Carmen



「フラメンコ・ロック」・・・なんともゲテモノ的なネーミングが素晴らしい。


 昨今のワールドミュージックの世界的な浸透、パコ・デ・ルシア、サンタナ、ジプシー・キングスなどの著名な音楽家の活躍など、ラテン系音楽を取り入れたサウンドは今や耳新しいものではなくなっている。ラテン系民族の伝統音楽にもいろいろ有ろうが、その一分野であるフラメンコをこれほどまでに意識し、ロックの分野で融合/昇華させたのはカルメンだけではなかろうか。彼らがスペイン人ではないこと、スペインのバンドが気勢を上げる1975年より以前に彼らが活動したことなどを考えると、フラメンコを取り入れたロックの先駆者と言えるだろう。

 単純に考えても、「ロックを伴奏にフラメンコを踊る」という発想が凄い。



 彼らの音楽を具体的に言うと、いわゆる往年のブリティッシュ・ロックをベースに、男女2名によるフラメンコの踊り/ステップ(footwork)/手拍子(hand claps)/カスタネットが複雑に絡み合うといったものである。今となっては、ネット上で確認できる二つの動画を見ることしかできないが、人によってはイロモノ的に見えるかもしれないビジュアル要素と相まって、非常に個性的なバンドだったと言える。

 幼い頃からフラメンコ・ギターを習っていたリーダーのデヴィッド・アレンがほとんどのカルメンの曲を作曲しており、リリカルかつ唄心のある曲が多い。

 サウンドの特徴としては、
  ・フラメンコ・ギターの爪弾きと、エッジの効いたエレキ・ギターによる静と動の対比
  ・変幻自在にリズムチェンジを繰り返す強力なリズムセクション
  ・強烈なロックのリズムに絡み付くフラメンコの拍子
  ・情熱的な男声ボーカルと妖艶な女声ボーカル
  ・素晴らしいコラース・ワーク
  ・効果的に使われるキーボード&メロトロン
 といった所であろう。

 更に付け加えるならば、楽曲の良さとアレンジの緻密さは特筆すべきものだと考える。実際には明確なフラメンコの要素(フラメンコギター/ステップ/手拍子など)が無い曲も多いが、その様な曲においても非常に複雑な構成がなされており、アルバム全体のトータルな流れを上手くコントロールしているように思える。元来フラメンコというものは歌物語であり、単曲をつなぎあわせて一つのお話を語るという歌劇である。そういったフラメンコの根本的な創作姿勢が、トータル・コンセプト感のあるアルバム製作に反映されていると思う。逆に乱暴な言い方をすれば、(カルメン)-(フラメンコ)=(非常に優秀なブリティッシュ・ロック)、という図式も成り立つ。

 因みにカルメンはアメリカのバンドである。他のアメリカン・プログレ・バンドは一様に英国的でないおおらかなロック・センスを持ち合わせているのに、このカルメンはどう転んでもブリティッシュ・ロックにしか聞こえない。

   


謝辞

 今まで、カルメンというバンドについて詳しく書かれている出版物等は皆無に等しかった。あったとしても、3枚のアルバムについての数行ほどの紹介文程度であった。つい最近、カルメンに関する詳しいサイトを見つけ、参照させていただくと共に、私なりにまとめてみた。

  ・Fandangos in space - the Carmen website
  ・Diary of a Studio Owner - The History of Carmen

 上記二つのサイトの管理者殿に感謝すると共に、無断転載のような形になってしまった事を、ご容赦いただくようお願いするのみである。ここに書いた情報の多くはこの二つのサイトを参考にしており、私の若干の記憶と感想も織り交ぜてある。もし事実と違う点があるのならば、私の誤訳または勘違いと思われる。あらかじめご了承願いたい。