1.血糖が階段状に改善した場合のグリコアルブミンの変化 1,2)
図1.血糖が階段状に改善した場合のグリコアルブミンの変化
最も基本的なケースとして治療により血糖が階段状に改善した場合について改めて検討します.血糖が階段状に改善した場合の血糖値 \(G(t)\) は
\begin{align}
G(t) = \begin{cases} G_0 & t ≤ 0 \text{ の時}\\
G_1 & 0 < t \text{ の時}
\end{cases}
\end{align}
となります.この時,グリコアルブミンは
\begin{align}
GA(t) =
\begin{cases}
\frac{k}{α} G_0 & t ≤ 0 \text{ の時}\\
\frac{k}{α} G_1 + \frac{k}{α} (G_0 - G_1)e^{-α t} & 0 < t
\text{ の時}\\
\end{cases}
\end{align}
という変化を示します.\(α\) は血中アルブミンの代謝速度定数で,アルブミンの代謝半減期を \(τ\) とすると
\begin{align}
α = 0.693/τ
\end{align}
で与えられます.このグリコアルブミンの変化を図1に示します.GAは半減期 \(τ\) で新しい平衡値に向かってゆっくり変化していきます.
2.血糖が直線的に改善した場合
血糖が \(s\) 日かけて \(G_0\) から \(G_1\) に直線的に低下する場合について検討します.この時,\(G(t)\) は
\begin{align}
G(t) = \begin{cases}
G_0 & t ≤ 0 \text{ の時}\\
G_1 + (G_0 -G_1) \left(1 - \frac{t}{s} \right) & 0 < t ≤ s \text{ の時}\\
G_1 & s < t \text{ の時}
\end{cases}
\end{align}
となります.この時のグリコアルブミンの変化を計算しましょう.ただし,HbA1cの場合と同じように,規格化のため次の関数 \(f(t)\) を導入します.
\begin{align}
GA(t) = \frac{k}{α} G_1 + \frac{k}{α} ( G_0 - G_1 ) f(t)
\end{align}
このようにすると,\(f(t)\) は次のようになります.
\begin{align}
f(t) = \begin{cases}
1 & t ≤ 0 \text{ の時}\\
1 - \frac{1}{α s} \{ 1 - α(t-s) - e^{-α t} \} & 0 < t ≤ s \text{ の時}\\
\frac{1}{α s} \{ e^{-α (t-s)} - e^{-α t} \} & s < t \text{ の時}\\
\end{cases}
\end{align}
この式もかなり複雑なので,生理学的な意味を理解することはやはり非常に困難ですので,数値計算を行って生理学的意味を検討しましょう.
アルブミンの半減期を20日とし,血糖改善時間 \(s\) を0〜30日に変えて \(f(t)\) の時間変化を計算した結果を図2に示します.血糖改善時間 \(s\) が長くなると,次第にグリコアルブミンの改善が遅れてくることが分かります.
図2.血糖が直線的に改善した場合のグリコアルブミンの変化 図3.グリコアルブミンの50%改善時間
図4.血糖が直線的に改善した場合,グリコアルブミンは \(s/2\) だけ遅れる
そこで,グリコアルブミン改善の遅れが血糖改善時間 \(s\) とアルブミン半減期 \(τ\) にどのように依存しているかを調べましょう.図3に,\(τ\) を14〜23日に変化させ,グリコアルブミンの50%改善時間が \(s\) にどのように依存するかを調べた結果を示します.●で示した結果が計算結果です.HbA1cの場合と同じように,グリコアルブミン50%改善時間と \(τ\),\(s\) の関係は
\begin{align}
\text{GAの50%改善時間} = τ + 0.5s
\end{align}
という近似式に非常に近い値になっています.図3に示す破線がこの近似式です.●で示す結果と近似式は \(s ≤ 15\) では非常に良く一致しています.\(s > 15\) ではずれがやや大きくなっていますが,ずれの大きさは1〜2日ですので,実用的には問題のない範囲です.従って,グリコアルブミンの場合も血糖が直線的に改善した場合は,血糖改善に要した時間の1/2だけ改善が遅れると考えてよいことになります.この関係を模式的に示したものが図4です.