入試物理雑感 ~気になる問題~
~ 掲載論文の要約 ~
[1] 「静止とはなにか」 (3頁) [226 KB] PDF ➡
静止とは物体の位置座標が時間的に変化しないことである。当たり前のことではあるが, 同じ物体であっても座標軸の設定の仕方によっては静止していることもあれば運動していることもある。 (2016/02/29)
[2] 「大学教授も間違える遠心力の問題(前篇)」 (5頁) [338 KB] PDF ➡
高校の物理教育では, 遠心力の公式は物体の等速円運動をもとにして力のつりあいから導かれる。軌道が円でない場合に, 遠心力を導入して物体のつり合いや運動を説明するときには注意しなければならない。 (2016/02/29)
[3] 「大学教授も間違える遠心力の問題(後篇)」 (5頁) [260 KB] PDF ➡
軌道の曲率半径は運動方程式で決まる。その関係式を用いて, 保存力のもとに平面運動する物体の軌道が満たすべき微分方程式を導く。それを数値積分することによっていくつかの具体例で軌道を計算する。 (2016/02/29)
[4] 「潮汐力について」 (10頁) [524 KB] PDF ➡
潮汐平衡論は大昔に確立された分野であるが,高校生を含む初学者に満潮が地球の対蹠点にも生じることを説明するとき, その教え方について一部に混乱が見られるようである。本稿では赤道での満潮に限定して, 物理を学習した高校生であれば理解できる方法を提示する。ただし, コリオリ力を用いた方法は高校物理の範囲外である。 (2016/02/29)
[5] 「ラグランジュ点について(前篇)」 (8頁) [353 KB] PDF ➡
さまざまな観測衛星が打ち上げられているラグランジュ点の位置について,
高校生でも理解できる定量的な考察を行う。 (2016/11/13)
[6] 「ラグランジュ点について(後篇)」 (11頁) [679 KB] PDF ➡
二重星の近傍にある微小物体の運動方程式を解き, ロッシュ・ローブからの巨星大気の溢れ出しとラグランジュ点にある物体の安定性を論じる。本稿は制限三体問題の入門編になっている。 (2016/11/13)
[7] 「連星と超新星爆発」 (9頁) [640 KB] PDF ➡
連星の構成員が超新星爆発をしたときに連星が保持される条件を求め, それが二つの中性子星から成る連星の形成過程とどのように関わってくるのかを,
一つの具体例を紹介することによって示す。 (2017/01/07)
[8] 「センター試験も間違える光電管の問題 (前篇)」 (10頁) [453 KB] PDF ➡
光電管に入射する光子のエネルギーと電極の仕事関数と阻止電圧の間に成り立つ関係式として, 高校「物理」の教科書が載せている関係式は間違っている。間違いは電極間の接触電位差を無視したことに起因する。その理由の説明をした後, 間違いの歴史的背景および現状と今後の対策について述べる。 (2017/03/08)
[9] 「センター試験も間違える光電管の問題 (後篇)」」 (9頁) [453 KB] PDF ➡
ミリカンは油滴実験によって電気素量の値を求めたことで有名であるが, 光電効果に関するアインシュタインの式が正しいことを実験によって示し, その測定値からプランク定数の値を0.5%の精度で求めるという大きな業績も残している。これもノーベル賞(1923年)の授賞理由の一つに挙げられている。その実験を記述した3つの主要論文は, 100年前に書かれた長い論文ということもあって少々読みにくいので,その要約をここに提示する。
多くの(注)を付け加えましたが, 読まれる方は最初(注)を無視して通読された後で, 気になる箇所の(注)に戻られたほうが読みやすいと思います。 (2017/04/20)
[10] 「センター試験も間違える光電管の問題 (補足)」 (11頁) [453 KB] PDF ➡
前半は, 光電効果では光子が金属の外部から内部へ入射してくるのに, その運動量を吸収した自由電子がどのようにして内部から外部へ飛び出してくるのか,
という学生の質問に対する回答である。後半ではファウラープロットについて解説する。これは光電管で測定された電流-電圧曲線の外挿に頼らずにエミッタ―の限界振動数を求める方法である。
(2017/09/21)
[11] 「負の比熱とヴィリアル定理」 (10頁) [523 KB] PDF ➡
比熱が負となる気体の状態変化とゆっくり落下する人工衛星の運動には類似性がある。これら二つの物理現象を題材にした入試問題を用いてその類似性を説明し, 類似性が成り立つ要因の一つがヴィリアル定理(ビリアル定理)であることを指摘する。後半では, ヴィリアル定理を証明し, その応用例として, 初めて暗黒物質の存在を論じた歴史的な論文(Zwicky 1937年)の要約と, 恒星系が負の比熱を持つことに起因する球状星団の力学的進化のさわりの部分を紹介する。 (2017/11/10)
[12] 「予備校講師も間違えるうなりの問題」 (8頁) [552 KB] PDF ➡
わずかに振動数が異なる音波を発する2つの音源があり, それらを結ぶ線分上でうなりが生じているとき, ある瞬間において, 音の大きさが極大となっている位置の間隔はいくらか,
という問題が同志社大学(2019年)に出題された。4つの予備校が公表した正解はすべて間違っている。見慣れない問題で引っ掛かりやすいので, 注意が必要である。
(2019/03/30, 追記1:2019/07/05, 追記2:2019/07/29, 追記3:2019/09/01)
[13] 「弾性体棒を伝わる縦波の速さと固有音響インピーダンス」 (8頁) [331 KB] PDF ➡
弾性体内を伝わる波は高校「物理」の範囲を超えるが, 大学入試に登場した直線状の多体連結バネ振子の問題をもとにして, 細長い弾性体棒の中を軸方向に伝わる縦波の速さと不連続面での反射と透過について解説する。 (2019/04/08)
[14] 「クントの実験に関していまだによくわかっていないこと (1) (改訂版)」 (8頁) [333 KB] PDF ➡
気柱共鳴管の一端を音の反射板で閉じ, 他端から音源の振動板を差し入れて共鳴を起こさせたとき, 振動板のところに変位の定常波の腹が生じることがあると主張する人がいる。本稿では, 共鳴が生じているとき振動板の表面に実質的な節が生じ, 腹は生じないことを簡単な実験によって示す。 (2019/06/08,改訂版:2020/09/12)
[15] 「クントの実験に関していまだによくわかっていないこと (2)」 (17頁) [468 KB] PDF ➡
反射板によって閉じられた音響管では, 反射板から外部に漏れ出してくる音の強さは音響管が共鳴しているときに最大となる。自明と思われるこの事実を定量的に説明するために, 漏れ出してくる音の強さを気柱の長さの関数として表す式を, 音響学の基本方程式から導き出す。本稿は音響学の入門編にもなっている。 (2019/06/08, コルクのデータ変更:2019/09/06, 最後の結論の追加:2020/09/12)
[16] 「ダイナミックスピーカーのT/Sパラメーター」 (13頁) [460 KB] PDF ➡
気柱共鳴実験ではダイナミックスピーカーが音源としてよく用いられる。共鳴の詳細を理論的に解析するためには, その構造についての知識が必要となる。ダイナミックスピーカーの構造や性能を定量的に表すものがT/Sパラメーターである。ここではT/Sパラメーターの定義を説明したあと, 市販されているウーファーのT/Sパラメーターを基にして, そのウーファーのインピーダンス関数と周波数伝達関数の大きさを数値計算で求める。 (2020/09/12)
[17] 「クントの実験に関していまだによくわかっていないこと (3)」 (10頁) [419 KB] PDF ➡
円筒管の一端に平面の放射板を持つダイナミックスピーカーを固定し, 他端を音の完全反射板で閉じた音響管を考える。スピーカーの振動数を変化させたとき, 振動板の速度振幅と管内に生じる定常波の腹における空気の速度振幅がどのように変化するかを表す理論式を求める。それを用いて一つの具体例で数値計算をしたところ, 気柱は両端を節とする変位速度の定常波が生じたときに共鳴し, 同時にスピーカーの振動板も共振することがわかった。振動板に腹が生じる定常波は, 共鳴ではなく反共鳴である。 (2020/09/12)
[18] 「クントの実験に関していまだによくわかっていないこと (4)」~ アンドラーデの実験の要約と未解決問題 I ~ (18頁) [604 KB] PDF ➡
クントの実験で共鳴管に封入された微粒子がなぜ縞模様を形成するのか, クントの論文が出版されてから155年も経つのに, いまだによくわかっていない。アンドラーデは90年前に, 音波の定常波によって管内に循環流が生じることと微粒子の周りに渦ができることを発見し, これらが縞模様の形成に関与していることを論じた。本稿では, 循環流と渦発生の実証実験について記述している第1論文の概要を紹介する。
ついでに, 上記の循環流や渦のような音響流に関する理論研究の先駆けとなったレイリーの歴史的な論文のあらましも, 補足として付け加えておく。 (2021/07/16)
[19] 「クントの実験に関していまだによくわかっていないこと (5)」~ アンドラーデの実験の要約と未解決問題 II ~ (18頁) [658 KB] PDF ➡
アンドラーデが行った実験の成果は異彩を放っており, 現在に至るも並ぶものがない。その全容を知るには原論文を丹念に読むのが一番よいのだが, 添えられた写真だけで44枚もあり, 微に入り細を穿った説明が33頁も続くので, 各事象の関係を正確に把握するには忍耐を要する。本稿では粉末の縞模様と粒子にはたらく力についての実験に的を絞って, その概要を紹介する。 (2021/08/14)
[20] 「宇宙ヨットの加速とエネルギー変換効率 (1)」 (10頁) [427 KB] PDF ➡
レーザー光によって宇宙ヨットを加速するときの光子とヨットの相互作用およびエネルギーの変換効率について, 専門家たちが学術論文で論じていることのなかに,
筆者には納得しがたいものがある。それらについて意見を述べる。 (2024/01/16)