イソプレノイド合成・・・メバロン酸経路 と 非メバロン酸経路
メバロン酸経路 : 酢酸 → アセチルCoA → アセトアセチルCoA → HMG-CoA → メバロン酸 →
5-ホスホメバロン酸 → 5-ジホスホメバロン酸 → イソペンテニル二リン酸( IPP ) → ジメチルアリル二リン酸( DMAPP )
非メバロン酸経路 : ピルビン酸 + グリセルアルデヒド- 3-リン酸 → DOXP → MEP →
CDP-ME → CDP-MEP → MecPP → HMB-PP → IPP又は DMAPP
参考 : プレニル化反応
メバロン酸経路は、アセチルCoAから、
非メバロン酸経路は、ピルビン酸とグリセルアルデヒド- 3-リン酸から、
イソペンテニル二リン酸( IPP )と、ジメチルアリル二リン酸( DMAPP )を合成する、経路です。
IPPとDMAPPは、イソプレノイド合成の出発物質です。
これらは、細胞膜の維持、タンパク質のプレニル化、脂質固定タンパク質、N-グリコシル化、ホルモンなど、
様々な生合成経路に使われる分子の基礎となります・・・
脂質は、細胞膜以外にもいろいろな用途で活躍していますね。
ほぼ全ての生物が備えているとされます。
この反応は、細胞質基質で行われています。
律速段階は、ヒドロキシメチルグルタリルCoA ( HMG-CoA ) がメバロン酸に還元される反応です。
酢酸 + ATP + CoA → アセチルCoA + AMP + 2リン酸
アセチルCoA × 2 → アセトアセチルCoA + CoA
アセトアセチルCoA + アセチルCoA → HMG-CoA + CoA
HMG-CoA + 2NADPH → メバロン酸 + CoA + 2NADP+
メバロン酸 + ATP → 5-ホスホメバロン酸 + ADP
5-ホスホメバロン酸 + ATP → 5-ジホスホメバロン酸 + ADP
5-ジホスホメバロン酸 + ATP → イソペンテニル二リン酸 + 二酸化炭素 + リン酸 + ADP
化学式が CH3COOH のカルボン酸です。
食酢に含まれる弱酸です。
2分子の酢酸が脱水縮合すると、無水酢酸となります。
酢酸のカルボキシル基は、溶液中でプロトン ( H+ ) を放出し、
解離して酢酸イオン(カルボキシラートイオン)となります。
水溶液中でのpKaは約4.76で、pHは2.4となり、全体の0.4%が解離しています。
塩酸や硫酸などの無機酸よりは弱く、
炭酸やフェノール、アルコールよりは強い酸です
酢酸は水素結合を介して2分子が結合した、環状の二量体を形成します。
水などプロトン性の溶媒中では単量体として存在します。
二量体を形成するため、酢酸の沸点(分子量60、沸点 118 ℃)は、
水素結合を作らない酢酸メチル(分子量74、沸点 57 ℃)よりも高いです。
化学反応
酸としての反応
酢酸は、マグネシウムと反応して、水素と酢酸マグネシウムを生じます。
脱水
加熱により、2分子間で脱水縮合を起こし、無水酢酸が生成します。
環状の酸無水物を生成する場合を除き、他のカルボン酸では起こりません。
2 CH3COOH → (CH3CO)2O + H2O (800 ℃)
また、リン酸エステルの存在下で加熱すると、分子内脱水により、ケテン(エテノン)が生じます。
CH3COOH → CH2=C=O + H2O ( O=P(OCH2CH3)3、 700 – 800 ℃ )
カルボキシル基の変換
硫酸を触媒として、アルコールと加熱すると、酢酸エステルが生成します。(フィッシャーエステル合成反応)
炭酸アンモニウムと混合して加熱すると、酢酸アンモニウムの生成と脱水を経て、アセトアミドが得られます。
2 CH3COOH + (NH4)2CO3 → 2 CH3COONH4 + H2CO3CH3COONH4 → CH3CONH2 + H2O
メチル基での反応
日光を当てながら酢酸と塩素を反応させると、水素原子と塩素原子が交換したクロロ酢酸が生成します。
この反応はラジカルの発生を含む機構で進行し、ジクロロ酢酸やトリクロロ酢酸が副生成物となります。
CH3COOH + Cl2 → CH2ClCOOH + HCl
生化学
酢酸は、生体内で活性化体であるアセチルCoAとして、様々な役割を果たします。
酢酸 + ATP + CoA → アセチルCoA + AMP + 二リン酸 アセチルCoAリガーゼ
酢酸 + ATP + CoA → アセチルCoA + ADP + リン酸 アセチルCoAリガーゼ (ADP生成)
メタノサエタ属やメタノサルキナ属は、酢酸を代謝してメタンを生成します。
発酵
酸化的発酵
アセトバクター属の細菌によって、エタノールから作られます。
C2H5OH + O2 → CH3COOH + H2O
無気性発酵
クロストリジウム属の嫌気性バクテリアは、
糖類を、直接酢酸に変換させることができ、中間体としてエタノールを必要としません。
C6H12O6 → 3 CH3COOH
酢酸産生菌の多くは、メタノール、一酸化炭素、二酸化炭素と水素の混合物など、
1炭素の化合物から、直接酢酸を作り出すことができます。
2 CO2 + 4 H2 → CH3COOH + 2 H2O
アセチルCoA (活性酢酸)
酢酸の活性化体です。
酢酸のチオエステル体で、CoA SHは、脱離基として働くため、酢酸よりも置換反応が起こりやすいです。
クエン酸回路でのエネルギー生産、
脂肪酸の合成、
メバロン酸経路によるテルペノイド生合成、などに利用されます。
アセチルCoA-アセチルトランスフェラーゼ(チオラーゼ) によって、アセトアセチルCoAが生成します。
アセチルCoAから生成します。
HMG-CoAシンターゼによって、HMG-CoAが合成します。
アセトアセチルCoA + アセチルCoA → HMG-CoA + CoA
ロイシンの代謝では、この反応は逆に起こります。
ヒドロキシメチルグルタリルCoA (HMG-CoA)
アセチルCoAとアセトアセチルCoAから合成されます。
HMG-CoAレダクターゼにより、メバロン酸に変換されます。
また、HMG-CoAリアーゼにより、アセチルCoAとアセト酢酸に分解されます。
ロイシンの代謝にも使われ、前駆体は3-メチルグルタコニルCoAです。
メバロン酸(3,5-ジヒドロキシ-3-メチルペンタン酸)
化学式 C6O4H12のヒドロキシ酸。
HMG-CoAの還元によって合成されます。
メバロン酸キナーゼによってリン酸化され、5-ホスホメバロン酸になります。
メバロン酸から合成されます。
5-ホスホメバロン酸キナーゼによって、5-ジホスホメバロン酸になります。
5-ホスホメバロン酸から合成されます。
ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼによって、イソペンテニル二リン酸になります。
非メバロン酸経路 ( MEP / DOXP経路 )
2-C-メチル-D-エリトリトール-4-リン酸 / 1-デオキシ-D-キシルロース-5-リン酸経路ともいいます。
イソプレノイドの生合成経路で、IPPとDMAPPを合成する代謝経路です。
メバロン酸経路と対照的に、
植物とアピコンプレックス門の原生動物は、色素体の非メバロン酸経路でイソプレノイドを合成しています。
ほとんどの真正細菌も、この経路でIPPとDMAPPを合成しています。
ピルビン酸 + グリセルアルデヒド- 3-リン酸 → 1-デオキシ-D-キシルロース-5-リン酸( DOXP ) + CO2
DOXP + NADPH → 2-C-メチルエリトリトール-4-リン酸( MEP ) + NADP+
MEP + CTP → 4-ジホスホシチジル-2-C-メチルエリトリトール( CDP-ME ) + PPi
CDP-ME + ATP → 4-ジホスホシチジル-2-C-メチル-D-エリトリトール-2-リン酸 ( CDP-MEP ) + ADP
CDP-MEP → 2-C-メチル-D-エリトリトール-2,4-シクロピロリン酸 ( MEcPP ) + CMP
MecPP + Fdred → (E)-4-ヒドロキシ-3-メチル-2-ブテニル二リン酸( HMB-PP ) + Fdox
HMB-PP + NADPH → IPP又は DMAPP + NADP+ + H2O
ピルビン酸(2-オキソプロパン酸・α-ケトプロピオン酸・焦性ブドウ酸)
示性式が CH3C ( =O ) COOH のカルボン酸です。
水、エタノール、エーテルなど、様々な極性溶媒や無極性溶媒に溶けます。
2位のカルボニル基を還元すると乳酸となります。
生体内では解糖系による糖の酸化で生成します。
十分な酸素が供給されない場合、嫌気的に分解されて、
動物では乳酸、
植物や微生物ではエタノールが生成します。
乳酸発酵では、乳酸脱水素酵素と補酵素NADHを用いて、
アルコール発酵では、アセトアルデヒド、さらにエタノールになります。
ピルビン酸は、代謝経路の鍵代謝過程を一体化します。
糖新生によって炭水化物、
アセチルCoAを介して、脂肪酸またはエネルギー、
アミノ酸のアラニン、
エタノール、になります。
解糖系で、ホスホエノールピルビン酸 (PEP) から、ピルビン酸キナーゼによって、ピルビン酸へと変換されます。
糖新生では、ピルビン酸からPEPへの逆変換を触媒するために、
ピルビン酸カルボキシラーゼと、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼの2種の酵素が使われます。
ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体によるピルビン酸の脱炭酸反応で、アセチルCoAを産生します。
アセチルCoAは、クエン酸回路や脂肪酸合成系に組み込まれます。
ピルビン酸カルボキシラーゼによるカルボキシル化で、オキサロ酢酸を産生します。
アラニントランスアミナーゼによるアミノ基転移で、アラニンが産生します。
乳酸脱水素酵素による還元で、乳酸が産生します。
グリセルアルデヒド-3-リン酸( G3P )
グリセルアルデヒドの3位の炭素におけるリン酸エステルで、
全ての生物の代謝中間体となる有機化合物です。
フルクトース-1,6-ビスリン酸を基質として、アルドラーゼにより生成します。
β-D-フルクトース-1,6-ビスリン酸 ⇔ D-グリセルアルデヒド-3-リン酸 + ジヒドロキシアセトンリン酸
ジヒドロキシアセトンリン酸を基質として、トリオースリン酸イソメラーゼにより生成します。
ジヒドロキシアセトンリン酸 ⇔ D-グリセルアルデヒド-3-リン酸
1,3-ビスホスホグリセリン酸を基質として、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼにより生成します。
1,3-ビスホスホグリセリン酸 ⇔ D-グリセルアルデヒド-3-リン酸
糖新生
グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼにより、1,3-ビスホスホグリセリン酸を生成します。
D-グリセルアルデヒド-3-リン酸 ⇔ 1,3-ビスホスホグリセリン酸
ペントースリン酸経路でもみられます。
リブロース-1,5-ビスリン酸( RuBP )と二酸化炭素から、
リブロース1,5-ビスリン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼによって、
2分子の3-ホスホグリセリン酸が暗反応で生成されます。
3-ホスホグリセリン酸は、ATPのエネルギーと、NADPHの還元力を使って、カルビン回路でG3Pに変換されます。
この過程でADP、リン酸イオン、NADP+が生成し、RuBPは再びカルビン回路に戻ります。
G3Pは光合成の主要な最終産物で、
グルコースなどの単糖に変換されて他の細胞へ運ばれたり、デンプンなどの多糖として貯蔵されたりすると考えられています。
トリプトファンやチアミン生合成の副産物としても、生成します。
MEP経路では、G3Pとピルビン酸から、
DXPシンターゼによって、DOXPが生成します。
1-デオキシ-D-キシルロース-5-リン酸 ( DOXP )
ピルビン酸と、グリセルアルデヒド-3-リン酸から生成します。
1-デオキシ-D-キシルロース-5-リン酸レダクトイソメラーゼによって、
MEPと相互変換します。
2-C-メチルエリトリトール-4-リン酸 ( MEP )
DOXPと相互変換します。
4-ジホスホシチジル-2-C-メチル-D-エリトリトールシンターゼによって、
CDP-MEを生成します。
4-ジホスホシチジル-2-C-メチルエリトリトール ( CDP-ME )
MEPから生成します。
4-(シチジン-5'-ジホスホ)-2-C-メチル-D-エリトリトールキナーゼ(CDP-MEキナーゼ)によって、
CDP-MEPを生成します。
4-ジホスホシチジル-2-C-メチル-D-エリトリトール-2-リン酸 ( CDP-MEP )
CDP-MEから生成します。
2-C-メチル-D-エリトリトール-2,4-シクロ二リン酸シンターゼによって、
MecPPを生成します。
2-C-メチル-D-エリトリトール-2,4-シクロピロリン酸 ( MecPP )
CDP-MEPから生成します。
HMB-PPシンターゼよって、
HMB-PPを生成します。
(E)-4-ヒドロキシ-3-メチル-2-ブテニル二リン酸 ( HMB-PP )
MEcPPから生成します。
HMB-PP還元酵素によって、
イソペンテニル二リン酸、ジメチルアリル二リン酸を生成します。
イソペンテニル二リン酸 ( IPP )
メバロン酸回路では、5-ジホスホメバロン酸から生成され、
イソペンテニル二リン酸イソメラーゼによって、ジメチルアリル二リン酸になります。
ジメチルアリル二リン酸 ( DMAPP )
イソペンテニル二リン酸の異性体です。
メバロン酸経路では、イソペンテニル二リン酸から生成します。
疎水性のプレニル基を、タンパク質に付加する反応です。
プレニル基は、グリコシルホスファチジルイノシトールなどのように、
タンパク質の細胞膜への結合を促進するとされます。
プレニル基とは、炭素数5のイソプレン単位で構成される構造単位です。
単位数 |
炭素数 |
プレニル基の名称 |
1 |
C5 |
ジメチルアリル基 |
2 |
C10 |
ゲラニル基 |
3 |
C15 |
ファルネシル基 |
4 |
C20 |
ゲラニルゲラニル基 |
5 |
C25 |
ゲラニルファルネシル基 |
6 |
C30 |
ヘキサプレニル基 |
8 |
C40 |
オクタプレニル基 |
10 |
C50 |
デカプレニル基 |
タンパク質のプレニル化
プレニル基が、タンパク質のC末端のシステイン残基に結合することで起こります。
細胞内でのプレニル化には、3つの酵素が関与します。
ファルネシルトランスフェラーゼと、ゲラニルゲラニルトランスフェラーゼI
両方とも2つのサブユニットからなり、αサブユニットは共通していますが、βサブユニットの相同性は、25%です。
これらの酵素は、標的タンパク質のC末端のCaaXボックスを認識します。
Cはプレニル化されたシステイン残基、
aは任意の脂肪族アミノ酸、
Xはどちらの酵素が作用するか決定するアミノ酸です。
Rabゲラニルゲラニルトランスフェラーゼ (ゲラニルゲラニルトランスフェラーゼII)
Rabタンパク質のC末端に、2つのゲラニルゲラニル基を転移します。
RabのC末端は、長さも配列も様々で、超可変領域と言います。
このため、Rabには保存領域が多いRabエスコートタンパク質が結合していて、酵素はこの部分を認識します。
Rabがプレニル化されて脂質のアンカーが付けられると、Rabは水に溶けなくなり、細胞膜上に留められます。
尚、Rasタンパク質もプレニル化を受けます。