第1章でHbA1cと過去の血糖の関係について詳しく説明しましたが,本ページではグリコアルブミンが過去の血糖をどのように反映するかについて説明します.HbA1cの場合と同じように,アルブミンも生成時には糖化されておらず,血中を循環する間にグルコースと結合し,次第にグリコアルブミンを生成します.アルブミンの代謝半減期は2〜3週とかなり短かいので,グリコアルブミンは代謝が速く,その分,短期の血糖を反映することになります.また,グリコアルブミンは血中から直接代謝されるため,生成代謝方程式がHbA1cのような複雑な式にはならないという利点があります.
図1.グリコアルブミンの生成と代謝
グリコアルブミンの生成代謝反応は図1のようになります.ただし,AlbGは可逆型グリコアルブミン,GAlbは非可逆型グリコアルブミンを示します.グリコアルブミン測定値はGAと記載します.各分子の血中濃度を[]で示すと,図1の反応は \begin{align} \frac{d[AlbG]}{dt} = k_1 [Alb][G] - (k_2 + k_3 ) [AlbG] \end{align} \begin{align} \frac{d[GAlb]}{dt} = k_3 [AlbG] - α [GAlb] \end{align} と記載できます.\(α\) はアルブミンの代謝速度定数で,血中アルブミンの代謝半減期を \(τ\) とすると \begin{align} α =0.693/τ \end{align} で与えられる定数です.第一反応は反応が速く,平衡状態になっていると考えられます.従って, \begin{align} [AlbG] = \frac{k_1}{k_2 + k_3} [Alb][G] \end{align} となっています.これを第二式に代入すると \begin{align} \frac{d[GAlb]}{dt} = k [Alb][G] - α [GAlb] \end{align} \begin{align} k = \frac{k_1}{k_2 + k_3} \end{align} となります.\(k\) は糖化速度定数で,共存物質などの影響を受けにくい定数ですが,アルブミンの半減期 \(τ\) は合併疾患,肥満度,炎症などの多彩な影響を受けやすい定数であるため,\(α\) は個人差の大きい定数です.アルブミン濃度が一定の場合は,両辺を \([Alb]\) で割ると \begin{align} \frac{dGA(t)}{dt} = kG(t) - α GA(t) \end{align} となります.\(GA(t)\) は時刻 \(t\) におけるグリコアルブミン測定値,\(G(t)\) は時刻 \(t\) における血糖値です.この方程式がグリコアルブミンの基礎的な代謝方程式となります.
この方程式は簡単に解くことができ,その解は \begin{align} GA(t) = \int_{-∞}^{t} ke^{-α (t-z)} G(z)dz \end{align} となります.HbA1cの場合と異なるのは,アルブミンには寿命はないので,積分期間が \(-∞ ∼ t\) となることです.ここで \begin{align} x = t - z \end{align} と置くと,上記の式は \begin{align} GA(t) = k \int_{0}^{∞} e^{-α x} G(t-x)dx \end{align} となります.
図2.グリコアルブミンに対する重み関数\(W(x)\)
図3.グリコアルブミンに対する過去の血糖の寄与率
図4.HbA1cと過去の血糖の関係
通常,\(τ\) は14〜20日とされています.アルブミン代謝に影響を及ぼす合併疾患や病態を有する場合は,病態によって \(τ\) が異なります.代表的な値として \(τ=14\) 日とした場合,グリコアルブミンと過去の血糖の関係は図4のようになります.図4には,HbA1cと過去の血糖の関係も示していますが,両者を比較すると,グリコアルブミンはHbA1cのほぼ1/2の期間の血糖を反映することが分かります.