解糖系

 

 解糖系は、グルコースをピルビン酸に分解することで、グルコースに含まれるエネルギーを生物が使いやすい形に変換する代謝です

 ほとんど全ての生物が解糖系を持っており、反応は、全て細胞質基質で起こります

これは解糖系が細胞内小器官が発生する以前から存在する最も原始的な代謝系であることを示唆します

嫌気状態(無酸素状態のことです。)でも可能な代謝系の代表的なものです

 

 代表的なものに、エムデン-マイヤーホフ経路(EM経路)があり真核生物嫌気性の真正細菌でみられます。

 エントナー-ドウドロフ経路(ED経路)好気性の真正細菌でよくられます。

 その他、核酸の生合成に必要なリボース5リン酸等を生成するペントースリン酸経路(PP経路)もあります

 

 古細菌解糖系は、ED経路、EM経路のどちらかが存在しますが、他生物と異なる点もあります

 ADP依存性グルコキナーゼなど特異な酵素が関与する、変形EM経路

 グルコースのリン酸化を伴わない非リン酸化経路、変形ED経路

 一部の経路がリン酸化せずに進行する部分リン酸化ED経路、などです

 

 真核生物では、解糖系で得られた物質をTCA回路電子伝達系の反応がおこるミトコンドリアに輸送し、好気呼吸を行います

 

 解糖系で得られたピルビン酸アセチルCoAや乳酸の材料となりますATPや、NADHの生産にも関係します

また、無酸素状態の場合に行われる、乳酸発酵やエタノール発酵は、

解糖系の過程で生じたNADHNAD+に再び酸化を行い、糖があれば解糖系が動き続けられようにするための経路と考えられています

 

エムデン-マイヤーホフ経路(EM経路) トップ

真核生物、嫌気性真正細菌の糖代謝系です。無酸素状態でもATPを生産することが可能です。

ATPの収支については、反応では4分子のATPが生成されますが、グルコースやフルクトース6リン酸のリン酸化のために2分子のATPが消費されので、

グルコース1分子当たりでは2分子のATPが生成されます

電子伝達系に用いられNADH2分子生産されます

 

解糖系の過程: 1分子のグルコースから2分子のピルビン酸が生成します

·           グルコース                            :  ATP投入

·           グルコース-6-リン酸

·           フルクトース-6-リン酸            :  ATP投入

·           フルクトース-1,6-ビスリン酸

·           ジヒドロキシアセトンリン酸 / グリセルアルデヒド3-リン酸 : 平衡の関係にあります

·           1,3-ビスホスホグリセリン酸    : NADH産生

·           3-ホスホグリセリン酸             :  ATP産生

·           2-ホスホグリセリン酸

·           ホスホエノールピルビン酸

·           ピルビン酸                            :  ATP産生

 

準備期 : 解糖系前半の5ステップです2分子のATPを使って、グルコースからグリセルアルデヒド3-リン酸 (G3P)への変換が行われます。

 

段階1: グルコースのリン酸化

ATPを投入して、グルコースリン酸化します。この反応はMg2+を必要とします。

細胞内のグルコース濃度は細胞外より低濃度に保たれていますが、

これは細胞外へのグルコースの流出を防ぎ、細胞内への膜輸送を促進するためと考えられています

 

段階2: グルコース 6-リン酸(G6P)の異性化

この反応もMg2+を必要とします。この反応は自由エネルギー変化が小さいですが生成したフルクトース 6-リン酸が、

次のステップでどんどん不可逆的に消費されるため、逆反応おこりにくくなっています

 

段階3: フルクトース 6-リン酸(F6P)のリン酸化

ATPを投入します。この反応は不可逆で、Mg2+を必要とします。

解糖系の基質はグルコースだけでなく、フルクトースなど他のヘキソースもありますが、すべての基質がこの反応から合流するため解糖系の重要な調節点です。

また、生成される、フルクトース1,6-ビスリン酸は解糖経路でしか代謝されないため、このステップの調節は解糖系のみを操作することになります

 

ほとんどの植物やあ種の原生動物や細菌では、同じ反応を触媒する酵素としてピロリン酸依存ホスホフルクトキナーゼ (PFPPPi-PFK)を使います

この酵素はF1,6BPの合成においてATPではなくピロリン酸(PPi)使用します。

 

段階4: 開裂

準備期の目的産物である、グリセルアルデヒド 3-リン酸 (G3P)と、ジヒドロキシアセトンリン酸(DHAP)を生成します。

 

段階5:トリオースリン酸の異性化

ジヒドロキシアセトンリン酸(DHAP)が、速やかにグリセルアルデヒド 3-リン酸 (G3P)に変換されます

この反応により、ヘキソース分子から2つのG3Pが生成され、解糖の準備期は終了します。

 

報酬期

 解糖系後半の5ステップです2分子のグリセルアルデヒド3-リン酸G3Pピルビン酸へ変換され、

グルコース1分子あたり4分子のADPATPへと変換されます。

 準備期で2分子のATPが消費されていますので、解糖系通じてのATPの純益は2分子となります。

 またグルコース1分子たり2分子のNADHが生成されます。

 

 段階6: グリセルアルデヒド3-リン酸G3Pの酸化

 このステップで、1分子のNAD+NADHに変換されます。

 

  段階7: 1,3-ビスホスホグリセリン酸からADPへのリン酸基の転移

解糖系の2つの基質レベルのリン酸化の内1で、ATPを生成します。この反応はMg2+を必要とします。

段階6と段階7は、ATPの生成は共役しており、反応全体では発エルゴン反応です。

 

段階8: リン酸基の分子内転移

この反応はMg2+を必要とします。

 

段階9: 2-ホスホグリセリン酸の脱水

ホスホエノールピルビン酸 (PEP)が生成されます。この反応には、Mg2+2つ必要とします。

 

段階10: ホスホエノールピルビン酸からADPへのリン酸基の転移

ピルビン酸ATPが生成します。この反応にはK+およびMg2+またはMn2+のどちらかが必要です

第二の基質レベルのリン酸化です。細胞内の条件では不可逆な反応で、重要な調節点の一つです。

 

変形EM経路

一部の古細菌が使用するEM経路に類似する代謝系です。

EM経路と比べると、グリセルアルデヒド3-リン酸からホスホグリセリン酸への経路がバイパスされる点が大きく異なります。

このため、この系で本来生み出されるATPが生成されませんが、

ホスホエノールピルビン酸の脱リン酸化の際に、ADPではなくAMPが消費されて、ATPが生成されるため、

総合的な収支としては通常のEM経路に等しくなります。

また、ホスホエノールピルビン酸の脱リン酸化の際に使用されるAMPは、

グルコース及びフルクトース6リン酸のリン酸化のために、ATPではなくADPが消費されることによって供給されます。

 

エントナー-ドウドロフ経路(ED経路) トップ

好気性の真正細菌によく見られ代謝系です。この系も無酸素状態で稼動します。

EM経路と同様グルコース1分子当たりピルビン酸2分子を生じ、無酸素状態の場合は乳酸やエタノールを生産します。

ATPの収支ではATP1分子とEM経路よりも系が単純な分効率は悪いです。ただしNADH2分子生産します。

 

一部の古細菌でもみられますが、グルコースのリン酸化を伴わない、または一部の経路がリン酸化せずに進行するため、非リン酸化または部分リン酸化ED経路といいます。

 

ペントースリン酸経路(PP経路) トップ

エネルギー生産系よりはむしろ物質生産を目的としてい系です。

脂質、リグニンの生産に必要なNADPHや、核酸の生合成に必要なリボース5-リン酸生成します

解糖系のグルコース-6-リン酸から出発して、同じく解糖系のグリセルアルデヒド3-リン酸へとつながっておりフルクトース6-リン酸も、生成されます

解糖系の一部とあわせて回路を形成していことから、ペントースリン酸回路とも呼ばれます

光合成における還元的ペントースリン酸経路(カルビン回路?)に対して、酸化的ペントースリン酸経路と呼ばれることもあります。

 

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