Canzoniere Del Lazio

Canzoniere Del Lazio
Pasquale Minieri - Giorgio Vivaldi (Carnascialia)
Luigi Cinque
Piero Brega
Clara Murtas

Quando Nacesti Tune

　　1974年、1st。ジャズ・ロック、アバンギャルドな音楽要素はこの第1作目ではほとんど見られず、イタリアン・トラッドの楽曲をほぼストレートに演奏しているに留まっている。

Lassa sta' la me creatura

　1974年、2nd。Pasquale Minieri、Giorgio VivaldiやLuigi Cinqueなど、新メンバーの増強により、普通のトラッド・バンドからシリアスかつアバンギャルドな作風に様変わりしている。どちらかと言えば、後年に発表される「Carnascialia」に近いものを感じる。それにしても強烈に印象的なジャケットだ。

Spirito Bono

　　1975年、3rd。前作のシリアスかつアバンギャルドな作風に疾走感も加わってきており、次作「Miradas」の熱血フォーク・ロックに至る準備ができたかの様である。彼らの2nd、3rd、4th及び「Carnascialia」は、トラッド系バンドのなかでもCanzoniere Del Lazioをひときわ特異な存在として認識させてくれる作品だと思う。

Miradas

　1977年発表の4作目。地中海音楽とプログレ/ジャズロックをミックスした音楽性を持つカンツォニエーレ・デル・ラツィオの最高傑作である。このバンドの特色は、やはり地中海地方の民族音楽が全編を貫いている点だろう。時にはたおやかに、時には奇妙に、特にはキツイ感じに聞こえる民族色豊かなメロディとアンサンブルが素晴しい。その地中海メロディに絡み付く土着的なリズムとジャズロック・フレーバーを主軸に、主題となる一定のフレーズを繰り返しながら徐々に盛り上げていくといった構成の曲を演奏している。国が違うので単純な比較・評価は難しいが、ドイツのヘルダーリンの「Hoelderlins Traum」やスペインのコンパニヤ・エレクトリカ・ダルマの「Llibre Vermell」と甲乙つけがたい高水準のトラッド・ロックだと思う。ちなみに、中心メンバーであるジョルジオ・ヴィヴァルディとパスカル・ミニェーリは後に、デメトリオ・ストラトス(Area)やマウロ・パガーニ(P.F.M.)と共にアヴァンギャルド・トラッドのバンド「Carnascialia」を結成している。
　1曲目は割りと単調なパターンの疾走するリズムに乗って、各種インストゥルメンツが交互に軽くソロを取る曲である。ややジャージーな雰囲気と民族調ボーカルが面白い。2曲目もよく似た感じの曲であるが、バイオリンのフレーズとボーカルが地中海の匂いをプンプンさせている。B面は3曲であるが曲間が無くつながっている。パーカッションのみの曲でガムラン風に聞こえる3曲目を前奏のように配して4曲目が始まる。しかしこの4曲目もスローテンポのゆったりしたボーカルですぐ終わってしまい、次曲への導入部的な感がある。ボーカルが終わると不気味なベースとフルートに導かれたように、5曲目は強靭なジャズロックとなる。キレの良いリズムに乗っかって、呪文のような民族調スキャットが繰り返される。そして中間部の全員パーカッションによるアフロ的展開・それに続くサックスのソロ、強烈な印象で圧倒するボーカル・パートとその後を引き継いで更にトラディショナルなヴァイオリン・ソロという風に素晴しい展開を見せる。A面は地中海の太陽が降りそそぐたおやかな風情であったが、B面は他民族から見た異郷的な違和感が存分に堪能できる。聞く者の血を煮えたぎらせる様な、強烈な祝祭音楽がここにある。

Pasquale Minieri - Giorgio Vivaldi / Carnascialia

　Canzoniere Del LazioのPasquale MinieriとGiorgio Vivaldiによる、1979年の作品。一般的にはCarnascialiaというバンドの作品と捉えられているが（Demetrio Stratosの追悼コンサートではバンド名：Carnascialiaとして出演）、本作の名義は上記二人の連名となっている。
　実を言うと、入手困難で20年以上も聞きたいと切に願っていた作品であるが、運良く中古盤を手に入れて聞いた際には拍子抜けもいいところだった。基本的に地中海音楽が土台になっているのは良いが、「Miradas」の様な熱狂的な民俗音楽性やジャズロック的躍動感をあまりにも期待しすぎていたのかもしれない。しかし日を置いて数回聞くうちに最初のガッカリした印象が180度反転し、実に素晴らしい作品であると思えるようになった。
　地味なくらい起伏の少ない曲調でじわじわと心に沁み込む緩やかな地中海メロディー、そして硬質ながらも淡々とした演奏とミュジーク・コンクレート的な効果音。Demetrio StratosやMauro Paganiがゲスト参加しているのは些細な事と思えるくらい、聞き入ってしまう作品となってしまった。ゆったりとした中にも映像作品のBGMにもなる様な視覚的に刺激される音楽であり、単にのほほんとはしていないアバンギャルドな感覚もある。

Luigi Cinque's Tarantula Hypertext O'rchestra/ Tangerine Cafè

　Canzoniere Del Lazioの2nd・3rdアルバムに参加していたサックス奏者Luigi Cinqueの2002年の作品。打ち込みによるビートの効いたリズムに乗っかって、ヨーロッパから見て対岸のアフリカ北部まで含めた広い意味での地中海風の民俗音楽的ボーカルが絡んでくる。このボーカルが結構呪術的でイタリア然とした感じは全く無く、現代的なビートと合わさる事で妙な空間を作り出している。面白いのはこれだけに留まらず、民俗音楽的ボーカルの合間に、まるでモダンジャズから切り貼りされたかの様なサックス・トランペット・ピアノのソロパートが突然出て来るのである。この辺の確信犯的なチグハグ感のある作り込みが絶妙で、非常に斬新でもある。
　ウィリアム・ギブスンの小説「ニューロマンサー」のチバ・シティ（千葉市）、映画「ブレードランナー」でのロスアンゼルス。これらの舞台は近未来・都市・電脳空間・東洋・スラムや下町の猥雑さといった種々雑多な要素が渾然一体となって、サイバー・パンクという世界観が見事に描かれていた。これをモロッコあたりの北部アフリカに移して映像作品を撮ったとしたら、BGMにはこの「Tangerine Cafe」の音楽がピッタリくるように感じる。そんな作品かもしれない。

Luigi Cinque / Sacra Konzert (CD+DVD)

　2006年の作品。2000年以降のスタジオやライブでの音源を編纂したCDとDVDのセット。音楽的には前述の「Tangerine Cafè」の様な汎地中海音楽をベースしたものだが、ジャズ要素はもっと後ろに隠れており、宗教的とも感じられるシリアスな音楽観がひしひしと伝わってくる。

Piero Brega / Come li viandanti

　Canzoniere Del Lazioのオリジナル・メンバーであるPiero Bregaが2005年に発表したソロ・アルバム。Carnascialiaの曲も入っていたりするのでそれなりの興味は惹かれるが、全体的に落ち着いた緩い感じのフォーク調作品である。

Clara Murtas - Ennio Morricone / De Sa Terra A Su Xelu

　「Miradas」でのボーカルを務めたClara MurtasとEnnio Morriconeの連名になる、2005年発表の3曲入りミニ・アルバム。Ennio Morriconeらしいクラシカルな映画音楽にClara Murtasの深いボーカルが乗っかるという感じであり、3曲目はかなりシリアスな世界観の音像ではあるが、トラッド要素は皆無。

紅溶岩と幻想のお話