第T部  HbA1cとグリコアルブミン

各章に何が書かれているか?

作成日:2019/1/12,最終更新日:2019/1/22

 糖尿病は遺伝的体質および過食・運動不足・肥満などの生活習慣を原因とする疾患で,慢性的な高血糖をきたすことが特徴です.糖尿病の脅威は,この慢性的な高血糖を放置すると,全身に多彩な合併症を発症することにあります.このため,血糖値をできる限り正常近くにコントロールすることが最も重要な治療目的になります.現在,糖尿病患者の血糖コントロール状態を表す最も重要な指標はHbA1cであり,グリコアルブミンが第2の指標となっています.本ホームページ第T部では,HbA1cとグリコアルブミンに関する数学的な取扱い法とその生理学的意義について説明します.

第1章 HbA1cはいつの血糖を表すか?

図1.HbA1c,グリコアルブミンに対する過去の血糖の寄与率

 HbA1cが初めて実用化された頃,HbA1cがいつの血糖を表すか正確には分かっていませんでした.多数の臨床的研究の結果,HbA1cは1ヶ月前の血糖と最もよく相関することが分かり,この結果から「HbA1cは1ヶ月前の血糖を表す」と解釈されました.しかし,赤血球内のヘモグロビンは生成時には全く糖化されていませんが,血中を循環する間に次第に糖化され,赤血球が寿命を終える120日後まで糖化が続きます.従って,過去120日間の血糖が何らかの形でHbA1c値に寄与していると考えられ,上記の解釈には大きな疑問がありました.現在は,数理生理学的研究により,HbA1cは直前の1ヶ月の血糖が50%,その前の1ヶ月の血糖が25%,更に前の2ヶ月の血糖が残りの25%を決定することが判明しています(図1).では,どのようにしてこのことが判明したのでしょうか? 「1.1」で臨床データからの解析,「1.2」で数学的な解析,「1.3」で図形的な説明という3つの方法によりこの問題を解説します.
● 1.1) HbA1cと過去の血糖の関係:臨床データから解析
● 1.2) HbA1cと過去の血糖の関係:数学的に解析
● 1.3) HbA1cと過去の血糖の関係:図形で説明

第2章 グリコアルブミンはいつの血糖を表すか?

図2.グリコアルブミンの構造

 本章では第2の血糖コントロール指標であるグリコアルブミンが過去の血糖をどのように表すかについて解説します.HbA1c同様に,グリコアルブミンも生成時には糖化されておらず,血中を循環している間に次第に糖化されます.グリコアルブミンの特徴は,その代謝半減期が2〜3週と短いため,その分だけ短期の血糖コントロールを反映することです.本章では,「2.1」でグリコアルブミンに対する数学的な解析を行い,「2.2」で図形的な説明を行います.
 グリコアルブミンの第2の特徴はグルコース結合部位が4つあることです.このため,高血糖になると複数のグルコースがアルブミンに結合しています.その結果,グリコアルブミンをアフィニティ法で測定するか,酵素法で測定するかによって測定値がずれてきます.この問題は検査医学的に非常に面白い問題を含んでいますので,「2.3」でこの問題を取り上げ,解析を行います.
● 2.1) グリコアルブミンと過去の血糖の関係:数学的に解析
● 2.2) グリコアルブミンと過去の血糖の関係:図形で説明
● 2.3) グリコアルブミンにおけるグルコース複数結合と測定値の関係

第3章 血糖変化に対するHbA1cとグリコアルブミンの応答

図3.血糖変化に対するHbA1cの応答

 糖尿病の臨床では,定期的にHbA1cまたはグリコアルブミンを測定し,食事療法や運動療法の指導,血糖降下薬の調節などを行います.この時,HbA1cやグリコアルブミンから単に過去の血糖コントロールの良し悪しを判定するのではなく,両指標の推移を見ることが大切です.その理由は,両指標の動的な読み方が分かれば,その推移を見ることにより今後これら指標がどのように変化するかを予測することができるからです.本章では,血糖が改善(あるいは悪化)する時,両指標がどのように変化するかを解析し,これらの動的な読み方について解説します.
● 3.1) 血糖変化に対するHbA1cの応答
● 3.2) 血糖変化に対するグリコアルブミンの応答

第4章 HbA1c,グリコアルブミン,血糖の相互変換

図4.従来法による回帰分析の考え方とMeasurement Error Model法

 これまでは糖尿病患者の血糖を長期に渡り正確に測定することは非常に困難でした.このため糖尿病の臨床では,HbA1cおよびグリコアルブミンを用いて血糖コントロール状態を判定してきました.ところが,最近,簡便なCGM機器が市販され,日々の血糖を詳細に調べることが可能になりました.従って,今後,CGMで得られた血糖をHbA1cおよびグリコアルブミンと比較検討する機会が増えると考えられます.本章では,これら3者の相関関係についてのこれまでの知見をまとめ,3者間の相互変換法を確立します.
 「4.1」では,従来の回帰分析法における統計学的問題点を解説し,新しいMeasurement Error Model法による回帰分析を提案します.「4.2」「4.3」では,従来法による回帰分析結果とMeasurement Error Model による回帰分析結果を提示し,望ましい相互変換式を導きます.「4.3」では主成分分析法を応用し,HbA1cとグリコアルブミンを総合した新しい血糖コントロール指標を提案します.
● 4.1) 従来法による回帰分析の問題点とMeasurement Error Model法
● 4.2) HbA1cとグリコアルブミンの相互変換
● 4.3) 
HbA1cと血糖の相互変換
● 4.4) 主成分分析法を用いた総合的血糖コントロール指標

第5章 HbA1cとグリコアルブミンの精度と誤差

図5.検査における誤差とバイアス

 現在のHbA1cおよびグリコアルブミンの測定機は精度がよく,誤差は非常に小さくなっています.しかし,臨床的には測定誤差以外に合併疾患,個人差,不規則な血糖変動などにより誤差やバイアスが発生します.このため,両指標を単純に血糖に変換しても正しい血糖コントロール状態を判定することはできません.「5.1」では,このようなHbA1cとグリコアルブミンに関する精度,誤差,バイアスについて解説し,臨床におけるデータの見方を検討します.
 更に,「透析患者におけるHbA1cの特異的な変化」および「肥満者おけるグリコアルブミンの低値」の2つの問題は臨床的に重要で興味深い問題を含んでいます.両者を「5.2」「5.3」で特別に取り上げ,詳しく検討します.
● 5.1) HbA1cとグリコアルブミンの精度,誤差,バイアス
● 5.2) 透析患者における血糖コントロール指標
● 5.3) 肥満者におけるグリコアルブミンの低下

第6章 HbA1cとグリコアルブミンの乖離

図6.HbA1cとグリコアルブミンの乖離

 HbA1cとグリコアルブミンは血糖以外の要因によって大きな影響を受けます.このため,症例によって両者に大きな「ずれ」が発生し,両指標の乖離という現象が発生します.本章ではこの乖離を特別に取り上げ解説します.
 「6.1」では,HbA1c-グリコアルブミン対比チャートを用いて,いろいろな症例を提示します.「6.2」では,多数例の乖離度を統計学的に解析し,HbA1cとグリコアルブミンがどれぐらい標準値からずれるかを検討します.
● 6.1) HbA1c-グリコアルブミン対比チャート
● 6.2) 乖離度からHbA1cとグリコアルブミンの誤差を計算する

第7章 HbA1cとグリコアルブミンの個別化と標準化

図7.HbA1cとグリコアルブミンの個別化と標準化

 HbA1cとグリコアルブミンの乖離の原因は,血糖値に対する糖化係数が患者毎に異なるためであると考えられます.もし患者毎の糖化係数を正確に決定できる方法があれば,両指標にどのような乖離があっても血糖コントロール状態を正確に判定することが可能になります.これまでは患者毎の糖化係数を個別に決定することは困難でしたが,最近発売されたCGM機器を用いればヘモグロビンおよびアルブミンに対する糖化係数を患者毎に決定することが可能になります.本章では,「7.1」でCGMを用いた新しい糖化係数決定法の臨床的意義,「7.2」でアルブミン糖化係数の決定法,「7.3」でヘモグロビン糖化係数の決定法,「7.4」でコンピューターソフトを用いた両者の具体的な解析方法,「7.5」でこの方法をどのように臨床に生かすか? について詳しく解説します.
● 7.1) HbA1cとグリコアルブミンの個別化はなぜ必要か?
● 7.2) CGMを用いたアルブミン糖化係数の決定法
● 7.3) CGMを用いたヘモグロビン糖化係数の決定法
● 7.4) CGMを用いたアルブミンおよびヘモグロビン糖化係数決定の実際
● 7.5) HbA1cとグリコアルブミンの個別化と標準化