ヌクレオシド三リン酸・・・元々は、生命反応のためのエネルギー貯蔵庫?
ヌクレオシド三リン酸(NTP)は、3つのリン酸が結合したヌクレオシド(塩基と糖が結合した化合物)を含む分子です。
天然のものには、アデノシン三リン酸(ATP)、グアノシン三リン酸(GTP)、シチジン三リン酸(CTP) 、ウリジン三リン酸(UTP)、
5-メチルウリジン三リン酸(m5UTP)があります。
m5UTPは、チミジンのリボヌクレオシド三リン酸ですが、チミジン三リン酸という用語は、慣習によりデオキシリボヌクレオシドに対して用いられます。
m5UTP以外は、RNA合成の原料となります。更に、それ以外にも、
ATPは、エネルギーの放出・貯蔵、物質の代謝・合成など、重要な役割があり、生体のエネルギー通貨ともいわれます。
また、アデノシンは、NAD、FAD、補酵素A、など、各種補酵素に含まれます。
GTPは、細胞内シグナル伝達や、タンパク質の機能の調節に用いられます。
CTPは、エネルギー源として使用されたり、グリセロリン脂質合成やタンパク質のグリコシル化での担体や活性体として働いたりします。
UTPは、代謝反応の基質となって、エネルギー源や活性化因子となります。
こうしてみると、実に様々な役割を持っています。
特に、生命反応のエネルギー源として利用されているように思いますが・・・
RNA(DNA)は、元々は、遺伝情報の保持や発現のためのものではなく、生命反応の場、または、エネルギー貯蔵庫として誕生したのでしょうか???
アデノシン三リン酸(ATP)
グアノシン三リン酸(GTP)
シチジン三リン酸(CTP)
ウリジン三リン酸(UTP)
高エネルギーリン酸結合
低分子GTP結合タンパク質
グリセロリン脂質
糖ヌクレオチド
ビタミンC
ビタミンE
ラジカル
アデノシン三リン酸(ATP)GTP CTP UTP リン脂質
プリン塩基であるアデニンに、
糖のリボースがN-グリコシド結合により結合したアデノシンを基本構造として、
3分子のリン酸が、リン酸エステル結合でリボース 5'-ヒドロキシ基に結合し、2個の高エネルギーリン酸結合をもつ構造を取ります。
ATPは、RNA合成の前駆体として利用されています。
また、アデノシンは、NAD、FAD、補酵素A、など、各種補酵素に含まれます。
更にATPは、生体内に広く分布し、リン酸 1分子が離れたり、結合したりすることで、
エネルギーの放出・貯蔵、物質の代謝・合成の重要な役目を果たしており、生体のエネルギー通貨ともいわれます。
リン酸基の付加は、リン酸基転移酵素(キナーゼ)によって行われます。キナーゼはMg2+やMn2+など2価の金属イオンが必要です。
リン酸エステル結合の加水分解は、ホスファターゼで、行われます。
エネルギーの収支式(ΔG°’(標準自由エネルギー変化))。
ATP + H2O → ADP(アデノシン二リン酸) + Pi(リン酸) ΔG°’ = −30.5 kJ/mol (−7.3 kcal/mol)
ATP + H2O → AMP(アデノシン一リン酸、アデニル酸) + PPi(ピロリン酸) ΔG°’ = −45.6 kJ/mol (−10.9 kcal/mol)
ΔG°’は、一般的なリン酸エステル結合の加水分解によるもの(−3〜4 kcal/mol)に比べ非常に大きいので、
この反応は、ATPからリン酸エステル化合物へのリン酸転移の方向に自発的に進みます。
さらに細胞内では、ATP濃度はADPの約10倍もあり、リン酸濃度も標準状態 (1.0 M) より、非常に低い (1〜10 mM程度) ため、
実際に放出されるエネルギーは、より大きくなり、−10〜11 kcal/mol にも達します。
ATPは主にATP合成酵素により、酸化的リン酸化や光リン酸化によって生じます。
ADP + Pi → ATP
更に、GTPと相互変換します。
GTP + ADP ⇔ GDP + ATP (ΔG°’ 〜0)
細胞内では、アデニル酸キナーゼにより、ATP、ADP、AMPが平衡混合物となっており、ATPはADPからも一部再生されます。
2 ADP ⇔ ATP + AMP (ΔG°’ 〜0)
ATPの反応・役割
解糖系 :グルコースのリン酸化など
生合成 :糖新生、還元的クエン酸回路など
能動輸送:イオンポンプなど
その他
プリンヌクレオチドです。RNA 合成やその他ヌクレオチドの合成に用いられます。
GTPは、ATPと相互変換します。
ATP が、生体内で、様々な生合成や輸送、運動などの反応に用いられるのに対し、
GTP は、主として細胞内シグナル伝達や、タンパク質の機能の調節に用いられます。
多糖の生合成では、中間産物であるGDP糖(GDP-グルコース、GDP-マンノースなど)の合成に用いられます。
動物のクエン酸回路では、スクシニル CoA 合成のエネルギー源、
オキサロ酢酸からホスホエノールピルビン酸の合成でのリン酸供与体、として機能します。
GTP 結合タンパク質は、各機能の1サイクルごとに GTP 1分子と結合し、GDP に加水分解した後解離します。
Gタンパク質 : 7回膜貫通型受容体からのシグナル伝達に関わります。GTP を結合した状態が活性型で、下流にシグナルを伝達します。
低分子 GTP 結合タンパク質 : Rasタンパク質など、シグナル伝達や細胞機能の調節に働きます。
タンパク質翻訳で働く因子 : 翻訳開始因子、翻訳伸長因子(アミノアシル tRNA のリボソームへの結合、ペプチジル tRNA の転座)、翻訳終結因子(真核生物)。
チューブリン : GTP 結合型が重合して微小管を形成し、GDP に加水分解すると脱重合します。原核生物では、FtsZが似た分子構造を持ちます。
グアニル酸シクラーゼ : シグナル伝達に関与するタンパク質です。膜結合型や、可溶型が知られています。
GTP からサイクリックGMP (cGMP) を合成し、cGMP はセカンドメッセンジャーとして機能します。
ピリミジンヌクレオチドで、通常は5'位に三リン酸を持つシチジン‐5'‐三リン酸を指します。
CTPはRNA合成の基質の一つです。
CTPは、UTPがアミノ化されて産生されます。
CTPも、高エネルギー結合を持ち、ATPほどではありませんが、エネルギー源として使用されます。
レシチン(ホスファチジルコリン)や、ホスファチジルエタノールアミンなど、グリセロリン脂質合成や
タンパク質のグリコシル化などの代謝反応に際して担体や活性体として働いています。
また、ホスファチジルコリンや、ホスファチジルエタノールアミンは、
CTPと反応して、シチジン二リン酸(CDP)コリンや、CDPエタノールアミンを生成します。
ピリミジンヌクレオチドで、リボースの1'位でウラシルと連結し、糖の5' 位に三リン酸のエステル化された構造です。
RNA合成の基質です。
他に、ATPのように代謝反応の基質となることで、エネルギー源や活性化因子となる役割がありますが、ATPより特異性が高いです。
UTPが活性化因子となる場合は、通常、基質はUDP化されて、無機リン酸が遊離します。
UDP化して活性化されたものは、
UDPグルクロン酸、などがあります。
リン脂質(グリセロリン脂質)
レシチン(ホスファチジルコリン)
アスコルビン酸(ビタミンC)
高エネルギーリン酸化合物が持つリン酸無水物結合です。
ピロリン酸など、通常のリン酸化合物においては、リン酸無水物結合の加水分解による切断時の標準自由エネルギーの減少は、3kcal/mol程度です。
一方、ATPの加水分解での減少は、7kcal/molにも達します。
リン酸基の加水分解による切断反応や、他の分子にリン酸基が転移する反応は、エネルギーを放出します。
リン酸無水結合の切断が、生体内の化学反応を推進するように見えるため、この結合は、高エネルギーリン酸結合と呼ばれます。
尚、結合自体がエネルギーを持つわけではなく、この化学結合の切断は、吸エネルギー反応です。
その他、クレアチンリン酸、ホスホエノールピルビン酸などでみられます。
低分子GTP結合タンパク質(低分子GTPアーゼ、Rasスーパーファミリー)
GTP結合タンパク質で、低分子量(20-25kDa)のものです。
狭義のGタンパク質(3量体型Gタンパク質)と、構造や機能が似ていますが、異なる点も多いです。
細胞の増殖・分化・運動、脂質小胞の輸送など、細胞内の様々な機能の調節に関与します。
GTPを結合し、加水分解してGDP(グアノシン二リン酸)とし、
さらにそのGDPをGTPに交換することで、細胞内シグナル伝達のスイッチ機能を果たします。
GDP/GTP交換タンパク質(GEF)と、GTPアーゼ活性化タンパク質(GAP)の調節を受けながら、
GTPとGDPを結合した状態が、それぞれオン/オフに相当する分子スイッチとして機能しています。
Rasスーパーファミリーは、100種類以上が知られており、5つのサブファミリー、Ras、Rho、Rab、Arf、Ranに分けられます。
Rasファミリー:チロシンキナーゼ型受容体からのシグナル伝達経路にあり、細胞増殖調節に関与します。
Rhoファミリー:細胞骨格の制御に関与します。RhoA、Rac1、Cdc42など。
Rabファミリー:小胞輸送に関与します。
Arfファミリー:小胞輸送に関与します。
(以上は、脂質修飾(プレニル化)を受けて膜に局在します)
Ranファミリー:核と細胞質の間の輸送に関与します。
低分子GTP結合タンパク質の一種で、
転写や細胞増殖、細胞の運動性獲得、アポトーシスの抑制など数多くの現象に関わっている分子です。
Ras遺伝子は原がん遺伝子の一種で、Rasの異常は細胞のガン化に関わります。
Rasは、大きさ約21kDaで、
GTPまたはGDPが結合する部位と、
PI3キナーゼ(PI3K)やRaf、Ral-GEFと相互作用するためのエフェクターループと呼ばれる部位があります。
また、C末端側には脂質の尾部をもち、細胞膜につなぎとめられるようになっています。
不活性なRasは、GDPと結合していますが、これがグアニンヌクレオチド交換因子(GEF)により、GTPと交換されると活性化します。
活性化されたRasは、GTase活性化タンパク質(GAP)と結合すると、GTPを加水分解してGDPに変えることで不活性型となります。
すべての受容体型チロシンキナーゼ(チロシンキナーゼ受容体)(RTK)が、何らかの分子を介してRasを活性化します。
EGF(上皮増殖因子)の場合、受容体に基質が結合してEGF受容体のチロシン残基がリン酸化されると、
Grb2というタンパク質が引き寄せられ、活性化したEGF受容体に結合します。
すると、Sosが結合して活性化します。
Sosは、Ras-GEFとして、RasのGDPをGTPに交換してRasを活性化します。
Rasは様々なシグナル伝達に関わっていますが、
Rasが活性化する主なものに、RafとPI3K、Ral-GEFがあります。
Raf経路(MAPキナーゼ経路)
この経路は、転写など細胞の増殖に重要です。
タンパク質のリン酸化が続く経路のため、MAPキナーゼ経路ともいいます。
まず、Raf(MAPキナーゼキナーゼキナーゼ)が、活性化したRas(RAS-GTP)と会合すると、Mekをリン酸化して活性化します。
活性化したMek(MAPキナーゼキナーゼ)は、さらにErk(MAPキナーゼ)をリン酸化して活性化します。
Erkが、転写やタンパク質の合成に関わる分子群(MAP:mitogen-activated protein)を活性化します。
PI3K経路
この経路はアポトーシスの抑制や、細胞の大きさの成長で重要です。
PI3Kの経路では、PIP3(ホスファチジルイノシトール三リン酸)という、タンパク質でないセカンドメッセンジャーを介して行われます。
まず、PI3キナーゼ(PI3K)がRasと会合すると、細胞膜にあるリン脂質中のPIP2(ホスファチジルイノシトール二リン酸)をリン酸化することで、PIP3を生じます。
PIP3は、Akt(プロテインキナーゼB)や、Rho-GEF(RhoのGDPをGTPに交換する分子)を活性化します。
Aktは、アポトーシスを促進するBadや、増殖を抑えるGSK-3β、細胞の成長を抑えるTsc2、などを阻害することで、細胞の増殖・成長を助けます。
Rhoは、Rhoファミリーに属し、Rasと同様GTPによって活性化された後、細胞骨格の立体配置の変換や、細胞の周囲環境との物理的接着に関与します。
RasはRho-GEFに働きかけ、RhoのGDPをGTPに交換し、細胞の運動性を変化させます。
PIP3の濃度は、その脱リン酸酵素であるPTENにより低く抑えられており、PI3Kの経路が過度に活性化されないようになっています。
Ral-GEF経路
この経路は、細胞の運動性の調節に関わるようです。
RalはRasファミリーに属し、GTPと結合すると活性化され、GDPに変換されると不活性化します。
RalのGDPをGTPに交換するのがRal−GEFで、これはRasによって活性化されます。
Rasは、
不活性な状態ではGDP分子と結合している、
シグナル経路の上流から刺激性のシグナルを受け取るとGDPがGTPとなり活性化する、
活性化して短時間の後、自ら持つGTPase活性を用いてGTPを分解して不活性型に戻る、
など、Gタンパク質と似た点があります。
しかし、Gタンパク質は、α, β, γの3つのサブユニットからなる分子量の比較的大きなタンパク質であり、Gタンパク質共役受容体(GPCR)によって活性化されますが、
Rasは、サブユニットをもたない単一の分子量の小さなタンパク質で、受容体型チロシンキナーゼにより活性化される点で異なっています。
リン脂質(グリセロリン脂質)
構造中にリン酸エステルをもつ脂質ですが、ここでは、グリセロリン脂質を扱います。
グリセロリン脂質は、グリセリンを中心骨格として、脂肪酸とリン酸が結合し、さらにリン酸にアルコールがエステル結合した構造をもちます。
グリセリン(グリセロール、1,2,3-プロパントリオール)は、示性式 C3H5(OH)3で表される3価のアルコールです。
グリセロリン脂質の生成
まずアルコール(コリン・エタノールアミン・セリン・イノシトール・グリセリンなど)が、キナーゼとATPによって、リン酸エステル化されます。
CTPと反応し、活性アルコールとなります。
これが1,2-ジグリセリドと反応して生成します。
リン脂質は、自己組織化によって、糖脂質やコレステロールと共に脂質二重層を形成し、細胞膜の主な構成要素となる他、
細胞膜内外の物質移動に用いられる小さな脂質ベシクル(リポソーム)を形成します。
また、リン脂質がホスホリパーゼA2などの酵素によって分解されて生じる、
ホスファチジン酸やリゾホスファチジン酸、アラキドン酸などの各種脂肪酸は、シグナル伝達において重要な役割を担っています。
尚、解糖系で作られたジヒドロキシアセトンリン酸が還元されると、L-グリセロール-3-リン酸が生成し、
トリグリセリド(トリアシルグリセロール。1分子のグリセリンに、3分子の脂肪酸がエステル結合したアシルグリセロール)を作る原料となります。
レシチン(ホスファチジルコリン、Phosphatidylcholine) CTP リン脂質
グリセロリン脂質の一種。コリン、グリセロリン酸、脂肪酸から構成され、生体膜の主要構成成分です。
アルコールとしてコリンを含みます。細胞膜の、外葉にみられます。
すべての植物と動物細胞にみられますが、
大腸菌を含む、ほとんどの真正細菌の細胞膜には存在しません(真正細菌では、PE)。
レシチンというと、リン脂質を含む脂質製品のことを指す場合があります。
レシチンには、油を水に分散させてエマルションを作る乳化力や、皮膚や粘膜から物質を透過吸収する浸透作用があります。
体内で脂肪が血液中を移動する時、タンパク質と脂肪の結合にレシチンを必要とします。
細胞膜が媒介する(mediated)細胞シグナルで役割を演じます。
(phosphatidylcholine transfer protein (PCTP))によって、細胞膜間を輸送されると考えられます。
ホスホリパーゼDは、ホスファチジルコリンを加水分解して、ホスファチジン酸を形成する反応を触媒します。
ホスファチジルエタノールアミン(Phosphatidylethanolamines。PE) CTP リン脂質
アルコールとしてエタノールアミン(2-Aアミノエタノール)を含み、主に脂質二重層の内葉でみられます。
SAM(S-アデノシルメチオニン)により、ホスファチジルエタノールアミンがメチル化し、ホスファチジルコリンとなります。
ホスファチジルエタノールアミンは、全生物でみられ、リン脂質の25%を構成します。
ヒトでは、脳白質など神経系組織でみられ、リン脂質すべての45%です。
細胞膜の屈曲(curvature)を制御すると考えられています。
細胞融合や細胞分裂の細胞質分裂で、収縮環として役割を持ちます。
生命代謝経路(biological pathways)で、重要な前駆体、基質、ドナー(供与体)としての働きもあります。
真正細菌では、ホスファチジルエタノールアミンが、主要なリン脂質です。(レシチンは、動物での主要なリン脂質)
アニオンを持つリン脂質によって生じた負電荷を、拡散(spread out)します。
大腸菌では、ラクトース(乳糖)を細胞に取り込む、ラクテートパーミアーゼ(透過酵素)の能動輸送をサポートするなど、輸送システムをサポートします。
パーミアーゼや他の膜タンパクの会合、
膜タンパクが適切に機能するように、三次構造の折りたたみを手伝うシャペロンとしての役割もあります。
PE合成経路
CDPエタノールアミン経路は、細胞質と小胞体で、エタノールアミンから産生されます。
ホスファチジルセリン脱炭酸経路は、ミトコンドリア膜での主な合成経路で、他の細胞膜にも輸送されます。
この経路は、ミトコンドリア内膜で起こりますが、ホスファチジルセリンは小胞体で作られます。
そのため、ホスファチジルセリンを小胞体からミトコンドリアへ輸送する段階が律速段階です。(詳細不明)
ホスファチジルセリン(PS) リン脂質
アルコールとしてセリンを含み、フリッパーゼという酵素によって細胞膜の内葉に存在します。
細胞にアポトーシスが起こると、ホスファチジルセリンは、細胞の表面に露出するようになります。
ホスファチジルエタノールアミンをカルボキシル化した構造を持ちます。
真正細菌において、セリンと、CDPによって活性化されたホスファチジン酸が縮合することによって生合成されます。
代謝における単糖の活性型です。
糖ヌクレオチドは、ヌクレオチド三リン酸と、グリコシル一リン酸との反応で合成されます。
グリコシル基供与体として作用するためには、その単糖が高いエネルギーを持たなければならないため、糖ヌクレオチドとなる必要があります。
糖ヌクレオチドは、グリコシル化では糖の供給源となり、この反応はグリコシルトランスフェラーゼによって触媒されます。
グリコシルトランスフェラーゼは、グリコシル基を糖ヌクレオチドから受容体に転移させる酵素です
動物には、グリコシル基供与体として9種の糖ヌクレオチドが存在します。
ウリジン二リン酸 : ウリジン二リン酸グルコース、ウリジン二リン酸ガラクトース、ウリジン二リン酸グルクロン酸、
ウリジン二リン酸-N-アセチルグルコサミン、ウリジン二リン酸キシロース UTP
グアノシン二リン酸 : グアノシン二リン酸マンノース、グアノシン二リン酸フコース GTP
シチジン一リン酸 : シチジン一リン酸-N-アセチルノイラミン酸
植物とバクテリアでは、他にも多くの糖が用いられます。
シチジン二リン酸グルコースと、チミジン二リン酸グルコース、が多くみられ、
他にも多くのCDP、TDP-糖が供与体ヌクレオチドとして存在します。 CTP
ウリジン二リン酸グルコース(UDP-グルコース) UTP アスコルビン酸
ピロリン酸基、リボース、ウラシル、グルコースから構成される、糖ヌクレオチドです。
UDP-グルコースは、グルコースの活性化した形で、代謝系でグリコシルトランスフェラーゼの基質となります。
グリコーゲンの前駆体や、
UDP-ガラクトースやUDP-グルクロン酸に変換されて、ガラクトースやグルクロン酸を含む多糖の原料になります。
さらに、リポ多糖や、スフィンゴ糖脂質の原料にもなります。
ウリジン二リン酸ガラクトース(UDP-ガラクトース) UTP
糖ヌクレオチドの一種です。
多糖の生合成の中間体であり、また糖類の代謝の際にも活性型の中間体として重要な役割を果たします。
ガラクトース-1-リン酸ウリジリルトランスフェラーゼにより、UDP-グルコースとガラクトース-1-リン酸から、UDP-ガラクトースとグルコース-1-リン酸が作られます。
UDP-ガラクトース-4-エピメラーゼにより、UDP-グルコースからUDP-ガラクトースに異性化されます。
これらの反応は、ルロワール経路(ガラクトースが、UDP誘導体を経由し、グルコース-6-リン酸へ変えられる経路)の一部です。
また、ラクトースシンターゼにより、UDP-ガラクトースとグルコースからラクトースが合成されます。
ウリジン二リン酸グルクロン酸(UDP-グルクロン酸) UTP
UDPに、グルクロン酸がグリコシド結合した、糖ヌクレオチドです。
グルクロン酸は、炭素数6個のグルコースの骨格と、C6位のカルボキシ基をもつ糖(ウロン酸)です。
UDP-グルコースから、NAD+を補因子として、UDP-グルコース-6-デヒドロゲナーゼによって作られます。
多糖の合成に使われる糖の一つで、
グルクロン酸と、N-アセチルグルコサミンが結びついた二糖が単位となった多糖は、
ヒアルロン酸(グリコサミノグリカン(ムコ多糖)の一種で、生体内の細胞外マトリックスに見られます)です。
アスコルビン酸の生合成の中間生成物でもあります。
ラクトン構造を持つ有機化合物の一種。フランの誘導体ともみなせます。
光学活性化合物であり、ビタミンCは、L体です。
アスコルビン酸は還元性を示し、酸化剤(酸素やハロゲンなど)の作用により、プロトンを2個放出して酸化型のデヒドロアスコルビン酸に変わります。
グルコースから、UDP-グルコースや、UDP-グルクロン酸などを経て合成されますが、最終段階を触媒する、
ビタミンC合成酵素(L-グロノラクトンオキシダーゼ)の遺伝子活性は、ヒトでは失われており、ビタミンC合成能力はありません。
霊長目でこの酵素の活性が失われたのは、約6300万年前であり、直鼻猿亜目(酵素活性なし、ヒトなど)と、曲鼻猿亜目の分岐が起こった頃のようです。
ビタミンCは、コラーゲンの合成に関与しています。
コラーゲンは、プロリン・リジン残基を含むタンパク質が合成された後、
プロリン・リジンが、酸化酵素によりヒドロキシ化を受けて、ヒドロキシプロリン・ヒドロキシリジンに変化します。
これらは水素結合によって結合し、コラーゲンの3重ラセン構造を保つ働きがあります。
この反応の際に、ビタミンCを補酵素として必要とします。
ビタミンCは、水溶性で、強い還元能力を有し、過酸化水素(H2O2)などの活性酸素類を消去します。
過酸化水素の消去は、グルタチオン-アスコルビン酸回路によって行われます。
ビタミンCがデヒドロアスコルビン酸に酸化されても、各種酵素により、ビタミンC(アスコルビン酸)に還元され、再生されます。
ビタミンCは、ビタミンEの再生機能もあります。
その他、
生体異物を代謝するシトクロムP450の活性化、
チロシンからノルアドレナリンへの代謝(ドーパミンヒドロキシラーゼ)、
消化器官中で鉄イオンを2価に保つことによる、鉄の吸収促進、
脂肪酸の分解に関与するカルニチンが、リジンから生合成される過程のヒドロキシ酵素の補酵素、
コレステロールをヒドロキシ化し、7α-ヒドロキシコレステロールを経た胆汁酸の合成、等があります
ビタミンC(の酸化型であるデヒドロアスコルビン酸)の細胞内輸送を担当するものは、ナトリウム-グルコース共輸送体タンパクである、GLUT1です。
ビタミンE(トコフェロール)
脂溶性ビタミンの一種で、トコールのメチル化誘導体です。
D-α-トコフェロールは、自然界に普遍的に存在し、植物、藻類、藍藻などの光合成生物により合成されます。
ヒトではD-α-トコフェロールが最も強い活性をもち、主に抗酸化物質として働くと考えられています。
抗酸化物質としての役割は、代謝によって生じるフリーラジカルから細胞を守ることです。
ビタミンEは、脂質中のフリーラジカルを消失させ、自らがビタミンEラジカルとなり、フリーラジカルによる脂質の連鎖的酸化を阻止します。
発生したビタミンEラジカルは、ビタミンCなどの抗酸化物質により、ビタミンEに再生されます。
ラジカル(フリーラジカル)
不対電子をもつ原子や分子、イオンです。
ラジカルは、反応性が高いため、生成するとすぐに他の原子や分子との間で酸化還元反応を起こし、安定な分子やイオンとなろうとする性質があります。
ラジカルに1電子を奪われた分子が他の分子から電子を引き抜くと、その分子がさらにラジカルを形成するため、反応は連鎖的に進行します。
このような反応をラジカル連鎖反応といい、ラジカル同士が反応して共有結合を生成するまで続きます。
スーパーオキシド(O2-)、ヒドロキシラジカル(・OH)、過酸化水素(H2O2)などの活性酸素類があります。
フリーラジカルは、DNAやタンパク質を攻撃し、
また、脂質過酸化反応により脂質を連鎖的に酸化させるため、非常に有害です。
細胞内での発生源は、主にミトコンドリアですが、ここにビタミンCが蓄積し、ミトコンドリアのゲノムと膜を保護します。
ビタミンEは、脂質中のフリーラジカルを消失させます。