警察部隊の装備車輌−1(捕獲戦車編)

 警察部隊では装甲車/戦車部隊の編成にあたり、兵器の不足を補うためにさまざまな捕獲装甲車、捕獲戦車が装備され、その内容は有名、無名、珍品車両など大変にバラエティに富んでいます。まずは捕獲戦車からです。

フランス製捕獲戦車

1.ルノー装軌式装甲車(Ketten-Panzerkraftwagen Runault)
ルノーR35戦車 PzKpfw.35R 731(f)
 ルノーR35戦車は歩兵支援用軽戦車として開発され、1935年から1940年にかけて合計1500輌以上が生産されました。武装は21口径37ミリ砲を搭載し、最大で45ミリと軽戦車としては強力な装甲を装備しました。
 フランス戦で捕獲されたルノーR35戦車は警察部隊では「Ketten-Panzerkraftwagen Runault」(ルノー装軌式装甲車)と呼ばれ、車体の尾橇は装備せずドイツ式のキューポラの改造はしていないようです。また1943年になってからは各車輌に車載無線機(Fu2またはFu5)が搭載されて、車体後部左側に2mの長さのロッドアンテナを取り付けています。短砲身の21口径とはいえ37ミリ砲と十分な装甲を備えたR35は、警察部隊で本来の歩兵支援用として使用され余生を送りますが、戦争末期には最前線で戦い大損害を出しています。約25両のルノーR35戦車が次の各部隊で使用されました。

警察装甲車大隊第1増強警察戦車中隊−10両
第2警察戦車中隊−5両
第3警察戦車中隊−5両
第7警察戦車中隊−5両


2.オチキス装軌式装甲車(Ketten-Panzerkraftwagen Hochkiss)
オチキスH35戦車 PzKpfw.35H 734(f)
オチキスH39戦車 PzKpfw.39H 735(f)

 オチキスH35戦車はルノーR35と同様に歩兵支援用軽戦車として開発され、1936年から1939年9月までに625輌が生産されました。武装は21口径37ミリ砲を搭載し最大で45ミリとルノーR35と同様に軽戦車としては強力な装甲を装備しました。1938年からはエンジンを強化したH38が1080輌生産され、1939年からは武装を33口径37ミリ砲に強化したH39が770輌生産されました。フランス戦で捕獲されたオッチキスH35、H38とH39戦車は、警察部隊では「Ketten-Panzerkraftwagen Hochkiss」(オチキス装軌式装甲車)と呼ばれ、キューポラはドイツ式の両開き方式に改造しましたが、ルノーと違い尾橇は付けたままでした。また1943年になってからはルノー同様に各車輌に車載無線機(Fu2またはFu5)が搭載されて、車体後部右側に2mの長さのロッドアンテナを取り付けています。約20両のオチキス戦車が次の各部隊で使用されました。

第4警察戦車中隊−5両
第5警察戦車中隊−5両
第6警察戦車中隊−5両
第11警察戦車中隊−5両


ポーランド製捕獲戦車

3.ポーランド製装軌式装甲車(Ketten-Panzerkraftwargen Polnisch)
7TP戦車 PzKpfw.7TP(p)

 イギリスのビッカーズ・アームストロング6トン(Mk.E)戦車を発展させてポーランドでライセンス生産された軽戦車で、機銃2挺装備の双砲塔型とボフォース製37ミリ砲を装備した単砲塔型があり、単砲塔型は1937年から1939年にかけて95両から100両程度が生産されました。しかし、装甲は砲塔、車体とも最大でも17ミリほどしかなく、防御力の弱さがビッカーズ6トン戦車シリーズの共通した弱点となっていました。警察部隊での詳しい使用状況は不明ですが、砲塔に警察部隊のマークを付けた単砲塔型3両の写った写真が残されています。


ロシア製捕獲戦車

4.BT5/BT7装軌式装甲車 (Ketten-Panzerkraftwargen BT-5/BT-7)
BT5/BT7戦車 PzKpfw.BT742(r)

 アメリカから購入したクリスティー戦車の発展改良型で、履帯でも車輪でも走行できる装輪装軌併用式が特徴の快速戦車。BT5は最初の大量生産型で1933年から1935年にかけて生産され、武装は45ミリ砲1門を搭載し前面装甲は最大で13ミリでした。BT7はBT5の改良型で1935年から1939年にかけて生産され、エンジンが強化された以外は武装も装甲も大きな変化はありませんでした。警察部隊での詳しい使用状況は不明です。


5.T26装軌式装甲車 (Ketten-Panzerkraftwargen T26)
T26戦車 PzKpfw.T-26A 737(r),T-26B 738(r),T-26C 740(r)

 イギリスのビッカーズ・アームストロング6トン戦車をソ連でライセンス生産した戦車で、双砲塔の1931年型(ドイツ側の分類ではA型)と単砲塔の1933年型同B型)その後に改良再設計したT26S−1939年型同C型)がありました。1931年型は機関銃2挺、又は機関銃と短砲身37ミリ砲の組み合わせでバリエーションがあり、1933型は初期型と後期型(1937年型)があり、当時の軽戦車としては強力な45ミリ砲1門を装備しました。1939年型では改良された砲塔に45ミリ砲1門を装備するなどソ連独自の様々な改良が施されましたが、装甲は砲塔前面が最大25ミリ、砲塔の他の部分や車体は15ミリから16ミリしかなく、防御力の弱さがビッカーズ6t軽戦車シリーズの共通の弱点となっていました。
 警察部隊では下記の中隊で使用されたらしいのですが、装備台数などの詳細は不明です。

第9警察戦車中隊−5両
第10警察戦車中隊−5両
第12増強警察戦車中隊−?


6.T60装軌式装甲車 (Ketten-Panzerkraftwargen T60)
T60戦車 PzKpfw.T-60 743(r)

 T40水陸両用軽戦車の車台をベースに開発された軽戦車でしたが水陸両用ではなく、武装には20ミリ機関砲1門を装備しており、1941年から1943年までに6000両以上が生産されました。1941年型は前面装甲最大25ミリでしたが、1942年型は前面装甲最大35ミリに強化されました。警察部隊での詳しい使用状況は不明です。

第12増強警察戦車中隊−?


7.T70装軌式装甲車 (Ketten-Panzerkraftwargen T70)
T70戦車 PzKpfw.T-70(r)
 T60の車台を流用しながら、T60の弱点である装甲と火力の弱さを改良したのがT70軽戦車で、装甲は前面で最大60ミリに、武装も45ミリ砲に強化されるとともに、エンジンも2基搭載に強化されるなど様々な改良が施されました。また大量生産向きの設計により1942年から1944年までに8226両が生産されています。

第5増強警察戦車中隊−2両?
第12増強警察戦車中隊−?


8.T34装軌式装甲車 (Ketten-Panzerkraftwargen T34)
T34戦車 PzKpfw.T-34 747(r)

 言わずと知れた傑作戦車T34は1941年型と1943年型合計12両程度が下記の警察部隊で使用されました。

第5増強警察戦車中隊 10両(1944年3月改編以降)
第9増強警察戦車中隊−?


イギリス製捕獲戦車

9.ヴィッカース装軌式装甲車 (Ketten-Panzerkraftwargen Vickers)
ヴィッカースMkY軽戦車 le.Pzkpfw.MkYB 735(e)

 1939年から1940年にかけて生産されたイギリスの代表的な軽戦車で、装甲は最大15ミリ、ヴィッカース製12.7ミリ機関銃1門と7.7ミリ機銃1門を装備しました。フランスへ派遣されたBEF(British Expeditionary Force)の装備戦車の大部分を占めていました。警察部隊での詳しい使用状況は不明です。


10.バレンタイン装軌式装甲車 (Ketten-Panzerkraftwargen Valentine)
バレンタインMkV歩兵戦車 Pzkpfw.MkV 739(e)

 歩兵戦車マチルダの後継車として開発された歩兵戦車で、1939年から1944年まで生産されました。MkVの装甲は最大で65ミリ、2ポンド砲(40ミリ砲)1門を装備しましたが、安定した性能と高い信頼性がありその後武装の強化などの改良を行いながら、シリーズ全体で8275両が生産されました。警察部隊での詳しい使用状況は不明ですが、写真により2両の存在が確認できます。

第9増強警察戦車中隊−2両?


イタリア製捕獲戦車/突撃砲

11.L35装軌式装甲車 (Ketten-Panzerkraftwargen L35)
L3/35軽戦車 PzKpfw.L/3-35 731(i)

 1933年から生産された2人乗りの軽戦車で、大戦間の時期に盛んに生産された豆戦車の流れをくむ軽戦車です。武装は車体前面に8ミリ連装機銃を装備し、装甲は最大でも15ミリほどでゲリラ相手のほかには使い道がなさそうな軽戦車です。

第16警察戦車中隊−8両
SS警察連隊「ボーゼン」第1大隊所属の装甲車小隊


12.L6装軌式装甲車 (Ketten-Panzerkraftwargen L6)
L6軽戦車 PzKpfw.L6 733(i)

 ブレタ製20ミリ機関砲1門を搭載した軽戦車で1941年から42年の末まで合計283両が発注(生産車はこれより少ない?)され、主として偵察任務等に使用されました。また完成車の多くはセモベンテに改造された(?)ようです。
 1943年9月のイタリア降伏の時点で106両がドイツ軍に接収され、警察部隊では1944年11月の時点で5両から20両が配備されていました。

第16警察戦車中隊−2両
第18SS警察連隊所属の装甲車小隊−3両?


13.M15装軌式装甲車 (Ketten-Panzerkraftwargen M15)
M15/42戦車 PzKpfw.M15/42 738(i)
 40口径47ミリ砲を搭載したM13中戦車シリーズの最終発展型。イタリア軍の降伏によりM13/40、M14/41及びM15/42合計147両が接収され、武装SSで捕獲戦車中隊や大隊が編成されたほか、1944年の時点で警察部隊でもM15/42戦車28両が装備されていました。

第12増強警察戦車中隊−9両(第15中隊より転属)
第15警察戦車中隊−9両


14.P40装軌式装甲車 (Ketten-Panzerkraftwargen P40)
P40戦車 PzKpfw.P40 737(i)

 34口径75ミリ砲搭載の本格的重戦車(ドイツ軍の区分では中戦車)として開発されましたが、ようやく完成した1943年9月にはイタリアは連合軍に降伏し、完成した21両はすべてドイツ軍に接収されました。また、工場には大量の資材が残されていたためドイツ軍の手によって生産が継続され最大で61両が完成した可能性があります。
 P40戦車は接収後は主として警察部隊で使用され、最大で56両が警察の各部隊で使用された他、陸軍の訓練部隊にも5両が配属されていました。

第10警察戦車中隊−15両(定数14両)
第15警察戦車中隊−13両(定数14両)
・戦車中隊「カルストイェーガー」(第24SS武装山岳師団)−14両(定数21両)
※この戦車中隊はSS警察司令官「西アドリア」所属の警察戦車中隊を編入したと考えられています。定数21両(中隊本部3両+3個小隊各6両)に対して14両(中隊本部2両+3個小隊各4両)を装備していましたが、実際の稼動車両は7両程度だったようです。
戦車訓練大隊「ジュート」−5両
・戦車大隊「アドリア」−5〜6両
※この大隊は捕獲イタリア車両により編成されていましたが、車種不明のイタリア戦車8両を装備しており、P40戦車を装備していた可能性があります。
・ミラノ地区のR.S.I.部隊−3両
・クンメルスドルフ実験場−1両
※この車両はエンジンをW号戦車用のマイバッハHL120と交換しており、1945年3月に装甲中隊「クンメルスドルフ」の(不動)装甲小隊に編入され実戦投入されました。


15.L6突撃砲 Sturmgeschutz L6

 セモベンテL/40da47/32はL6軽戦車の車体に47ミリ砲を搭載した突撃砲で、1941年から1944年にかけて約300両が生産されました。開発された1941年当時は47ミリ砲と前面最大30ミリの装甲は十分な性能でしたが、連合軍戦車の高性能化に対応することができず徐々に戦闘力を失ってゆきました。警察部隊ではSturmgeschutz L6(L6突撃砲)と呼ばれて約25両が使用されました。

第14増強警察戦車中隊−20両
第18SS警察連隊所属の装甲車小隊−5両


16.M42突撃砲 (Sturmgeschutz M42)
Sturmgeschutz M42 mit 75/18 850(i)
 M13/40中戦車の車体に18口径75ミリ砲を搭載した突撃砲として開発され、1941年から生産が開始されました。その後基本車体となるM13/40中戦車の変化に合わせてM14/41、M15/42を元に生産された突撃砲はそれぞれM41、M42と呼ばれ1943年までに合計200両前後が生産されました。全体的に武装が貧弱なイタリア軍の車両の中で、数少ない有効な車両としてイタリアの降伏後はドイツ軍が接収して有効に使用しました。また、34口径75ミリ砲を搭載した後期型はドイツ軍の管理下で1945年4月まで生産が続けられました。M42突撃砲は有効な車両だけに捕獲した車両は野戦部隊から引っ張りだこだったようで、警察部隊で使用された車両は意外に少ないようです。

第12増強警察戦車中隊−9両(第15中隊より転属)
第15警察戦車中隊−9両


参考資料
「月刊グランドパワー 2001年7月号 ヴィッカース6t戦車ファミリー」(デルタ出版 2001)
「グランドパワー別冊 世界の戦車−1」(デルタ出版1999)
「グランドパワー別冊 世界の軍用車両−1」(デルタ出版1999)
「世界の戦車1915-1945」(大日本絵画 1996)
「月刊グランドパワー 1995年9月号 特集:第2次大戦のフランス軍用車両」
「月刊グランドパワー 1995年8月号 特集:第2次大戦のイタリア軍用車両」
「Panzerfahrzeuge und Panzereinheiten der Ordnungspolizei 1936-1945」(Podzun 1999)


2000.12.20 新規作成
2001.1.10 参考資料を追加
2001.6.1 車両のgif画を更新
2001.10.18 7TP戦車とT26戦車を一部訂正
2016.4.22 リンクを追加、修正

http://www.eonet.ne.jp/~noricks/