「あの川下と申しますが、社長さんいらっしゃいますか?“メールでのお話に来ました”と伝えて頂けたらお解かり頂けると思いますが」と受付で伝え、待つことにした。

 「とにかくこちらへ」と部屋に通された。

 “社長 松浦 晋”と書かれた名刺をもらい驚いた。

 「アポを取ってから来てくれたら良かったのに。ここの所忙しくて家にも帰ってないんだよ」と言っているその人は、無精髭を生やし、まるで“関東の熊”という感じ。
 (えーこの人が・・・。やっぱりメールって怖い。向こうもそう思ってるやろけど、優しそうな人を想像してた。私もきっと素敵な人と想像されているんやろなぁ。実物は全然違うのに)
 「はじめまして。松浦晋(まつうらしん)です。貴女が愛夢(あむ)さん。想像していた感じと違いますね。いや失礼!」

 「初めまして。川下愛(かわしもあい)です。アポなしで突然押しかけて申し訳ありません。貴方を信用してないと言う訳ではないのですが、いえ、やっぱり信用してなかったので、実在してる人なのか確かめたかったんです。申し訳ありません。一度直接お話をしたかったので。でも、勝手言って申し訳ないのですが、私の事は内緒にして頂きたいので、よろしくお願いします」

 「それは良く解かっています。わざわざ来てくれてありがとう」
 それから彼は、会社の概要やこれからの段取り等を話してくれたけれど、難しい事は苦手なので、
 「社長を信用してお任せします」と言ってしまった。
 (これが悪い癖やとは良く解かっているんやけど・・熊みたいな人やけど嘘はなさそうな人やし・・)
 「食事でも」と言われたけれど、
 「明日仕事があるし、それに帰りの時間もかかるし、後はメールと電話で」と帰って来た。
P1へ  トップへ P3へ
前へ トップ  次へ