゲラニル二リン酸から生成されます。

トリテルペン(コレステロールなど)は、スクアレンから生成されます。

テトラテルペンであるカロテノイドは、フィトエンから生成されます。

 

メバロン酸経路は、細胞質基質に、

MEP経路は、葉緑体や白色体などのプラスチドでみられます。

 

モノテルペンジテルペンは、プラスチドで生合成されるのに対し、

セスキテルペンは、細胞質基質で生合成されます。

 

IPPDMAPPは、プレニル基転移酵素(プレニルトランスフェラーゼ)よって、様々なテルペンの基本骨格に誘導されます。

 

IPP DMAPPから、ジメチルアリルトランストランスフェラーゼにより、ゲラニル二リン酸 ( GPP ) が合成されます。

これはモノテルペン生合成の出発物質となります。

 

DMAPPGPPが、ファルネシル二リン酸合成酵素により結合すると、ファルネシル二リン酸 ( FPP ) が合成されます。

これは細胞質基質でのセスキテルペン生合成に利用されます。

 

FPPは、電子伝達系の一部である、ユビキノン( コエンザイムQ10 )の合成に用いられます。

ユビキノンは、ベンゾキノンの誘導体であり、イソプレン側鎖を持ち、生体膜に存在します。

 

FPPはその他、

スクアレン、

ゲラニルゲラニルピロリン酸

ドリコールの前駆体となるジヒドロドリコール二リン酸、の前駆体にもなります。

 

2分子のFPPが、スクアレン合成酵素により結合すると、スクアレンが生成し、

コレステロールフィトステロールといったトリテルペンへと変換されます。

 

FPPIPPから、プラスチド中で、ゲラニルゲラニル二リン酸合成酵素により、ゲラニルゲラニル二リン酸 ( GGPP ) を合成します。

これは、ジテルペンの基本骨格で、

植物においては、カロテノイド、ジベレリン、トコフェロール( ビタミンE )、クロロフィルなどの生合成の前駆物質です。

また、プレニル化タンパク質である、ゲラニルゲラニル化タンパク質の生合成の前駆物質でもあります。

 

さらに、2分子のGGPPが、フィトエンシンターゼによって結合すると、フィトエンが生成します。

これは、テトラテルペンであるカロテノイドの前駆物質となります。

テルペン

 

 

テルペンの分類 生合成

イソプレン単位の数によって分類する場合、炭素数が、

5個のものはヘミテルペン、といいます。

 

10個のものはモノテルペン

20個のものはジテルペン

30個のものはトリテルペン

40個のものはテトラテルペン、といいます。

 

尚、15個のものはセスキテルペン

25個のものはセステルテルペン

35個のものはセスクアルテルペン、といいます。

 

尚、生合成が進むと炭素原子が取り除かれることもあるため、炭素数が5の倍数にならないものもあります。

 

構造によって非環式、単環式、二環式、三環式のように分類することもできます。

それぞれ分子内に0個、1個、2個、3個の環状構造を含みます。

 

尚、縮環した6員環を含むテルペノイドやステロイドの合成には、ロビンソン環化反応があります。

分類

 

ヘミテルペン

イソプレン単位( C5 )を1個だけ持つものは、ヘミテルペノイドといいます。

天然では、ごくまれです。

 

アルコール誘導体のプレノールや、

カルボン酸誘導体であるチグリン酸アンゲリカ酸イソ吉草酸があります。

 

プレノールは、イソプレノイドアルコールの構成単位となります。

H[ CH2CCH3=CHCH2 ]nOH

 

繰り返されるC5H8単位は、イソプレンといいます。

 

最も単純なイソプレノイドアルコールは、ゲラニオール( n = 2 )であり、

ファルネソール( n = 3 )、ゲラニルゲラニオール( n = 4 )と続きます。

 

アルコールと結合するイソプレン単位が飽和されたものは、ドリコールといいます。

ドリコールは、多糖合成の際にを運搬します。

細胞膜の防御、細胞タンパク質の安定化、免疫系の維持にも重要です。

 

プレノールは、5単位以上ある時には、脱水反応によって重合し、重合体はポリプレノールといいます。

ポリプレノールは、100単位程度まで重合します。

 

長鎖のイソプレノイドアルコールは、テルペノールとも呼ばれ、

タンパク質、カロテノイド、脂溶性のビタミンAEK等のアシル化に重要な役割を果たします。

 

ポリプレノールは、細胞代謝においても重要です。

摂取されたポリプレノールは、肝臓でドリコールに代謝され、ドリコールリン酸回路に入ります。

針葉樹の葉は、ポリプレノールを最も多く含みます。

分類

 

モノテルペン

C10。モノテルペノイドは900種類以上知られており、ゲラニル二リン酸から生合成されます。

セスキテルペノイドとともに植物によって作り出され、精油の主成分です。

 

 

非環式

ミルセンは、月桂樹、

オシメンは、ラベンダーの精油に含まれます。

 

イプスジエノールはランの花の香り成分です。

 

シトラールは、香料の原料として利用され、スミレのような香りをもちます。

 

イオノンは、カロテンやレチノール(ビタミンA)の原料でもあります。

 

シトロネラールは、防虫剤として使われます。

 

ローズフランは、バラ油の香気成分で、

ペリレンは、精油中に含まれる防御フェロモンです。

 

カルボン酸としては、ゲラニル酸が知られます。

 

 

単環式

チオテルピネオールは、におい閾値が最も低い化合物として知られます。

 

イリドイドは、数少ない非植物由来のテルペノイドで、炭素数が5の倍数でないものもあります。

 

リモネンは、多くの植物に含まれます。

テルピノレンテルピネンも、芳香成分として精油中に存在します。

テルピノレンは、シロアリの警告フェロモンでもあります。

 

メントールは、ハッカ油の主成分です。

 

カルベオールは、柑橘類の精油成分です。

 

ジヒドロカルベオールは、キャラウェイ、コショウ、セロリ、ミントに含まれます。

 

ユーカリプトールは、エポキシ化合物です。

ユーカリや月桂樹に含まれます。

 

 

二環式

3-カレンは、テレビン油の主成分であり、クロコショウや柑橘類、モミ、ビャクシン属の植物にも含まれます。

 

ツジェンは、コリアンダーやイノンド(せり科)にみられます。

 

ピノカルボンは、ユーカリ精油にも含まれる、シャクガ科の昆虫の性フェロモンです。

 

カンファー(樟脳)は、クスノキから単離されます。

分類

 

セスキテルペン

C15。セスキテルペノイドは3000種以上存在する、テルペノイド中で最も大きなグループです。

すべてファルネシル二リン酸から誘導されます。

 

 

非環式

含油頁岩(オイルシェール)中などにみられます。

 

ファルネソールは、バラやジャスミンの精油から得られます。

 

デンドロラシンは、植物だけでなく、アリからも得られます。

 

アブシジン酸は、植物の生長などを調節します。

 

幼若ホルモンは、幼虫の生長を促進するホルモンです。

 

 

単環式

ジンジベレンは、ショウガ精油に含まれます。

 

ビサボレンは、ヒノキ属やマツ属の植物に含まれます。

 

ビサボールは、カモミールの精油から得られます。

 

 

多環式

多くのセスキテルペンは多環式です。

 

カリオフィレンは、キャラウェイ、コショウ、フトモモに含まれます。

 

カジナジエンは、ホップ精油から得られます。

 

プソイドグアジャネン類は、ブタクサ属の植物に存在します。

 

ヒマカラン誘導体は、ヒマラヤスギ属の植物の精油に含まれます。

 

ダウカン誘導体は、野生種のニンジンに含まれます。

 

メルリジアールは、キノコの一種シワタケの代謝物です。

 

カミグラン類は、藻類によって産生されます。

分類

 

 

ジテルペン

ゲラニルゲラニル二リン酸が基本骨格となります。

 

ゲラニルゲラニオールは、マルハナバチなど昆虫におけるフェロモンです。

他のジテルペンや、ビタミンEの生合成における中間体です。

ゲラニルゲラニル化として知られる翻訳後修飾に利用されます。

 

フィトールは、ビタミンEK合成の前駆体として用いられます。

分類

 

 

セステルテルペン

ゲラニルファルネソール

分類

 

 

トリテルペン

スクアレンは、ステロイド骨格の中間体でもあり、サメなど、多くの動物でみられます。

サメには浮袋(鰾)がないので、浮力を得るために肝臓に蓄えたスクアレンを利用しています。

 

リモニンは、オレンジやレモンの種子の苦い白色成分です。

 

ラノステロールは、コレステロール等、ステロイド化合物の前駆体です。

 

ファシクロール(EFは、ニガクリタケがもつ毒成分です。

分類

 

 

テトラテルペン

カロテノイドは、天然に存在する色素です。

 

フィトエンが前駆体です。

 

炭素と水素だけでできているものはカロテン類

それ以外のものを含むものはキサントフィル類といいます。

 

二重結合を多く含むため、抗酸化作用が大きく、植物では酸素が多く発生する場所に多く存在します。

 

カロテンは、動物に吸収されると、ビタミンAとなります。

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参考

コレステロール

脂質ラフト

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コレステロール テルペン

ステロイドの中で、ステロールというサブグループに属する有機化合物です。

 

動物細胞にとっては、脂質二重層構造を持つ細胞膜の構成物質であったり、様々な生命現象に関わったりします。

哺乳類の細胞膜で、正常な細胞機能を発現するために必要です。

 

尚、植物細胞の細胞膜には別のステロールである、フィトステロール類も含まれます。

真菌では、エルゴステロールも含まれます。

細菌の細胞膜には、コレステロールは含まれません

 

細胞膜の脂質2分子膜上では、

親水性を示すコレステロールのヒドロキシ基は、外向きに配置され、リン脂質のリン酸基部分と水素結合します。

 

ステロイド骨格と炭化水素側鎖は、内側にあるリン脂質の脂肪酸鎖の間に埋め込まれます。

 

コレステロールは、コレステリック液晶という配向状態をとるものがあります。

これは、ネマティック液晶の一種で、ラセン状に配向する性質を持ちます。

刺身が緑色に見えることがあるのはこのためです。

玉虫の構造色も、これによるようです。

 

温度によって色が変化するため、液晶温度計として利用されます。

 

生合成

コレステロールは、小胞体で、アセチルCoA を出発原料として合成されます。

その後、スクアレンから、ラノステロールを経て生合成されます。

 

受容体関与エンドサイトーシスにより、細胞内に取り込まれ、リソゾームで加水分解されます。

 

多くの動物で、ステロイド合成の出発物質となっています。

 

機能

コレステロールは、細胞膜の構築や維持に必要で、

広範囲の温度帯で、膜の流動性(粘性度)を安定にする働きがあります(膜が硬くなります)。

 

コレステロールから生成されるステロイドホルモン類は、

細胞核内の受容体タンパク質と結合して転写因子となり、遺伝子の発現を制御します。

 

ビタミンADEKなど、脂溶性ビタミンの代謝にも重要な役割を果たしています。

 

ビタミンDは、コレステロールが7-デヒドロコレステロールに変化したものに、紫外線が当たることによって生成されます。

 

コレステロールは、細胞シグナル伝達にも関与しているようです。

 

カベオラ依存エンドサイトーシスなどで、

カベオラを構成したり、陥入したりする作用に、コレステロールは必須です。

コレステロール トリテルペン 参考

 

 

脂質ラフト

膜ミクロドメインの一種で、スフィンゴ脂質と、コレステロールに富む細胞膜上のドメインです。

ラフトは、いかだの意味です。

 

膜タンパク質または膜へと移行するタンパク質を集積し、

膜を介したシグナル伝達、細菌ウイルスの感染、細胞接着または細胞内小胞輸送、

さらに細胞内極性などに重要な役割を持ちます。

 

電子顕微鏡によって、上皮細胞と内皮細胞膜表面にあるくぼみを持った構造が発見され、

カベオラと名付けられました。コレステロール

 

カベオラは、カベオリンを含む膜ドメインで、シグナル伝達に関わるタンパク質群が会合しています。

カベオリンを持たないものもあるため、現在は、脂質ラフトといいます。

 

脂質ラフトに、受容体などの機能性物質が集合することで、シグナル伝達、物質輸送の窓口として機能します。

 

複数の分子がカスケードを形成する場合、分子を一ヶ所に集めることで、

それらの分子が相互作用する確率を高め、一連の反応を速やかに行うことができます。

 

 

脂質ラフトは、脂肪酸として飽和脂肪酸を含むスフィンゴ脂質またはスフィンゴ糖脂質を主成分としています。

飽和脂肪酸は、分子が直線状であるため立体障害が少なく、スフィンゴ脂質は互いの分子が密に会合しています。

 

コレステロールは、スフィンゴ脂質と親和性が高く、

スフィンゴ脂質の間に挟み込まれる形で存在し、膜構造を保持しています。

 

一方、折れ曲がった分子である不飽和脂肪酸で構成されている領域は、緩やかに会合しています。

 

このような性状により、脂質ラフトは、他の領域と比較して流動性が低くなっています。

 

流動モザイクモデルでは、細胞膜は、

膜タンパク質が、脂質二重膜中にモザイク状に埋め込まれる形で、

脂質中を側方へ動き回り、膜機能を発揮するとされていました。

 

しかし、現在では、脂質ラフトの発見により、膜構造は均一な脂質二重構造ではなく、

性質の異なる膜ドメイン上に、膜タンパク質が局在して分布していると考えられています。

 

脂質ラフトの大きさは、100 nm以下で、数個から数十個程度のタンパク質分子を含むようですが、

脂質ラフトは安定な構造体ではなく、刺激に応じて集合状態を変化させるため一定ではありません。

 

脂質ラフトには、スフィンゴ脂質、コレステロールの他に、

グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカーや、

アシル化修飾(パルミトイル化、ミリストイル化など)を受けた分子、

イノシトール、リン脂質、複合糖質、といった分子が集合しています。

 

Gタンパク質などは、アシル化後に脂質ラフトに、アシル基を膜ドメインに突き刺す形で局在し、

同じく脂質ラフトに局在している受容体と会合し、シグナルを中継します。

 

アシル基の半減期は、タンパク質自身の半減期よりも短く、

アシル化と脱アシル化のサイクルを持ち、膜への局在が調節されていると考えられています。

脂質ラフト 参考

 

 

 

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