細胞核・・・遺伝情報の保存場所
参考 : 核様体 ・ プラスミド
真核生物は、細胞核を持ちます。
核の起源に関する仮説に、ウイルス説(新しいウイルス入門 P.177)があります。
核細胞質大型DNAウイルス(巨大核質DNAウイルス)の仲間は、細胞質でDNAを複製しますが、
なんと、周囲にある小胞体膜で覆われて、「ミニ核」になるものがあるようです。
核膜が細胞分裂の時に一時消失するのは、ウイルスの脱殻のように思えるのは気のせいでしょうか・・・
ラミンは、元々はカプシド???
また、生物の中には、このウイルス並みに、小さいものもいます。
ARMAN という古細菌は、長さは0.2μm、幅0.06μmしかありません・・・
ウイルス以外の生物でも、とりこまれて細胞核になる・・・かもしれませんね。
でも、核の中にある、核小体は、一体何?
赤血球のように、無核の細胞は?
謎は、深まるばかりです。
真核生物の細胞にある細胞小器官です。
通常、細胞に1つあり、遺伝情報の保存と伝達を行います。
大きさは、細胞(真核細胞の大きさは、一般的に5 - 100 μmです)により様々ですが、5 - 20μm程度でしょうか。
また核内には1つ以上の核小体があります。
細胞の他の部分(細胞質)とは、核膜によって隔てられており、
核と細胞質間で物質輸送が行われる時は、核膜孔を通って行われる場合が多いです。
核内には遺伝情報であるDNAの他、核タンパク質、RNA(リボ核酸)が含まれており、
DNAの遺伝情報は、核でRNAに転写されます。
細胞分裂時には、核内のDNAは凝集し、染色体となり、細胞分裂後の2つの細胞に分かれて移動します。
このとき、核の表面は二重の核膜で包まれます。
その後、それぞれの細胞で再び核が形成され、染色体は消失し、DNAが核内に広がります。
核内で、糸状に連なったDNA分子が、結合蛋白質と複合体を構成しながら散らばったものは、クロマチンといいます。
多核体(合胞体、シンシチウム)
1個の細胞に核が多数ある細胞です。
核が1個ある通常の細胞が細胞融合して形成されたものや、
細胞質分裂を行わずに、核分裂のみが進行した細胞です。
ヒトでは、骨格筋の筋細胞や、胎盤の絨毛膜、骨髄造血細胞の巨核球、があります。
赤血球は、成熟に際し、核を含むすべての細胞小器官を吐き出すため、無核です。
真核生物の細胞核を細胞質から隔てている生体膜です。
内膜と外膜からなる二重の脂質二重膜構造をとり、核膜孔で内膜と外膜が融合します。
外膜は、小胞体とつながっています。
内膜と外膜の間を核膜槽といいます。
内膜の内側 (核質側) には、ラミンが格子状に裏打ち構造を形成し、核の形態を保っています。
核膜は細胞分裂の際に一時消失することがありますが、終期には再形成されます。
真核生物の核膜に存在する、核の内外を連絡する穴です。
多数の蛋白質からなる核膜孔複合体で構成されています。
核膜孔を介して、細胞核と細胞質間の物質の移動が行われます。
核膜孔の数は、1核あたり、100個強 (出芽酵母)、1700個前後 ( NRK cell )等、様々です。
脊椎動物の核膜孔について。
核膜孔には、総分子量125 MDa、直径120 nmの核膜孔複合体が位置します。
これは8個のサブユニットが回転対称に配置された巨大なタンパク質複合体であり、150種ものタンパク質から構成されます。
細胞質側には細胞質フィラメント、
核質側には核バスケットという構造があり、
輸送過程では、これらの構造と輸送される物質の相互作用が重要な役割を果たしています。
中心部にはplugという構造があります。
カルシウム濃度と構造変化の関連が指摘されていますが、詳細な役割は不明です。
開口部の直径は10 nmで、イオンや分子量10 kDa以下の分子は濃度に依存して拡散します。
40 kDaまでの分子は、細胞内のカルシウム濃度による制御も受けますが、拡散によって移動できます。
分子量60 kDa以上の分子は、拡散によって受動的にこの穴を通り抜けることはできません。
GTPを使用する、エネルギー依存性の輸送系では、
約3 MDaという非常に大きいサイズの60S リボソーム前駆体や、
さらに巨大なmRNP (mRNAとタンパク質の複合体)が通り抜けることができます。
その他、40Sリボソーマルサブユニットや、多数の核タンパク質、tRNAなどが輸送されています。
輸送過程では、インポーティンやエクスポーティン等の輸送因子が関わります。
これらは、荷物となる分子に存在する核移行シグナルや核外輸送シグナルを認識・結合するとともに、
核膜孔複合体とも作用し、様々な分子のアダブターとして働いています。
核質(核原形質、核液)
核膜に包まれている原形質です。
核質の中には、DNA複製等に必要なヌクレオチドなどの多くの物質や、
細胞核の中で作用する酵素などが溶解しています。
また、核基質として知られる線維のネットワークがあります。
核質の液状の可溶画分は、nuclear hyaloplasm、といいます。
核小体 (仁)
真核生物の細胞核の中に存在する、分子密度の高い領域で、rRNAの転写や、リボソームの構築が行われる場所です。
直径1〜3μmです。
生体膜によって明確に区分される構造ではありません。
成長期の細胞や、活発に機能する細胞でよく発達します。
細胞周期の進行する中で、前期には消失して核分裂に備え、rDNAからの転写とともに再形成されます。
核小体を電子顕微鏡で観察すると、
繊維状中心部 (Fibrillar centre: FC)、
高密度繊維状部 (Dense fibrillar component: DFC)の二層と、
周辺部にある顆粒部 (Granular component: GC) 、が認められます。
RNAの転写とプロセシングは、中央二層の領域で行われる可能性があります。
rDNAからRNAポリメラーゼIによって転写されたrRNA前駆体は、
snoRNA等の働きによりプロセシングを受け、18S、5.8S、28S(高等動物の場合)のrRNAとなります。
真核生物の rRNAは、これにRNAポリメラーゼIIIによって転写された5S RNAを加えたものです。
rRNAにリボソーム蛋白質が会合して形成されたリボソームは、核膜孔を経て細胞質に運ばれて翻訳装置として機能します。
真核細胞内に存在するDNAとタンパク質の複合体です。
染色体は、有糸分裂期の細胞で、クロマチンが構造変換して作り出される棒状の構造体です。
クロマチンに含まれるDNAの貯蔵に加えて、
遺伝子の発現・複製・分離・修復等、
DNAが関わる、あらゆる機能の制御に重要とされます。
クロマチンの構造
ヒト二倍体細胞に納められているDNAの長さは、約2 mもあります。
これを直径約10 μmの細胞核に収納するための構造がクロマチンです。
クロマチンを構築する上で最も基本となる構造が、ヌクレオソームです。
まず、4種類のコアヒストン(H2A、H2B、H3、H4)が、2コピーずつ集まって八量体(オクタマー)を形成し、
その周りを約146bpのコアDNAが約1.65回左巻きに巻きつきます。
この構造はヌクレオソームコア粒子といいます。
2つのヌクレオソーム(コア粒子)の間をつなぐDNAがリンカーDNA、
そこに結合するヒストンがリンカーヒストンです。
多数のヌクレオソームが、リンカーDNAを介してつながった構造を電子顕微鏡で観察すると、
beads-on-a-string 状の形態が観察されます。
この構造は、10-nm ファイバーといいます。
また、ヌクレオソーム・リンカーDNA・リンカーヒストンの複合体を、ひとつのユニットとしてクロマトソームともいいます。
ヌクレオソーム繊維(10-nm ファイバー)は、さらに折り畳まれ、
直径30 nmの、30-nm ファイバーを形成するようですが、詳細不明です。
高次クロマチン構造
クロマチンは、凝集の度合いにより、ヘテロクロマチンとユークロマチンに分類されます。
ユークロマチン(真正染色質): RNA転写活性が高く、DNAがよく広がり、多種の蛋白質と共存する部位
ヘテロクロマチン(異質染色質):遺伝子発現が不活性化され、DNAと結合蛋白質の複合体は凝集されたままの状態になっている部位
遺伝子の転写が活発な領域は、比較的緩んでおり、ユークロマチンを形成する傾向にあります。
遺伝子密度が低い領域や遺伝子発現が抑制されている領域は、強く折り畳まれてヘテロクロマチンを形成する傾向にあります。
細胞分裂期に入ると、クロマチンは組織的に折り畳まれて、よりコンパクトな棒状の構造体(染色体)に変換されます。
この過程は染色体凝縮と呼ばれ、姉妹染色分体を正確に分離するために重要な過程です。
クロマチン構造は、遺伝子発現の調節に関与しています。
遺伝子の発現・抑制を制御する機構の一つとして、ヒストンの翻訳後修飾が知られています。
ヒストンは、強い塩基性のタンパク質であり、酸性のDNAとの高い親和性を示します。
コアヒストンは、
球形のカルボキシル末端と、
決まった構造をとらないアミノ末端(ヒストンテイル)から構成されています。
ヒストンテイルは、アセチル化、メチル化、リン酸化、ユビキチン化といった様々な化学修飾を受けることにより、
遺伝子発現など、様々なクロマチン機能の制御に関わります。
一方、ATP依存的にヌクレオソーム構造を変化させる、クロマチン・リモデリング複合体があります。
この複合体は、ヒストン修飾酵素と協調して、クロマチンの構造変換と、それに伴う機能制御に関わります。
細胞核内で構造の維持と転写の調節を行う繊維状タンパク質です。
TypeXの中間径フィラメントです。
ラミンは膜タンパク質とともに、核膜の内側に核ラミナを形成します。
核ラミナは、核孔の位置の調整を行う他、体細胞分裂時、核膜の分解や再構成に関与します。
動物細胞では、A型とB型が存在します。
ヒトの細胞では3つの異なった調節遺伝子を持ちます。
B型ラミンは、全ての細胞に存在します。B1は5q23にあるLMNB1遺伝子、B2は19q13にあるLMNB2遺伝子が発現します。
A型ラミンは、原腸陥入の後にのみ発現します。ラミンAとラミンCは最も普通のA型ラミンで、1q21にあるLMNA遺伝子のスプライス変異です。
C型ラミンは、組織特異的な発現をします。
ラミンは、核ラミナを構成しているとともに、膜として核質全体に分布しています。
体細胞分裂の際には、ラミンと核膜の解離を促進する有糸分裂促進因子によって、ラミンはリン酸化されます。
染色体分離の後、ラミンは脱リン酸化されて、核膜と再結合します。
核様体(原核細胞の染色体)
原核細胞でみられる、ゲノムDNAが折り畳まれた構造体です。
原核生物のゲノムは、一般的に環状の二本鎖 DNA で、複数のコピーがあることもあります。
核様体DNAには、負のDNA超らせんが導入されており、
これが核様体をコンパクト化するメカニズムの一つとして働いています。
(真核生物のクロマチンでは、ヌクレオソームの形成がコンパクト化の最初のステップです)。
ほとんどの原核生物のゲノムは環状であり、線状のものはまれです。
そのためテロメアなしで複製することができます。
一般的に核様体は、真核生物の染色体よりも小さいです。
真核生物のミトコンドリアや葉緑体に存在するDNA - タンパク質複合体も、核様体といいます。
核様体の大部分は DNA からできており、他にRNA とタンパク質を含んでいます。
真正細菌の核様体タンパク質は、真核細胞でみられるようなヌクレオソーム構造を作らず、
代わりに DNA の屈曲や DNA 間の架橋を担います。
一方、古細菌はヒストン様タンパク質を有し、ある種では、〜 60 bp 周期のヌクレオソーム様構造が観察されています。
尚、真正細菌と古細菌は、コンデンシン様の複合体をもち、これらが核様体の構築に大きな役割を果たしているようです。
細胞内で複製され、娘細胞に分配される染色体以外のDNA分子です。
細菌や酵母の細胞質内に存在し、染色体のDNAとは独立して自律的に複製を行います。
一般に環状2本鎖構造をとります。
細菌の接合を起こすもの(Fプラスミドなど)。などがあります。
細菌だけではなく、酵母や哺乳類の細胞内で複製・維持されるものもあります。
複製機構が類似しているプラスミド同士は、同一宿主菌内では共存できません(不和合性: incompatibility)。