第4章 HbA1c,グリコアルブミン,血糖の相互変換

4.2) HbA1cとグリコアルブミンの相互変換

作成日:2018/9/5,最終更新日:2019/1/16

 HbA1cおよびグリコアルブミンは最も代表的な血糖コントロールを判定する指標です.糖尿病の診療では,これらの指標を比較・検討しながら,糖尿病患者のコントロール状態を判定し,治療方針を決定します,ただし,これら指標を読む場合に2つの問題に注意することが必要です.第1はHbA1cのNGSP値には2.15%のかさ上げがあること,第2は合併疾患や個人差により同じ血糖値であっても必ずしも同一の数値にならないことです.特に後者の問題は非常に重要な問題ですが,詳しく論じる前に,両指標の基本的な関係を確立しておくことが必要です.このため,本ページでは,全体としての平均的なHbA1cとグリコアルブミンの相関および相互変換について検討します.

1.2型糖尿病患者におけるHbA1cとグリコアルブミンの相関

図1.HbA1cとグリコアルブミンの相関.A:グリコアルブミンが独立変数,B:HbA1cが独立変数,C:MEM法

 私達は,HbA1cとグリコアルブミンの相関を調べるため,両指標に影響を与える要因を持たない2型糖尿病患者を対象に,両指標の同時測定を行い,従来法とMEM法で回帰分析を行いました 1).その結果を図1に示します.解析結果は,グリコアルブミンを独立変数とすると,回帰式は \begin{align} HbA1c(JDS) = GA × 0.204 + 2.59 \end{align} となり,逆に,HbA1cを独立変数とすると \begin{align} GA = HbA1c(JDS) × 2.74 + 2.26 \end{align} となりました.MEM法では \begin{align} HbA1c(JDS) = GA × 0.245 + 1.73 \end{align} となりました.このMEM法による解析結果がHbA1cとグリコアルブミンの間の最も正確な回帰式と考えられます.MEM法の結果は,グリコアルブミンからHbA1cへの変換に使えるだけでなく,HbA1cからグリコアルブミンへの変換にも使うことができます.ただし,この研究の当時は,我が国ではHbA1cの単位としてJDS値が用いられていましたので,図1のHbA1c値はJDS値で表示されています.その後,HbA1cの単位系がJDS値からNGSP値に切り替えられましたが,その変換式は \begin{align} HbA1c(NGSP) = HbA1c(JDS) × 1.02 + 0.25 \end{align} と報告されています 2).従って,上記のMEM法の結果はNGSP値では \begin{align} HbA1c(NGSP) = GA × 0.250 + 2.01 \end{align} となります.このMEM法の回帰式で分かることは,HbA1c(NGSP)1%がグリコアルブミン4%に相当すること,変換式には2.01%の定量的なずれがあることの2つです.初めに述べたように,NGSP値には2.15%の原点のずれがありますが,MEM法の結果は2.01%の定数項を示しており,この値と非常によく一致しています.

2.全患者データでのHbA1cとグリコアルブミンの相関

 本ホームページを作成するに当たり,当院で過去10年間に行ったHbA1c(NGSP)とグリコアルブミンの同時測定の結果を全て集計してみました.その結果が図2と図3です.対象からは透析患者は除外しましたが,その他の患者は,合併疾患を有する者も全て含まれています.このためデータのバラツキが非常に大きくなっています.このデータを用いて回帰分析を行ってみました.回帰式は,グリコアルブミンを独立変数とすると \begin{align} HbA1c(NGSP) = GA × 0.190 + 3.45 \end{align} となり,HbA1cを独立変数とすると \begin{align} GA = HbA1c(NGSP) × 3.11 - 1.88 \end{align} となりました.MEM法では \begin{align} HbA1c(NGSP) = GA × 0.247 + 2.30 \end{align} となりました.図3を見ると,MEM法の結果はきれいに集団の軸を通過しています.このデータでも定量部は2.30%となり,NGSP値のずれ量である2.15%に非常に近い値となっています.このように,MEM法を用いると非常に正確な回帰分析ができることが分かります.

図2.従来法での回帰分析結果       図3.MEM法での回帰分析結果

3.DCCTデータでのHbA1cとグリコアルブミンの相関

 NathanらはDCCTの保存血清を用いてグリコアルブミンを測定し,グリコアルブミンとHbA1cの相関関係を調べています 3).彼らの解析方法は従来法ですが,その結果は \begin{align} &a = 3.37 \\ &R^2 = 0.746 \end{align} でした.彼らの対象者のHbA1cとグリコアルブミンの値は 8.8±1.6%および 29.8±7.4%でしたので,回帰直線は \begin{align} GA - 29.8 = ( HbA1c-8.8 ) × 3.37 \end{align} となります.この式は \begin{align} GA = HbA1c × 3.37 + 0.14 \end{align} と書くこともできます.彼らの結果を図4に示しますが,回帰式とHbA1c軸との交点は -0.04%となります.残念ながら,この回帰直線は原点近くを通り,HbA1c=2.15%の近くを通過しません.この最大の原因は従来法で解析したためであろうと推測されます.

 そこで,前のページ(第5章 5.1)で説明した方法で,彼らのデータを用いてMEM法による解析を試みました.彼らの結果から \begin{align} &a = U = 3.37\\ &R^2 = U^2 / V = 0.746 \end{align} となります.従って,\(U\),\(V\) は \begin{align} &U = 3.37\\ &V=15.22 \end{align} となります.HbA1c1%はグリコアルブミン4%に相当し,両者の誤差の \(CV\) が等しいと仮定すると \begin{align} μ = 16 \end{align} と推定されます.これらの数値を用いてMEM法で再解析を行うと,回帰式は \begin{align} GA = HbA1c × 3.88 -4.34 \end{align} となります.この回帰直線とHbA1c軸との交点は \(HbA1c=1.12\)%となり,2.15%には達していませんが,かなり改善しています.図6はDCCTのデータに我々の回帰直線 \(GA=(HbA1c-2.01) ×4\) を重ねたものですが,これが一番よく一致しているのではないでしょうか?


図4.従来法での回帰分析結果  図5.MEM法での回帰分析結果  図6.我々の回帰式との比較

4.原点を通るHbA1cとグリコアルブミンの変換式

 原理的には平均血糖が 0 の時,HbA1c(IFCC)およびグリコアルブミンは共に0%になります.HbA1c(NGSP)の場合は,平均血糖が 0 の時,HbA1cは2.15%になります 4).今後の理論的な展開を考え,これらの点を原点と考え,この原点を通る関係式を検討しましょう.HbA1cにNGSP値を用いると,HbA1cとGAの関係は \begin{align} HbA1c = GA × R + 2.15 \end{align} となります.原点を通る回帰式を求めるためには,通常の回帰分析とは異なる統計学的計算が必要となりますが,複雑なので,ここでは単純にデータの重心(平均点と同じ)を通ると仮定しましょう.この仮定は近似的な方法ですが,通常の回帰直線は必ずデータの重心を通りますので,この仮定は納得できる仮定と考えられます.また,これまでに示した従来法やMEM法による回帰直線も原点のすぐ近くを通っていますので,原点を通ると仮定しても実際の関係式はほとんど変化しません.
 私たちのデータでは,重心はHbA1c(JDS)=6.9%,GA=21.1%でした 1).このHbA1cをNGSP値に変換すると7.29%になります.従って, \begin{align} R = (7.29-2.15) / 21.1 = 0.2436 \end{align} となります.従って,HbA1cとグリコアルブミンの関係は \begin{align} HbA1c = GA × 0.244 + 2.15 \end{align} となります.式(5)と比較すると,定数部が少し大きくなり,その分 \(R\) が少し小さくなります.

参考文献

  1. Tahara Y: Analysis of the method for conversion between levels of HbA1c and glycated albumin by linear regression analysis using a measurement error model. Diabetes Res Clin Prac 84:224-229, 2009.
  2. Tominaga M, Makino H, Yoshino G, et al.: Japanese standard reference material for JDS Lot 2 haemoglobin A1c. I: Comparison of Japan Diabetes Society-assigned values to those obtained by the Japanese and USA domestic standardization programs and by the International Federation of Clinical Chemistry reference laboratories. Ann Clin Biochem 42:41-46, 2005.
  3. Nathan DM, Paula McGee P, Steffes MW, et al: Relationship of glycated albumin to blood glucose and HbAlc values and to retinopathy, nephropathy, and cardiovascular outcomes in the DCGT/EDIC study. Diabetes 63:282-290, 2014.
  4. Hoelzel W, Weycamp C, Jeppson J-O, et al.: IFCC reference system for measurement of hemoglobin A1c in human blood and the national standardization schemes in the United States, Japan, and Sweden: a method comparison study. Clin Chem 50:166-174, 2004.