アセチルCoA・・・脂質と、タンパク質などをつなぐ物質。
ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体(PDC)
チオエステル・ワールド
ビタミンB群
複素環式化合物
アセチルCoAは、補酵素Aの末端のチオール基が、酢酸とチオエステル結合した有機化合物で、
β酸化やメバロン酸経路、クエン酸回路でみられ、脂質代謝やアミノ酸代謝、エネルギー代謝に関係します。
ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体( PDC )による脱炭酸で生成します。
アセチルCoAは、脂肪酸と、イソプレンという、細胞膜を構成する脂質の原料です。
更に、クエン酸回路の出発物質でもあります・・・つまり、アミノ酸(タンパク質)の原料にもなります・・・
オキサロ酢酸からは、糖新生にもつながります。
あと、核酸ともつながるのかな、と考えてみると・・・アセチルCoAの原料の一つである、補酵素Aは、
パントテン酸と、アデノシン二リン酸(ADP)、2-チオキシエタンアミンから構成されています。
補酵素Aの原料に、核酸がありました・・・
原料が核酸になるので、生命の起源は、核酸ワールド?と思いましたが、
パントテン酸の原料にも、βアラニンというアミノ酸があります・・・
ただし、αアラニンではなく、βアラニン、であるのは興味深いです。(生体のタンパク質は、基本的にα-アミノ酸でできています。)
また、補酵素には、結構、核酸(塩基)と、硫黄、が含まれているのも興味深いです。
硫黄といえば、黄鉄鉱(FeS2)表面の代謝系で生命が誕生した、とする説があります(表面代謝説)。
また、チオエステル・ワールド(ド・デューブ)、という
チオエステルが、ATPが登場する以前の生命?のエネルギー通貨であった、という説もあります・・・
チオールは、メルカプタンとも呼ばれ、水素化された硫黄を末端に持つ有機化合物で、R−SHで表される構造を持ちます。
チオエステルは、カルボン酸と、チオールが脱水縮合した構造 (R−CO−S−R') を持つ化合物です。
カルボン酸は、二酸化炭素の還元体とみなすことができます。
また、チオールには、硫黄が含まれます・・・
この説だと、大元は、水素と二酸化炭素、及び硫黄になりそうですが・・・詳細不明です。
尚、一部の嫌気性微生物は、アセチルCoA経路(Wood-Ljungdahl 経路)という、
水素と、二酸化炭素から、アセチルCoAを生成する経路を持っています。
ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体(PDC) アセチルCoA 補酵素A ピルビン酸
ピルビン酸とチアミン二リン酸(TPP)から、アセチルCoAを生成する反応を触媒する酵素複合体です。
この反応は、ミトコンドリアのマトリックスで起こります。
ピルビン酸デヒドロゲナーゼ(E1) :PDCの律速過程です。補因子は、TPPです。
始め、ピルビン酸とTPPが、E1に結合し、ピルビン酸は脱炭酸されます。
その後、α-リポ酸と結合し、TPPを放出します。
ジヒドロリポイルトランスアセチラーゼ(E2) :PDCの触媒作用を担う、中心的な酵素です。補因子は、α-リポ酸と CoAです。
E2で、リポ酸チオエステルと、CoAとの置換反応が起こり、アセチルCoAが生成されます。
生成されたアセチルCoAは、クエン酸回路に入ります。
尚、α-リポ酸は、カルボキシル基と、環状のジスルフィド(2個の硫黄原子がつながったもの)を含みます。
ジヒドロリポイルデヒドロゲナーゼ(E3) :補因子は、FADとNAD+です。
E3で、ジヒドロリポ酸は、FADによる酸化を受け、α-リポ酸に戻ります。
FADは、還元されてFADH2となり、その後NAD+によって酸化されてFADに戻ります。
結果、NADHが生成します。
補酵素A(CoA) アセチルCoA PDC ピルビン酸 ビタミンB群
補酵素Aは、パントテン酸と、アデノシン二リン酸(ADP)、及び 2-チオキシエタンアミンから構成されています。
補酵素Aの誘導体には、アセチルCoA以外にも、以下のように脂質代謝や糖代謝に重要なものがあります。
アセチル基( CH3CO− )が、アセチルCoAと結合したものです。
チオラーゼが触媒する、アセチルCoA 2分子の縮合反応によって生成します。
メバロン酸経路や、β酸化の最終段階でもみられます。
ヒドロキシメチルグルタリルCoA(HMG-CoA)
アセトアセチルCoAが還元されて生成されます。
メバロン酸経路の中心的な物質で、これがHMG-CoAレダクターゼによってメバロン酸となる反応が、
テルペノイド/ステロイド/カロテノイド合成の律速反応です。
プロピオニルCoAは、プロピオン酸(プロパン酸)と補酵素Aのチオエステル物質です。
奇数炭素鎖脂肪酸や、バリン、ロイシン、イソロイシン及びβ-アラニンの分解によって生成する中間体です。
これは、最終的にスクシニルCoAとなり、クエン酸回路に入ります。
マロン酸(プロパン二酸)と補酵素Aのチオエステル物質です。
酢酸-マロン酸経路と、脂肪酸合成でみられます。
酢酸-マロン酸経路では、アセチルCoAと縮合反応により、
ポリケチド(アセチルCoA等から始まり、マロニルCoAと反応してポリケトン鎖を合成した後、生成された物質。)
や、芳香族物質生合成の基質となります。
脂肪酸合成では、アセチルCoAがアセチルCoAカルボキシラーゼによってマロニルCoAとなります。
これは、ATPを消費する吸エルゴン反応で、脂肪酸合成の律速段階です。
この反応には、ビオチンが必須です。
マロニルCoAは、アシルキャリヤータンパク質 (ACP) と結合して炭素鎖が延長され、脂肪酸(誘導脂質)となります。
尚、マロン酸のジエステルは、活性メチレン化合物で、塩基によってメチレンプロトンを引き抜き、
求核剤であるカルバニオンを発生させることができるため、炭素-炭素結合の形成に使用されます(アセト酢酸エステル合成)。
・・・そのため、マロニルCoAが脂肪酸の炭素鎖延長反応に採用されたのでしょうか?(詳細不明)
スクシニルCoAは、コハク酸(ブタン二酸)と補酵素Aのチオエステル物質です。
クエン酸回路で、2-オキソグルタル酸と補酵素Aから生成され、コハク酸に変換されます。
スクシニルCoAは、クエン酸回路の中間体というだけでなく、クエン酸回路を調節する役割もあります。
これによってクエン酸シンターゼと2-オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼが、アロステリック効果により阻害を受けます。
スクシニルCoAは、脂肪酸代謝でも重要です。
偶数個の炭素をもつ脂肪酸は、
β酸化によりアセチルCoA単位に分割されてクエン酸回路に入ります。
一方、奇数個の炭素をもつ脂肪酸は、最後にプロピオニルCoAが残ってしまいます。
これを代謝するために、メチルマロニルCoAを経て(アデノシルコバラミンが必要です)
スクシニルCoAとなり、クエン酸回路に入ります。
ピルビン酸は、示性式が CH3C(=O)COOH と表されるカルボン酸で、
ピルビン酸は、酒石酸や硫酸水素カリウムの混合物の加熱や、
強力な酸化剤(過マンガン酸カリウムなど)による、プロピレングリコール(1,2-プロパンジオール)の酸化、
塩化アセチルとシアン化カリウムの反応によって得られる、シアン化アセチルの加水分解などによって合成されます。
また、生体内では、解糖系による、糖の嫌気性代謝で生成されます。
ピルビン酸は、グルタミン酸からアラニントランスアミナーゼによりアミノ基を転移されると、アラニン(アミノ酸)になります。
更に、アセチルCoAを介して、脂肪酸、アミノ酸、エネルギーを産生します。
また、ピルビン酸カルボキシラーゼと、
ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼの2種の酵素により、
オキサロ酢酸を経て、ホスホエノールピルビン酸に変換され、糖新生が行われます。
尚、ピルビン酸が嫌気的に分解されると、
動物では、乳酸脱水素酵素による還元で、乳酸が産生します。
植物や微生物では、アセトアルデヒドを経てエタノールへと変換されます。
これらは、NADHをNAD+に再び酸化を行い、
糖があれば解糖系が動き続けられるようにするための経路、と考えられています・・・
いろいろ、複雑に絡み合っていますね・・・
チアミン :ビタミンB1。ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体や、トランスケトラーゼの補酵素。アルデヒド基転移。
リボフラビン :ビタミンB2。FAD。酸化還元。
ナイアシン :ビタミンB3。NAD。酸化還元。
パントテン酸 :ビタミンB5、と呼ばれていました。補酵素A。
ビオチン :ビタミンB7。カルボキシル基転移酵素の補酵素。
シアノコバラミン :ビタミンB12。メチオニン合成や、メチルマロニルCoAをスクシニルCoAへ異性化。
活性型は、チアミン二リン酸TPPで、アルデヒド基転移の運搬体として働きます
ペントースリン酸経路でのトランスケトラーゼ、などの補酵素でもあります。
リボフラビン ビタミンB2 、ラクトフラビン
ヘテロ環状イソアロキサジン環に、糖アルコールのリビトールが結合したものです。
FAD(フラビンアデニンジヌクレオチド)は、リボフラビンの補酵素型です。
FAD は、FMN(リボフラビンにリン酸基が結合したもの)に、アデノシン一リン酸(AMP)が結合した構造をもちます。
フラビン酵素は、糖・アミノ酸・脂肪酸の中間代謝、酸化的リン酸化など、多くの酸化還元反応を触媒します。
クエン酸回路(コハク酸:FAD酸化還元酵素(呼吸鎖複合体III))や、電子伝達系(呼吸鎖複合体I)、にも関わります。
ナイアシン ビタミンB3 ニコチン酸とニコチン酸アミド
生体内では、ナイアシンは、トリプトファン、から合成されます。
ナイアシンは、糖質・脂質・タンパク質の代謝に不可欠で、
エネルギー代謝中の酸化還元酵素の補酵素として重要です。
ニコチンアミドは、ナイアシンが原料です。
NAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)は、ニコチンアミドヌクレオチドと、アデノシンからなります。
PDCの他、
エムデン-マイヤーホフ経路 (グリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素)、
クエン酸回路 (イソクエン酸脱水素酵素、α-ケトグルタル酸脱水素酵素、リンゴ酸脱水素酵素)、
電子伝達系 (呼吸鎖複合体I(NADH脱水素酵素複合体))、
嫌気呼吸 (乳脱水素酵素、アルコール脱水素酵素、グリセロール3リン酸脱水素酵素)、
にも関わります。
パントイン酸に、βアラニンが結合したものです。
補酵素Aの原料です。
アシルキャリアプロテイン(ACP)の補因子(4'-ホスホパンテテイン)でもあります。
ACPにアセチル基が結合したアセチルACPと、マロニルCoAから脂肪酸が生成されます。
(脂肪酸生合成の出発物質は、アセチルCoAです)
ピリドキシン ビタミンB6
ビタミンB6には、他に、ピリドキサール、ピリドキサミン、があります。
構造に、ピリジンを含みます。
ビタミンB6の活性型は、ピリドキサールリン酸で、
アミノ酸のすべてのアミノ基転移、
いくつかの脱炭酸と脱アミノを行う補酵素です。
D-[(+)-cis-ヘキサヒドロ-2-オキソ-1H-チエノ-(3,4)- イミダゾール- 4-吉草酸]
カルボキシル基転移酵素の補酵素として働きます。
葉酸 ビタミンB9、ビタミンM、プテロイルグルタミン酸
プテリジンに、パラアミノ安息香酸(芳香族カルボン酸かつアミン)と、グルタミン酸、が結合した構造を持ちます。
葉酸は、体内で還元を受け、ジヒドロ葉酸を経て、テトラヒドロ葉酸に変換されて補酵素として働きます。
テトラヒドロ葉酸は、特にアミノ酸と、核酸の代謝に関わる補酵素です。
これは、ホルミル基 (−CHO)、ホルムイミノ基 (−CH2NH-)、メチレン基 (>CH2)、メチル基 (−CH3) など、
1つの炭素原子を含む断片をドナー分子から受け取り、それをアミノ酸や核酸合成の中間体へ渡す役割を担います。
シアノコバラミン ビタミンB12
ビタミンB12は他に、ヒドロキソコバラミンなどがあります。
コリン環と、ヌクレオチドの構造をもつ、コバルトの錯体です。
コリン環は、ピロール 環4個が炭素原子1個ずつをはさんで結合した環(テトラピロール環)です。
補酵素型は、メチルコバラミンと、アデノシルコバラミンです。
メチルコバラミンは、5-メチルテトラヒドロ葉酸ホモシステインメチル基転移酵素(MTR。メチオニン合成酵素)、
アデノシルコバラミンは、メチルマロニルCoAムターゼ(メチルマロニルCoAを、スクシニルCoAへの異性化を触媒する酵素)、の補酵素です。
2種類以上の元素により構成される、環式化合物です。ビタミンB群は、パントテン酸(B5)以外は、窒素を含む環状構造を持ちます。
ピロール :5員環で、窒素原子を1つ含みます。シアノコバラミン(B12)などがあります。
ホスホール :5員環で、リン原子を1つ含みます。
フラン :5員環で、酸素原子を1つ含みます。環状エーテル、でもあります。
チオフェン :5員環で、硫黄原子を1つ含みます。
イミダゾール :5員環で、1,3位ともに窒素原子を持ちます。ビオチン(B7)などがあります。
オキサゾール :5員環で、1位に酸素、3位に窒素原子を持ちます。
チアゾール :5員環で、1位に硫黄、3位に窒素原子を持ちます。 チアミン(B1)などがあります。
ピリジン :6員環(ベンゼン)で、窒素原子を1つ含みます。ナイアシン(B3)、ピリドキシン(B6)などがあります。
ピリダジン :6員環で、1,2位に窒素原子を持ちます。
ピリミジン :6員環で、1,3位に窒素原子を持ちます。核酸塩基の、シトシン、チミン、ウラシルや、チアミン(B1)などがあります。
ピラジン :6員環で、1,4位に窒素原子を持ちます。プテリジンに含まれます。
プテリジン :ピリミジンと、ピラジンが、結合の一辺を共有した構造を持ちます。 葉酸(B9)などがあります。
また、リボフラビン(B2)は、イソアロキサジン環(プテリジンを含みます)構造を持ちます。
プリン :ピリミジンと、イミダゾールが、結合の一辺を共有した構造を持ちます。核酸塩基の、アデニン、グアニンなどがあります。
インドール :ベンゼンと、ピロールが縮合した構造を持ちます。アミノ酸の、トリプトファンなどがあります。