HbA1cとグリコアルブミンは先行期間の平均血糖で決定されますが,血糖だけでなく,合併疾患や個人差などの多数の要因によって影響を受けます.このため,血糖値が同じであっても,症例により両指標に大きな「ずれ」が発生し,両指標の乖離という現象が起きます.本ページでは,この乖離を特別に取り上げ,これまでの知見や乖離の取り扱い方について解説します.
HbA1cとグリコアルブミンの生成・代謝に影響する因子を有する症例では両指標間に乖離が起こります.HbA1cとグリコアルブミンが乖離する場合は,この要因や病態を考え,総合的に血糖コントロール状態を判定することが必要になります.
HbA1cとグリコアルブミンに乖離があるかどうかを判定するためには,図1に示すHbA1cとグリコアルブミンに関する経過グラフと対比チャートを用いると便利です.対比チャートでは,横軸にHbA1c,縦軸にグリコアルブミンを取り,横軸は1%きざみ,縦軸は4%きざみになっています.また,HbA1cの原点のずれを補正する目的で,横軸の左端は2.0%となっています.更に,HbA1cとグリコアルブミンの標準式を簡易式 \begin{align} GA = (HbA1c-2) × 4 \end{align}
図1.HbA1c-グリコアルブミン経過グラフと対比チャート
忙しい外来では,HbA1cとグリコアルブミンの数値を直接比較しても,意味をじっくり検討するのは大変ですが,上記の対比チャートを用いると非常に分かりやすくなります.ここでは特徴的な症例のデータを示し,対比チャートの有用性を紹介します.
以下の例を見ると,対比チャートを用いると,HbA1cとグリコアルブミンの乖離の有無を一目で判定できることがよく分かります.また,多くの症例で乖離度は長期に渡って一定です.しかし,中には,突然,元の直線からデータが外れていく症例が出てきます.このような症例では,病態が大きく変わっていることが多く,対比チャートで観察しているとこのようなこともすぐ分かります.
症例1.HbA1c-グリコアルブミン経過グラフと対比チャート
症例1は1型糖尿病の患者の結果です.HbA1cとグリコアルブミンが共に冬に高く,夏に低いという典型的な季節変動を示しています.しかし,対比チャート上のデータは45度の直線周囲に分布しています.両指標の比は長期に渡って一定で,両指標間に乖離はみられません.
症例2.HbA1c-グリコアルブミン経過グラフと対比チャート
症例2は2型糖尿病の患者で,高度の悪化と改善を繰り返しています.この患者は長周期の変動と季節変動の2つの変動を繰り返しています.この患者も両指標間に乖離はなく,コントロール状態が大きく変動しても,両者の比は一定しています.
症例3.HbA1c-グリコアルブミン経過グラフと対比チャート
症例3は1型糖尿病の患者の結果で,やはり冬に悪化し夏に改善するという季節変動を示しています.対比チャートでは,グリコアルブミンに比しHbA1cが1〜2%低値を示し,45度の直線より上側に分布しています.両指標は乖離はしていますが,比は一定で一本の直線の周りに分布しています.この患者には特別な要因はなく,個人差による乖離と考えられます.
症例4.HbA1c-グリコアルブミン経過グラフと対比チャート
症例4も1型糖尿病の患者の結果ですが,この患者ではグリコアルブミンに比し,HbA1cが2%ほど高値を示し,45度よりも勾配の小さい直線の周りにデータが分布しています.この患者も乖離をきたす要因はなく,個人差による乖離と考えられます.
症例5.HbA1c-グリコアルブミン経過グラフと対比チャート
症例5は著明な高血糖で発症した1型糖尿病の患者の結果です.治療開始と共にグリコアルブミンが急速に低下するのに対し,HbA1cの低下が遅れる現象を明瞭に示しています.このため,治療開始直後は,データは45度の直線の下側に大きく外れていますが,病状が安定すると,45度の直線上に戻っています.
症例6.HbA1c-グリコアルブミン経過グラフと対比チャート
症例6は溶血性貧血を合併した糖尿病患者の結果です.この患者ではグリコアルブミンに比し,HbA1cが著明な低値を示していますが,乖離度は長期に渡って一定しています.
症例7.HbA1c-グリコアルブミン経過グラフと対比チャート
症例7はBMI=42という高度肥満を伴った2型糖尿病の患者の結果です.この患者のグリコアルブミンはHbA1cに比し著明な低値を示し,45度よりも勾配の小さい直線の周りにデータが分布しています.また,時々,急に食事療法を頑張ることがあり,その時はグリコアルブミンが先行して低下するため両指標の乖離が更に大きくなっています.