脂質・・・細胞膜の起源を考える。
原核生物には、真正細菌と古細菌があります。
真正細菌の細胞膜は、グリセロール-3-リン酸の脂肪酸エステル、でできていますが、
古細菌の細胞膜は、グリセロール-1-リン酸のイソプレノイドエーテル、です。
このように、細胞膜は、単に外界との境界というだけではなく、
生物を特徴付けるものの一つであり、主な成分の脂質はとても興味深いです。
・・・細胞膜の起源は、何だったのでしょうか?
・・・そこで、脂質について、調べてみました。
脂質は、生物由来の水に溶けない物質で、単純脂質・複合脂質・誘導脂質に分類されます。
細胞膜の脂質二重層の主な構成要素であり、生体内での情報伝達にも関わります。
単純脂質: アルコールと脂肪酸のエステルです。
アルコールには、直鎖アルコールの他、グリセリン、ステロールなどが、
脂肪酸には、飽和脂肪酸や不飽和脂肪酸があります。
アシルグリセロール
セラミド
複合脂質:リン酸や糖を含む脂質で、グリセリンまたはスフィンゴシンが骨格となります。
リン脂質
グリセロリン脂質
スフィンゴリン脂質
糖脂質
グリセロ糖脂質
スフィンゴ糖脂質
スルホ脂質
誘導脂質- 単純脂質や複合脂質から、加水分解によって誘導される化合物です。
脂肪酸
イソプレノイド
アルコールと脂肪酸のみがエステル結合してできている脂質です。
生物では、エネルギーの貯蔵や組織の保護などに利用されます。
アシルグリセロールは、アルコールとしてグリセリンをもちます。グリセリド(グリセライド)ともいいます。中性脂肪ということも多いです。
また、長鎖アルコールを持つものは、蝋(ろう。ワックス)といいます。動物や植物表面に多く見られ、保護物質として働いています。
セラミドは、スフィンゴシンというアミノアルコールが、脂肪酸とアミド結合したものです。
セラミドには、シグナル伝達物質として、細胞の分化、増殖、アポトーシスを制御する作用もあります。
古細菌でみられるエーテル型脂質のアルキルエーテルアシルグリセロールもここに分類されます。
グリセリンとスフィンゴシンでは、グリセリンの方が、起源が古いと思います。
セラミドの役目(細胞の分化や増殖など)から考えると、セラミドは多細胞生物で発達したようですね
・・・アポトーシスは、原核生物(単細胞生物)ではありえないと思います(どう考えても、百害あって一利なしです)。
エステルとエーテルの、役割の違いは分かりません・・・
エステルは、すぐ加水分解されてしまうようですね・・・
エーテルの方が安定のようですが・・・どうでしょうね。
リン酸や糖などを含む脂質です。
両親媒性を持つものが多く、細胞膜の脂質二重層の主な構成要素です。生体内での情報伝達にも関わります。
複合脂質には、リン酸エステルを持つリン脂質と、糖が結合した糖脂質があります。
骨格となる分子は、グリセリンまたはスフィンゴシンであるため、グリセロ脂質とスフィンゴ脂質に分類することもあります。
グリセリン : 3価のアルコールです。
スフィンゴシン : 18個の炭素を持つ長鎖アミノアルコールです。パルミチン酸(16:0)とセリンから合成され、脂肪酸とアミド結合を形成します。
アルコールには通常窒素が含まれます。
アルコールの種類として、グリセリンや、セリン(アミノ酸ですが水酸基をもちます。)の他に、コリン・エタノールアミン・イノシトールなどがあります。
グリセリンやスフィンゴシンを中心骨格として脂肪酸とリン酸が結合し、さらにリン酸にアルコールがエステル結合した構造をもちます。
脂肪酸やアルコールの組み合わせによって多くの種類があります。
リン酸は、3価の酸であるため、3つのヒドロキシル基のうち2ヶ所が骨格とアルコールとエステル結合を形成しても、残り1ヶ所は電離してアニオンが生じます。
グリセリンのC1、C2位に脂肪酸が、C3位にリン酸がそれぞれエステル結合した分子をホスファチジン酸、
ホスファチジン酸からC2位の脂肪酸が外れた分子をリゾホスファチジン酸、といいます。
C1には飽和脂肪酸が、C2位には不飽和脂肪酸が結合している場合が多いです。
リン脂質は、疎水性の脂肪酸エステル部位と、親水性のリン酸アニオン部位が共存するために、両親媒性を示します。
水中では外側に親水性部を向け、内側に疎水性部同士が集まることで、ベシクル状の安定な脂質二重層を形成します。
細胞膜の主な構成成分となる他、細胞膜内外への物質移動に用いられる脂質ベシクル(リポソーム)を形成します。
脂質二重層は流体のような性質をもつため、中にあるリン脂質やタンパク質は面内方向に比較的自由に動くことができます。
また、ホスファチジン酸やリゾホスファチジン酸は、シグナル伝達にも重要な役割を担っています。
古細菌の細胞膜では、脂肪酸がエステル結合でなくエーテル結合したエーテル型脂質も存在します。
リン脂質には、グリセロリン脂質と、スフィンゴリン脂質、の2つがあります。
グリセロリン脂質は、まずアルコールがキナーゼとアデノシン三リン酸 (ATP) によってリン酸エステル化されます。
次にシチジン二リン酸 (CTP) と反応し、活性アルコールとなります。
これが1,2-ジグリセリドと反応することによって、グリセロリン脂質が生成します。
スフィンゴリン脂質は、スフィンゴシンから生成されますが、スフィンゴシンを経由しない経路もあるようです(詳細不明)。
主なリン脂質
ホスファチジルコリン : レシチンともいいます。アセチルコリン生合成経路でコリンの供給源となります。
ホスファチジルエタノールアミン : セファリン(ケファリン)ともいいます。
ホスファチジルセリン : 普段は細胞膜の細胞質側にありますが、アポトーシスが起こると細胞外に露出します。
ホスファチジルイノシトール : 細胞内シグナル伝達で、セカンドメッセンジャーとして働きます。
ホスファチジルグリセロール : 植物の葉などに多く含まれます。
ジホスファチジルグリセロール : カルジオリピンともいいます。
スフィンゴミエリン : ヒトで唯一のスフィンゴリン脂質で、髄鞘に多く含まれます。
糖脂質は、糖を結合した脂質です。エネルギーの供給や、細胞認識の標識として働きます。 複合脂質
糖脂質は細胞膜の表面でリン脂質と結合した状態で存在します。
脂質二重膜内部から膜表面へ突き出すように存在し、特定の化合物の認識サイトとして働いています。
この働きによって細胞膜が安定し、別の細胞と結合して組織を形成するのに役立っています。
尚、糖脂質は、細胞膜の二重層のうち外側にしか存在しません。
これは、細胞膜の形成時に糖を付加する酵素がゴルジ体の内部にしか存在しないこと、
糖脂質を外層から内層に輸送するフリッパーゼが存在しないことによります。
糖脂質には、グリセロ糖脂質やスフィンゴ糖脂質などがあります。
スフィンゴ糖脂質は、以下のようなものがあります。
セレブロシド : セラミドの1-ヒドロキシ残基に単糖が結合した構造を持ちます。
単糖はグルコースまたはガラクトースのいずれかで、各々グルコセレブロシド、ガラクトセレブロシドと呼ばれます。
ガラクトセレブロシドは神経組織に分布する場合が多く、グルコセレブロシドはその他の組織に分布します。
ガングリオシド : 動物細胞中で最も複雑な糖脂質であり、神経細胞に最も多く含まれています。
糖スフィンゴリン脂質 : 菌類、酵母、植物が持つ複雑な糖リン脂質の複合体です。
リン脂質と糖脂質では、リン脂質の方が、起源が古いと思います。
・・・糖脂質は、外界との境界というよりも、シグナル認識の役目の方が大きいと思います。
・・・更に、単純脂質のところで述べたように、グリセロ脂質とスフィンゴ脂質のほうが、起源が古いと思いますので、
グリセロ脂質の方が多い(というより、ヒトではスフィンゴリン脂質は、唯一スフィンゴミエリンしかありません。)、リン脂質の方が古いと思います。
・・・ただし、原核生物でも、一応スフィンゴ脂質があるようですが。
単純脂質や複合脂質から、加水分解によって誘導される疎水性化合物です。
身体の構成、エネルギー貯蔵の他、ホルモンをはじめとする生理活性物質として働きます。
脂肪酸は、長鎖炭化水素の1価のカルボン酸で、グリセリンをエステル化して油脂を構成します。 リン脂質
炭素数2-4個のものを短鎖脂肪酸(低級脂肪酸)、
5-12個のものを中鎖脂肪酸、
12個以上の炭素数のものを長鎖脂肪酸(高級脂肪酸)、と呼びます。
不飽和度による分類
飽和脂肪酸 (SFA) — 炭素鎖に二重結合または三重結合をもたない脂肪酸です。
不飽和脂肪酸 (UFA) — 炭素鎖に二重結合、三重結合をもちます。
更に、二重結合の数が1つであるか、複数であるかによって分類されます。
モノエン脂肪酸(一価不飽和脂肪酸、MUFA): 二重結合の数が1つ。
ポリエン脂肪酸(多価不飽和脂肪酸、PUFA): 二重結合の数が2つ以上。
幾何異性体にシス型とトランス型があり、トランス型のものをトランス脂肪酸として区別することがあります。
ヒトを含む多くの生体内ではエネルギー源として、ミトコンドリアで好気的に代謝されます(β酸化)。
ミトコンドリア内膜は脂肪酸アシルCoAを直接透過できないため、ミトコンドリア外膜でカルニチンと結合して運ばれます(動植物共通)。
内膜に入ると、脂肪酸アシルCoAに戻り、β酸化によりアセチルCoAを生成します。
脂肪酸は、生合成される時に炭素数が2個ずつ増加していくため、炭素数が偶数個の脂肪酸が多いですが、
α酸化を受けることによって炭素数が奇数個の脂肪酸が合成されることもあります。
飽和脂肪酸 誘導脂質
飽和脂肪酸は、エネルギー代謝に重要な役割をもちます。
体内では、アセチルCoAから合成されます。
脂肪酸生合成は、アセチルCoA(炭素数2)にマロニルCoA(同3)が脱炭酸的に結合して行われます。
つまり、反応サイクルごとに炭素が2個ずつ増加していきます。
実際の反応は、補酵素Aの代わりに、アシルキャリアータンパク質 (ACP) に結合した、
アセチルACPとマロニルACPが行います。
反応には、NADPHも必要です。
最終的に16:0のパルミチン酸とACPに加水分解されます。
不飽和脂肪酸 誘導脂質
不飽和脂肪酸は、細胞膜流動性に関係します。流動性は、膜の構成物質で決まります。
二重結合を持つ炭化水素が多いほどリン脂質の相互作用が低くなるため、流動性が増します。
一価不飽和脂肪酸
16:0のパルミチン酸は、長鎖脂肪酸伸長酵素により、18:0のステアリン酸が生成されます。
ステアリン酸のω9位に二重結合が一つ増えて、18:1 (n-9)のオレイン酸が生成されます。
多価不飽和脂肪酸
植物及び微生物中では、オレイン酸の、ω6位に二重結合を一つ増やして、18:2(n-6) のリノール酸(ω-6脂肪酸)を生成することができます。
ω-6脂肪酸
ヒトを含めた動物の体内では、リノール酸から、18:3(n-6) のγ-リノレン酸が生成されます。
さらに20:4(n-6)のアラキドン酸へ変換されます。
アラキドン酸から生成される、プロスタグランジンやロイコトリエン等のエイコサノイドは、炎症反応と関連する生理活性物質です。
ω-3脂肪酸
リノール酸のω3位に二重結合を一つ増やすと、18:3(n-3)のα-リノレン酸(ALA)が生成されます。これは、γ-リノレン酸の構造異性体です。
ALAから、20:4(n-3)のエイコサテトラエン酸を経て、20:5(n-3)のエイコサペンタエン酸(EPA)が生成されます。
EPAから22:5(n-3)のドコサペンタエン酸(DPA)を経て、22:6(n-3)のドコサヘキサエン酸(DHA)が生成されます。
ω-3脂肪酸からできる生理活性物質はあまりないですが、ω-6脂肪酸の作用を抑制する役目があります。
イソプレン 誘導脂質
2-メチル-1,3-ブタジエン。ジエンの一種です。
イソプレノイド(カロテン(テトラテルペン)・レチノール(ビタミンA)・トコフェロール(ビタミンE)・ドリコール・スクアレン等)
の共通構造モチーフでもあります。
機能性イソプレン単位は、ジメチルアリル二リン酸 (DMAPP) と、異性体のイソペンテニル二リン酸 (IDP) です。
DMAPPとIDPは、メバロン酸経路により、アセチルCoAから合成されます。
ヘムAは、イソプレノイド尾を持ち、動物のステロール前駆体であるラノステロールはスクアレンに由来します。
植物の葉緑体内では、非メバロン酸経路(MEP経路)によって合成されます。
イソプレンの放出は、ある種のバクテリアでもみられます。これは、DMAPPの非酵素的分解によると考えられています。
脂肪酸とイソプレン、これはどちらが古いのでしょう・・・
両方とも、アセチルCoAから合成されますので、アセチルCoAに起源に関するものがありそうですね。
不飽和脂肪酸は、ω-6とω-3脂肪酸は、ω-6脂肪酸の方が、起源が古そうですね。
・・・大元のリノール酸が、ω-6系ですので、ω-3系より一段階シンプルです。
・・・更にその大元のオレイン酸(ω-9系)が、不飽和脂肪酸の起源になるのでしょうか???
あと、脂質の合成場所は、滑面小胞体(ちなみに、粗面小胞体は、膜タンパクや分泌タンパクの合成場所です。)、というものですが・・・
興味深いことに、小胞体は、核膜の外膜とつながっています・・・小胞体も何か関係するのでしょうか?
結局、細胞膜(脂質)の起源は・・・小胞体も何らかの関わりがありそうですね・・・小胞体の起源は何でしょうか?
・・・また、ミトコンドリアの内膜は、脂肪酸アシルCoAを透過できないのはなぜでしょう?
・・・あと、物質としての起源は、グリセリン、リン酸、アセチルCoAでしょうか???