嫌気・・・エネルギー代謝の起源について

 

 

エネルギー代謝には、好気呼吸の他に、嫌気呼吸があります。

嫌気呼吸(けんきこきゅう)は、最終電子受容体に酸素を用いないでエネルギーを産生するものです。

効率は、好気呼吸38 ATPを生成すると考えた場合、グルコースの自由エネルギー(ΔG´°、–2873.4 kJ/mol)の約41.7%を産生します。)に比べると極めて低いです。

 

しかし、地球が誕生した頃は、酸素がほとんどなかったと考えられますので

(原始大気の組成は二酸化炭素、窒素、水蒸気と考えられています。原始海の組成はわかりません。参考、現在の)、

生命が誕生した当初は、嫌気呼吸を行っていたと思われます。

 

嫌気呼吸には、嫌気的解糖硝酸塩呼吸硫酸塩呼吸炭酸塩呼吸その他、があります。

 

Deep sea vent hypothesisMichael Russellによると、

アルカリ熱水孔(alkaline vents)が生み出したプロトン駆動力(proton-motive force)が、生命の人工ふ化場?(hatchery for life)に理想的のようです・・・

嫌気呼吸はどれも、プロトン勾配を使っていますね・・・

プロトン勾配を形成するためには、細胞膜(と、プロトンポンプ)が必要ですが、その起源は???ですが。

 

解糖系は、好気呼吸の時に電子伝達系でプロトン勾配を使っています・・・嫌気的解糖は、どちらかというとNADHを再酸化することが目的のようですが・・・

解糖系は、もともとは、エネルギー産生のための系というよりは、糖生成

(グルコースだけでなく、ペントースリン酸経路に入って核酸の構成糖の生成にも関わります。)をするための系だった、という気がします。

 

余談ですが、クエン酸回路には、アミノ酸またはその生合成に関わる物質を生産する、という役割もあります。

また、還元的クエン酸回路、というものがあり、好気呼吸を行わないのに、クエン酸回路の酵素群をもつ生物がいます。

更に、アミノ酸が異化されると、すべてクエン酸回路の物質(前駆体)になります。

以上より、クエン酸回路は、もともとはアミノ酸生成をするための系だった、という気がします。

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  嫌気的解糖

無酸素状態での解糖系の経路です。グルコースからピルビン酸まで分解した後、アルコールや乳酸等に分解してエネルギーを産生します。

主な目的は、嫌気状態でもATPの生産を行うこと、また再び解糖系を稼動させるためにNADHの酸化を行うことにあります。

  乳酸発酵                        2つのATPを生成します。

  アルコール発酵            2つのATPを生成します。

酢酸発酵                   : アルコールの酸化を伴う反応で、2NAD+NADHに還元します。

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  硝酸塩呼吸異化的硝酸還元)

無酸素状態で硝酸塩を最終電子受容体として用い、一酸化窒素(NO)、亜酸化窒素(N2O)、窒素(N2)などに変換してエネルギーを産生するものです。

硝酸塩呼吸は、電子伝達系を用いる反応系です。

しかし、還元型シトクロムCは、呼吸鎖複合体IVによって酸化を受けず、硝酸塩呼吸に特有な酵素群への電子供与体となります。

電子伝達系が稼動することにより、好気呼吸鎖と同じ系が働くこととなりますが、放出されるプロトンは好気呼吸鎖の約半分です。

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  硫酸塩呼吸(異化的硫酸塩還元) 

 無酸素状態で硫酸イオン(SO4-の還元を行い、最終的に硫化水素(H2Sに変換してエネルギーを産生するものです。

硫酸塩呼吸を行う生物は、硫酸還元細菌と硫酸還元古細菌のみです。

硫酸塩呼吸も電子伝達系を用いますが、電子およびプロトン濃度勾配の供給をグルコースからではなく、

水素から行う反応系を持っています。

電子は、膜結合型シトクロムC3、電子伝達鎖、フェレドキシンを経て、

ATPで活性化されたアデニリル硫酸(APS)および亜硫酸(SO3-)に電子伝達が行われ、最終的に硫化水素にまで還元されます。

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炭酸塩呼吸 

水素や酢酸などの電子を用いて、最終的に二酸化炭素をメタンにまで還元する反応です。

この反応系を持つのは、古細菌であるメタン菌群と、アルカエオグロブス属のみです。

嫌気環境における有機物分解の最終段階の代謝系であり、メタン菌は他の生物ではみられない特異な酵素と補酵素群を持ちます。

 

メタン生成の基質は、水素と二酸化炭素・ギ酸・酢酸・メタノール・メチルアミン・一酸化炭素、等です。

この中で最も普遍的に存在するのが、水素と二酸化炭素を資化する、メタン発酵です。

 

水素と二酸化炭素からメタン生成を行うときに得られるエネルギー変化は、ΔG°= -131kJ/molしかありません。

そのため、基質レベルでATPの合成が不可能なため、ATPの合成は、ATP合成酵素にてプロトンとナトリウムイオンの濃度勾配を用いて合成されます。

ナトリウムイオン濃度勾配は、直接ATP合成に使用される場合もありますが、Na+ - H+ トランスポーターによってプロトン濃度勾配に変化できます。

 

水素、二酸化炭素からのメタン生成系に関係する酵素系や補酵素は、メタノールや酢酸からのメタン生成系に共通するものも存在します。

ただし、二酸化炭素を固定する炭酸固定反応をもつのは水素からのメタン生成系だけで、他のメタン生成系では二酸化炭素を放出します。

 

メタン菌について。これは、嫌気条件でメタンを合成する古細菌(ユリアーキオータ門)です。

起源は古いと推測されており、35億年前の地層(石英中)から、生物由来と思われるメタンが発見されています。

メタン菌をはじめ、複数の原核生物が共生することによって真核生物になった、という説もあります。

特にメタン菌を真核生物本体の起源とする説を、水素仮説といいます。

土星の衛星であるタイタンなど、大気の成分にメタンが含まれる惑星や衛星が存在し、地球外生命としてメタン菌が存在する可能性もあります。

 

メタン生成によるエネルギー獲得の一般的な基質は、二酸化炭素です。この他、酢酸等、多様な炭素源をメタンへ変換できるものも存在します。

 

水素酢酸は、自然環境における基質として非常に重要です。

そのため、嫌気環境においては、真正細菌とメタン菌は競合関係にあります。

一方、酢酸を生成する真正細菌と共生しているケースもあり、この点で高度好塩菌や好熱古細菌とは異なっています。

 

水素は、嫌気性細菌の有機酸を電子供与体とした脱水素反応の産物です。

更に、深海熱水孔などからも水素は発生しています。

酢酸は、低級脂肪酸からの分解を含む発酵の最終段階の反応です。

 

水素と酢酸を利用する他の生物には、

二価鉄を電子受容体として生育する鉄細菌

硫酸イオンを電子受容体として生育する硫酸還元菌(硫酸塩呼吸)、

水素と炭酸塩から酢酸を生成する酢酸生成菌、があります。

 

 エネルギー獲得効率は、鉄細菌が特に優れており、電子受容体として鉄が存在する場合は、鉄細菌(水素を電子供与体とした時、ΔG0 = 914 kJ/mol)が優占します。

同様に硫酸イオンが存在する場合は、硫酸還元菌(同、−152 kJ/mol)が優占します。

鉄も硫酸イオンもない環境で、水素が豊富な環境で初めてメタン菌(同 −135 kJ/mol)が増殖可能となります。

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他の嫌気呼吸について 

 フマル酸呼吸TMAO(トリメチルアミンオキサイド)、DMSO(ジメチルスルフォキシド)などがあります。

トッ

 

 

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