HbA1cとグリコアルブミンは先行期間の平均血糖に比例しますが,合併疾患があると様々な「ずれ」を発生します.問題は,HbA1cおよびグリコアルブミンに影響を与える疾患や特別な病態のない患者であっても,両指標に大きな乖離を示す例が多数存在することです.このような乖離の原因は,血糖値に対する糖化係数が患者毎に異なるためであると考えられます.糖化係数に個人差が存在する原因は明らかではありませんが,赤血球寿命やアルブミン半減期の個人差が最大の原因と考えられます.糖化係数が患者毎に異なるため,これらの指標から血糖コントロール状態を判定する際には,個人差を起こす種々の要因を考慮しながら判定することが必要になります.しかし,実際にはこのような判定は非常に困難で,正確な血糖コントロール状態の判定は難しいと言わざるを得ません.各患者の血糖コントロール状態を正確に判定するためには,ヘモグロビンおよびアルブミンに対する糖化係数を患者毎にきちんと決定すればいいわけです.本章では,これまでの方法の問題点,この問題に対する新しい解決法,この新しい方法の臨床的利用法について順に説明したいと思います.
図1.平均血糖とHbA1cの関係
血糖コントロール指標としてHbA1cの代わりにグリコアルブミンを用いても,この問題が解決するわけではありません.両指標を同時に測定すると,HbA1cあるいはグリコアルブミン単独の場合よりも問題は改善しますが,代わりに両指標の乖離という問題が発生します.これらは,いずれも両指標が単純に平均血糖を表わすわけではないという根本的な問題に原因があります.
HbA1cとグリコアルブミンは基本的には平均血糖に比例する指標です.もちろん,HbA1cとしてNGSP値を用いる場合はHbA1c値から2.15%引いた値が血糖値に比例します.HbA1cにIFCC値を用いる場合は,そのままで平均血糖に比例します.この3者間の比例係数が合併疾患や個人差の影響により患者毎に異なるということになります.この比例係数は「乖離」のページ(第6章 6.1)で説明したように血糖コントロール状態が変化しても一定で,各患者に固有の値になっています.この比例係数を患者毎に定量すれば,HbA1cおよびグリコアルブミンを平均血糖を正確に変換することが可能になります.
図2.平均血糖,HbA1c,グリコアルブミンは相互に比例する
血糖コントロールの安定している患者であれば,日々の血糖を細かく測定し,そのデータから平均血糖を計算すれば,上式を用いて糖化係数 \(β_1\),\(β_2\) を計算することができます.しかし,一般的には,患者の血糖コントロールは日々変化するため,単純に平均血糖を計算しても正確な計算はできません.このため,理論的な計算法を確立することが必要になります.この正確な計算法については次ページ(第7章 7.2,第7章 7.3)で詳しく説明します.ここでは結論だけを述べますが,
@ \(β_2\) は2週間の持続血糖測定(continuous glucose monitoring,CGM)を行えば正確に定量できます.
A グリコアルブミンからHbA1cへの変換係数 \(R\) を両者の同時測定の結果から求めれば,この係数を用いて \(β_2\) から \(β_1\) へ変換することができます(間接法).
B CGMを4ヶ月以上行えば,CGMのデータから \(β_1\) を直接定量することができます(直接法).4ヶ月以下のCGMの場合は,\(β_1\) を正確に定量することはできませんが,近似的な計算であれば可能です(近似直接法).