ポルフィリン・・・酵素(タンパク)の起源?
生命の起源に関する仮説の一つに、黄鉄鉱(パイライト)上で生じた物質から生命が誕生した、とする仮説や、
その拡張版のZn-World、という仮説があります。
金属タンパク質は、補因子として金属を含むタンパク質で、種々生命反応を触媒する酵素などで活躍します。
Znフィンガーのように金属イオンがあると、不安定な小さいタンパク質ドメインでも安定するので、
金属タンパク質は、小さなタンパク質しかなかった原初の時代に重要な役割をもっていた・・・かもしれません。
また、補因子は、酵素の触媒活性に重要で、補酵素や補欠分子族からなります・・・
これらは、現在では単独で触媒の機能はありませんが、
タンパク質からなる酵素がない原初の時代では、他の低分子有機化合物や金属イオンと結合して、酵素の役割を担っていた・・・かもしれません。
更に、鉄やマグネシウム等、金属イオンと錯体を形成する、ポルフィリンのような有機化合物は、酵素(タンパク)の起源に関係する・・・かもしれませんね。(詳細不明)
ポルフィリンの原料であるアミノレブリン酸が、tRNAにチャージされているグルタミン酸から合成する経路があるのも興味深いです。
補酵素 :キノン、ビタミン
分子間力 : イオン結合、水素結合、双極子相互作用、ファンデルワールス力(ロンドン分散力)
その他化学結合 : ジスルフィド結合、ペプチド結合、ホスホジエステル結合、グリコシド結合
解離定数、酸解離定数、反応速度論(質量作用の法則)、アレニウスの式
吸光係数(吸収係数)、モル吸光係数、吸光度、ランベルト・ベールの法則
アミノレブリン酸シンターゼ、スクシニルCoA、コハク酸、コハク酸デヒドロゲナーゼ(複合体II)
補因子として、金属を含むタンパク質です。種々の酵素など、重要な役割を持ちます。
金属は、単独のイオンか、タンパク質以外のポルフィリンなどの有機化合物に配位して存在しています。
金属イオンは、複数の配位をして活性部位の一部となり、孤立電子対によって基質との高い親和性を作っています。
銅 : シトクロムcオキシダーゼ
鉄 : カタラーゼ、シトクロム(ヘム)、ニトロゲナーゼ、ヒドロゲナーゼ
マグネシウム : グルコース 6-ホスファターゼ、ヘキソキナーゼ
マンガン : アルギナーゼ
モリブデン : 硝酸還元酵素
ニッケル : ウレアーゼ
セレン : グルタチオンペルオキシダーゼ
亜鉛 : アルコールデヒドロゲナーゼ、炭酸脱水酵素、DNAポリメラーゼ
鉄や銅は、電子伝達系で重要な酵素に含まれます。
マグネシウムは、解糖系で重要な酵素に含まれます。光合成で重要なクロロフィルにも含まれます。
亜鉛は、DNA合成で重要な酵素に含まれます。
その他、ビタミンB12に、コバルトが含まれます。
酵素反応で化学基の授受に機能する、低分子量の有機化合物で、ビタミンなどがあります。
一般に、酵素のタンパク質部分と強く結合せず、可逆的に解離して遊離型になります。
不可逆的なものは、補欠分子族といいます。
結合の強さは、解離定数によって示されます。
補酵素とアポ酵素(補酵素を欠く酵素のタンパク質部分)は、それぞれ単独では触媒として機能せず、
両者が混在する条件と、基質分子が存在することで初めて酵素として機能します。
補酵素とアポ酵素が結合した機能性酵素のことを、ホロ酵素といいます。
アポ酵素 + 補酵素 ⇄ ホロ酵素
機能
生体内で原子団の授受を行います。授受を行う状態についてはそれぞれ、
〜受容体:原子団を受け取る状態
〜供与体:原子団を与える状態、
両者の機能をもつものは、〜伝達体、といいます。
補酵素は、遊離状態となることで、1種類の物質で、様々な代謝系に対応します。
種類
電子伝達に関する補酵素群は、電子伝達体といいます。
キノン: ベンゼン環から誘導され、2つのケトン構造を持つ環状の有機化合物です。
PQQ(ピロロキノリンキノン) :酸化還元反応に関与(電子伝達体)
TPQ(トパキノン) :酸化的脱アミノ反応
TTQ(トリプトファン-トリプトフィルキノン):メチルアミン酸化還元
LTQ(リシンチロシルキノン) :ペプチド内リシンの酸化
CTQ(システニル-トリプトファンキノン) :アミンの酸化還元
TPP(チアミン二リン酸) :2-オキソ酸(ピルビン酸など)の脱炭酸、C-unit 転移、糖代謝系
FAD、FMN(ビタミンB2) :酸化還元反応(電子伝達体)
PALP、PLP(ビタミンB6) :アミノ基転移、CO2離脱
NAD、NADP(ナイアシン) :酸化還元反応(電子伝達体)
補酵素A(パントテン酸) :アシル基転移
補酵素R(ビオチン) :炭酸固定
補酵素F(葉酸) :C-unit 転移
補酵素B12(ビタミンB12) :H、Cの分子内転移
その他の補酵素
ATP(アデノシン三リン酸) :リン酸基の転移、エネルギーの利用
UDPG(ウリジン二リン酸グルコース) :グリコーゲン合成等。
ポルフィリン 金属タンパク質 コハク酸デヒドロゲナーゼ スクシニルCoA
ピロールが4つ組み合わさってできた環状構造を持つ有機化合物(テトラピロール)です。
テトラピロールには、環状のものと、直線状のもの(ビリン)があります。
ポルフィリンは、平面構造をとり、中心部の窒素は、多くの元素と錯体を形成します。
ヘムは、鉄が配位しています
クロロフィルは、マグネシウムが配位しています
シアノコバラミン(ビタミンB12)は、コバルトが配位しています
また、ポルフィリンは、ソーレー帯という 400–500 nm 付近の鋭い吸収帯と、Q帯という 500–700 nm 付近の吸収帯をもちます。
ソーレー帯のモル吸光係数は、種類によっては 106 M/cm のオーダーに達し、
理論値の 100% 近い量子収率(光化学反応を起こした原子(分子)の個数 m と、吸収された光子の個数 n との比 m/n )を示します。
クロロフィルなどでは、吸収した光は緩和せず、光電子移動(光励起状態から進行する電子移動反応)を引き起こします。
この過程は光合成での光捕集部位で進行している反応です。
また、発光性のものも多いです。
ポルフィリンやその金属錯体は、安定な酸化還元特性を示すものが多いです。
π-π相互作用や、軸配位子による錯形成により、多彩な超分子を形成します。
DNAへも強くスタッキング(積み重ね)します。
π-π相互作用は、有機化合物分子の芳香環の間に働く分散力(ロンドン分散力)です。
2つの芳香環がコインを積み重ねたような配置で安定化する傾向があるため、スタッキング相互作用ともいいます。
ポルフィリンの合成には、ローゼムント合成があります。
生体内では、まずδ-アミノレブリン酸(ALA)が合成されます。
その後、ポルフィリンの1つであるウロポルフィリノーゲンIIIから、様々なポルフィリン関連化合物が合成されます。
アミノレブリン酸(ALA)の合成経路
Shemin経路
アミノレブリン酸シンターゼにより、グリシンとスクシニルCoAから合成されます。
αプロテオバクテリアと、真核生物のミトコンドリアで利用されています。
C5経路
tRNAにチャージされているグルタミン酸を還元的に切り離し、アミノ基転移を経て合成します。
大部分の原核生物と、真核生物の色素体で利用されています。
ALA合成後の反応
ALA2分子が脱水縮合して、ポルフォビリノーゲン(ピロール)が合成されます。
次に、ポルフォビリノーゲン4分子を直鎖状に重合させて、ヒドロキシメチルビランが合成され、
これが環状に閉じて、ポルフィリンの1つであるウロポルフィリノーゲンIIIが合成されます。
ウロポルフィリノーゲンIIIから、メチル化・コバルト配位などを経て、シアノコバラミン(ビタミンB12)が合成されます。
ウロポルフィリノーゲンIIIから、脱炭酸(コプロポルフィリノーゲンIII)、酸化(プロトポルフィリノーゲンIX)を経た後、更に酸化されてプロトポルフィリンIXが合成されます。
プロトポルフィリンIXに、鉄が配位したものがヘムであり、ヘモグロビンやシトクロムなどの補欠分子族として機能します。
プロトポルフィリンIXに、マグネシウムが配位したものは、光合成色素として不可欠なクロロフィルです。
分子や結晶中で原子の間を結び付けている力です。
分子内結合
共有結合: 原子同士で互いの電子を共有することによって生じる化学結合です。
配位結合: 結合を形成する二つの原子の一方から、結合電子が提供される化学結合です。
金属結合: 金属でみられる化学結合です。
分子間の結合(分子間力)
イオン結合 : 陽イオン(カチオン)と、陰イオン(アニオン)の間の静電引力による化学結合です。
水素結合 : 水素原子が、近くにある酸素などの孤立電子対と作る結合です。
双極子相互作用 : 永久双極子となっている二つの分子間で働く力です。
ファンデルワールス力:ロンドン分散力。電荷を持たない分子間で、主に働く凝集力です。
ジスルフィド結合 : 2組のチオールのカップリングで得られる共有結合です。
ペプチド結合 : アミド結合のうち、アミノ酸同士が脱水縮合して形成される結合です。
ホスホジエステル結合: 炭素原子の間が、リン酸を介した2つのエステル結合によって共有結合しているものです。
グリコシド結合 : 炭水化物(糖)分子と、別の有機化合物とが脱水縮合して形成する共有結合です。
分子内結合
原子同士で互いの電子を共有することによって生じる化学結合で、結合は非常に強いです。
分子は、共有結合によって形成されます(単原子分子は除く)。
また、共有結合によって形成される結晶が、共有結合結晶です。
この結合は、多くが非金属元素間で形成されます。
結合を形成する二つの原子の一方からのみ、結合電子が分子軌道に提供される化学結合で、共有結合の一種です。
電子対供与体となる原子から電子対受容体となる原子へと、電子対が供給されてできる化学結合であるため、ルイス酸とルイス塩基との結合でもあります。
プロトン化で生成するオキソニウムイオンは、配位結合により形成されます。
また、オクテット則(最外殻電子の数が8個あると、化合物やイオンが安定に存在するという経験則。)を満たさない、
第13族元素(ホウ素・アルミニウムなど)の共有結合化合物は、強いルイス酸であり、配位結合により錯体を形成します。
遷移金属元素は、価電子の他に、空のd軌道などを持つため、多くの金属錯体が、配位結合により形成されます。
金属でみられる化学結合です。金属原子はいくつかの電子を出して、陽イオン(金属の原子核)と、自由電子となっています。
規則正しく配列した陽イオンの間を、自由電子が動き回っています。
金属結合は、これらの間に働くクーロン力(静電引力)による結合です。
分子同士や高分子内の離れた部分の間に働く、電磁気学的な力です。
力の大きさは、イオン間相互作用(イオン結合):1000、水素結合:100、双極子相互作用:10、ファンデルワールス力:1、となります。
参考、分子間の万有引力:10-35
イオン間相互作用(イオン結合)
正電荷を持つ陽イオン(カチオン)と、負電荷を持つ陰イオン(アニオン)の間の静電引力による化学結合です。
この結合によってイオン結晶が形成されます。
イオン結合は、主に金属元素(主に陽イオン)と、非金属元素(主に陰イオン)との間で形成されます。
電気陰性度が大きな原子に共有結合で結びついた水素原子が、
近くにある窒素、酸素、硫黄、フッ素、π電子系などの孤立電子対と作る結合です。
水分子間にみられる他、DNAやタンパク質における水素結合は、三次元構造の決定に重要な役割を果たしています。
永久双極子となっている二つの分子間で働く力です。
水素結合は、双極子相互作用の特に強いものとみなすこともできます。
電荷を持たない中性の原子や分子間で、主となって働く引力です。
分子や原子などに量子論的に生じる、一時的な電気双極子間の引力によって生じる弱い分子間力で、狭義には、ファンデルワールス力を指します。
その他、生体内で見られる化学結合
ジスルフィド結合 SS結合
2組のチオールのカップリングで得られる共有結合です。
ジスルフィド結合は、チオールの酸化によって作られます。
アミド結合のうち、アミノ酸同士が脱水縮合して形成される結合です。
生成する物質はペプチドであり、多数のアミノ酸が縮合した高分子物質は、タンパク質(ポリペプチド)です。
アミド結合は、強固な結合であり、加水分解は強酸性や強アルカリ性の条件でしか起こりません。
しかし、生体内には、ペプチダーゼ、プロテアーゼが存在し、ペプチド結合を選択的に加水分解できるため
生体内の温和な条件でも、ペプチド結合を加水分解できます。
炭素原子の間がリン酸を介した2つのエステル結合によって強く共有結合しているものです。
地球上のすべての生命に存在し、DNAやRNAの骨格を形成しています。
リン酸基のpKa値は0に近いため、生体内では負電荷をもちます。
そのため二本鎖DNAでは、相対するリン酸同士が反発しますが、
タンパク質(ヒストン)、金属イオン、ポリアミンによって中和されています。
RNAの五炭糖同士を結合しているホスホジエステル結合は、アルカリ加水分解によって分解されやすいですが、
DNAは2'位の水酸基がないため、アルカリ条件では安定です。
ホスホジエステラーゼは、ホスホジエステル結合の加水分解を触媒する酵素です。
DNAの酸化損傷を修復する際には、3'-ホスホジエステラーゼが重要です。
またサイクリックAMPやサイクリックGMPを、AMPやGMPにします。
DNA複製の際、DNAポリメラーゼが合成したDNA鎖同士は、DNAリガーゼが、ホスホジエステル結合を形成することで連結します。
炭水化物(糖)分子と、別の有機化合物とが脱水縮合して形成する共有結合です。
単糖(または単糖誘導体)のヘミアセタールと、アルコールなどの有機化合物のヒドロキシル基との間の結合、などがあります。
糖と糖以外の有機化合物とがグリコシド結合した物質は、配糖体(グリコシド)といいます。
炭水化物のヘミアセタールは反応性が高く、酸の存在で容易にグリコシド結合を形成します。
水溶液中の単糖は、鎖状構造(少)または環状構造(一般的)の状態で存在しており、それらは容易に相互変換しますが、
グリコシド結合すると、糖は鎖状構造をとることができなくなります。
[AB] ⇄ [A] + [B] のような化学平衡状態にある、可逆的解離において、
Kd = [A] [B] / [AB]。[X] は、基質Xの濃度です。
つまり、解離定数は、解離した化合物と、解離していない化合物との濃度比です。(参考、反応速度論(質量作用の法則))
また、酸解離定数 Ka は、酸の強度の尺度として用いられます。強い酸ほど、Ka が大きくなり、pKa は小さくなります。( pKa = −logKa )
ちなみに、アレニウスの式という、ある温度における化学反応の速度を予測する式、があります。
反応の速度定数 k は、
k = A exp ( - Ea / RT )、で表されます。
A :温度に無関係な定数(頻度因子)
Ea: 1モルあたりの活性化エネルギー
R :気体定数
T :絶対温度
活性化エネルギーをアレニウスパラメータ、指数関数部分 exp ( -Ea /RT ) を、ボルツマン因子ともいいます。
ボルツマン因子は、マクスウェル・ボルツマン分布(熱力学的平衡状態において、気体分子の速度が従う分布関数)を積分することで得られます。
アレニウスの式は、反応する前に活性化エネルギー Ea 以上のエネルギー(運動エネルギー)をもつ分子だけがエネルギー障壁を越えて反応が進むと解釈されます。
尚、この式の対数をとってプロット(アレニウスプロット)すると、実測された反応速度と温度(の逆数)から、活性化エネルギーなどを求めることができます。
光がある媒質に入射した時、その媒質がどれくらいの光を吸収するのかを示す定数で、長さの逆数の次元を持ちます。
ランベルト・ベールの法則によると、
媒質をある距離通過した光の強度と、入射した光の強度との比の対数(吸光度)は、通過距離と比例関係にあり、
その比例係数を、吸収係数といいます。
自然対数の形式ではα、常用対数の形式ではβを用いる場合が多いです。
また、溶液などの吸収を観測する場合、αまたはβを溶液の単位モル濃度で規格化したモル吸光係数 ε が用いられます。
光の物質による吸収を定式化した法則です.
媒質に入射する前の光の強度(放射照度)を I0 、媒質中をL移動した時の光の強度を I1 とすると、以下のようになります。
αは吸光係数、εはモル吸光係数、 c は媒質のモル濃度、l は光が媒質を通る距離、です。
吸光度 A = -log10 ( I1 / I0 ) = -αl = -εc l 。
アミノレブリン酸シンターゼ (アミノレブリン酸合成酵素) ALA合成経路
グリシンとスクシニルCoAとの縮合により、δ-アミノレブリン酸を合成する反応、を触媒します。
ヘム合成の第1段階の反応で、ポルフィリンとヘムの生合成の律速酵素です。
コハク酸と、補酵素Aからなる有機化合物です。
ポルフィリン合成において、アミノレブリン酸シンターゼによってグリシンと縮合して、δ-アミノレブリン酸を形成します。
クエン酸回路で、α-ケトグルタル酸から合成されます。この時、補酵素Aが付加されます。
スクシニルCoAは、メチルマロニルCoAからも、合成されます。(ビタミンB12(ウロポルフィリノーゲンIIIから合成されます。)が必要です。)
メチルマロニルCoAは、プロピオニルCoA(奇数脂肪酸:β酸化を受けません)から合成されます。
スクシニルCoAは、コハク酸に変換されます。
コハク酸 (ブタン二酸)
ジカルボン酸で、コハク酸デヒドロゲナーゼ(コハク酸CoQレダクターゼ、複合体II)によって酸化され、
フマル酸(2-ブテン二酸)となります。
補酵素はFADです。
ミトコンドリア膜内部に固定されている酵素複合体です。細菌の細胞にも存在します。
この酵素は、クエン酸回路で、コハク酸をフマル酸へ酸化し、ユビキノンをユビキノールへ還元します。この反応は膜上で同時に起こります。
4個のサブユニットから構成されており、2個の親水性サブユニットは、フラボタンパク質 (SdhA )と、鉄硫黄タンパク質( SdhB )です。
サブニットは、ヘムbや、膜結合性シトクロムb などから構成されています(ポルフィリンを含みます)。