第1章 HbA1cはいつの血糖を表わすか?

1.3) HbA1cと過去の血糖の関係:図形で説明

作成日:2018/8/16,最終更新日:2018/8/30
 

図1.HbA1cに対する過去の血糖の寄与率

 HbA1cと血糖の関係は臨床データの解析(第1章 1.1)および数学的な解析(第1章 1.2)により明らかになりました.図1にHbA1cに対する過去の血糖の寄与率を示しますが,これまでの解析は非常に現象論的な解析であり,血中の糖化プロセスを具体的に見せてくれるものではありません.もっとヘモグロビンに対するグルコースの結合過程を目で見るように説明することはできないでしょうか? そこで,詳しく検討した結果,次のように説明できることが分かりました.
 

 

図2.赤血球の生成から寿命までの期間におけるグリコヘモグロビンの生成と代謝

 赤血球中におけるグリコヘモグロビンの産生を,時間を追って観察しましょう.図2に赤血球が産生されてから寿命を終えるまでの期間におけるグリコヘモグロビンの生成と代謝を示します.生成直後の赤血球中にはグリコヘモグロビンはまだ生成されていません.1日経つとグリコヘモグロビンが1個生成されると仮定します.2日経つと赤血球中のグリコヘモグロビンは2個になり,もっと時間が経つとグリコヘモグロビンが次々と生成され赤血球中に蓄積されていきます.しかし,120日経つと赤血球の寿命が尽き,グリコヘモグロビンは赤血球と共に血中から除去されることになります.

 

図3.ある時点における赤血球を年齢別に並べた場合のグリコヘモグロビン量

 HbA1cを測定する場合は,上のように,時間を追って観察するのではなく,断面的に観察することになります.この時の血中の赤血球は年齢が0日のものから120日のものまでが均等に分布しています.これらを年齢順に並べると,図3のようになります.赤血球中ではグリコヘモグロビンが1日に1個生成されると仮定しましたので,年齢1日の赤血球中のグリコヘモグロビンは1個,年齢2日の赤血球中のグリコヘモグロビンは2個,年齢3日の赤血球中のグリコヘモグロビンは3個になり,年齢120日の赤血球中のグリコヘモグロビンは120個になります.

 

図4.赤血球中の糖化ヘモグロビン生成と過去の血糖の関係
 

 そこで,横軸に赤血球の年齢を取り,縦軸にグリコヘモグロビンを積み上げると図12のようになります.この図では,年齢1日の所にはグリコヘモグロビンが1個積まれており,年齢2日の所にはグリコヘモグロビンが2個積まれています.積まれたグリコヘモグロビンの数は年齢と共に増加し,年齢120日の所には120個のグリコヘモグロビンが積まれています.この積まれたグリコヘモグロビンを横から見ると,1日前の血糖によって生成されたグリコヘモグロビンは年齢1日〜120日までの全ての赤血球中に1個ずつ含まれていることになり,全体では120個存在することになります.2日前の血糖によって生成されたグリコヘモグロビンは年齢2日〜120日までの全ての赤血球中に1個ずつ含まれていることになり,全体では119個になります.同様に,3日前の血糖によって生成されたグリコヘモグロビンは118個になります.このように過去になるほどその血糖により生成されたグリコヘモグロビン数が減少し,120日前の血糖により生成されたグリコヘモグロビンは年齢120日の赤血球中に1個含まれているのみになります.このように考えると,最近の血糖ほどグリコヘモグロビンへの寄与が大きく,過去の血糖ほど寄与が小さくなること,またHbA1cに対する血糖の寄与率が時間と共に直線的に減少することが分かります.