社会保険労務士田村事務所 事務所便り 『のぞみ』 平成21年8月号
自転車による違反の検挙・送検数が急増
◆増える危険自転車
自転車の運転者が信号無視などの交通違反で検挙される事例が急増していることが、
警察庁のまとめでわかりました。
2008年に都道府県警が自転車の運転者を道路交通法違反容疑で検挙・送検したのは1,211件で、
前年比で49%も増えました。このうち罰金など刑事処分の対象となる交通切符(赤切符)を
適用したのが903件、残りは事故を起こすなどして送検した事例です。検挙・送検の内訳では、
信号無視が262件(対前年比27%増)、
遮断機が鳴る踏切への立入りは246件(同420%増)
となっています。
違反者には、注意を喚起する「指導警告票」を渡すのが基本ですが、
危険・悪質なケースは赤切符を含めた送検の対象としています。
◆自転車にも道交法が適用される
こうした背景には、自転車が道路交通法上の「車両」の一種(軽車両)である
という認識が不足していることが考えられます。
自転車も自動車と同様に、
「飲酒運転の禁止」「二人乗りの禁止」「並進の禁止」「夜間のライト点灯」「信号を守る」などの
安全ルールが法律で定められており、違反をすれば懲役や罰金等の罰則の適用も、
もちろんあります。
また、今年7月1日からは、傘を差しながら、携帯電話を使用しながらの運転も
禁止されています。
「自転車なので大きな事故にはならない」と考えている人も多いようですが、
仮に相手を死傷させた場合には、
刑事上の責任以外にも被害者に対する損害賠償という民事上の責任も負わなければなりません。
現に数千万円という賠償金を支払った例も見受けられます。
手軽な乗り物として、通勤などに自転車を利用されている方は、正しいルールを知った
うえで安全に運転をしてもらいたいものです。
不景気下における企業の人事面での対応策
◆企業はどんな対策をとっているか
労働政策研究・研修機構が昨年12月に行ったアンケート調査(全国2,734社が回答)の結果に
よれば、各企業が行った「経済情勢悪化への人事面の対応」として、
以下のものが挙げられています。
(1)残業規制(26.1%)
(2)中途採用の停止・削減(21.5%)
(3)配置転換(14.9%)
(4)賃金制度の見直し(12.7%)
(5)来年度新規採用の中止(12.6%)
(6)派遣社員の契約打切り(10.3%)
(7)期間工などの雇止め(9.8%)
(8)従業員の賃金カット(8.3%)
◆希望退職・退職勧奨・整理解雇
また、上記で挙げられている以外にも、
希望退職制度の実施、
退職勧奨の実施、
整理解雇の実施などを
行わざるを得ない企業も
多くなっています。
一般的には、整理解雇を実施するにあたっては、
4つの要素(人員整理の必要性、解雇回避努力義務、人選の合理性、手続きの妥当性)が
必要とされています。
このうち、「解雇回避努力義務」について考えた場合、
希望退職を募集せずに整理解雇を行った場合は
「解雇回避努力義務」を十分に果たしたとはいえないと
判断するのが一般的な裁判例の考えです。
ですので、希望退職を募集した後に解雇整理を行うのが企業にとっての
安全策だといえるでしょう。
◆リスク回避を十分に
希望退職を募集しても、これに労働者が予定人数ほど応募してこないことがあります。
この場合、退職の条件を労働者に有利に設定し直し、2次募集・3次募集を行うことも
考えられます。
また、希望退職募集と平行して、
退職勧奨を実施する企業もあります。
その場合、勧奨が民法上の強迫になることなどのないよう、
慎重に手続きを進め、
また、法違反と判断されることのないよう、
専門家等に相談しながら進めていくのが
企業にとってのリスク回避策となります。
8月1日から基本手当日額等が変更
◆平均給与額の低下により、日額等も低下
雇用保険の給付額を算定するための基礎となる賃金日額の範囲等が、
8月1日から変更されます。
この賃金日額の範囲等については、
毎月勤労統計の平均定期給与額の上昇または低下した比率に応じ、
毎年自動的に変更されています。
平成20年度の平均給与額が
平成19年度と比べて
約0.6%低下したために、
以下の3点が変更されます。
1.基本手当日額の最高額および最低額
(最高額)
60歳以上65歳未満 6,741円 → 6,700円
45歳以上60歳未満 7,730円 → 7,685円
30歳以上45歳未満 7,030円 → 6,990円
30歳未満 6,330円 → 6,290円
(最低額) 1,648円 → 1,640円
2.失業期間中に自己の労働による収入がある場合に、基本手当の減額の算定に係る控除額
1,334円 → 1,326円
337,343円 → 335,316円
派遣労働者の雇用と労災をめぐる問題
◆相次ぐ労働局による是正指導
ここのところ、派遣労働者の雇用に関して、
労働局による是正指導が相次いで行われています。
東京労働局は、今年5月に日産自動車(東京都)に対し、
派遣社員の雇用の安定を図るように是正指導を行いました。
これは、同社に勤務している派遣社員2人(いずれも20代女性)が、
直接雇用を申し立てていたことを受けたものです。
また、広島労働局は、マツダ(広島県)に対して是正指導を行っていましたが、
同様に、同社の自動車の委託生産を行っている取引先の
プレス工業(川崎市)に対しても是正指導を行いました。
これは、昨年末に雇止めされた元派遣社員の男性による
「同社は派遣社員の短期雇用と再派遣を行っていた」との申告を
受けたものです。
さらに、兵庫労働局は、三菱電機の子会社である三菱電機エンジニアリング姫路事業所(兵庫県)と
同県の派遣会社に対し、実態は「派遣」であるにもかかわらず「出向」と装って
派遣労働者を働かせていたとして、
職業安定法に基づく是正指導を行いました。
◆増加する派遣労働者の労災事故
厚生労働省の調査によれば、2008年に労災事故で死傷した派遣労働者は
5,631人だったそうです。
2年連続で5,000人を超え、製造業への派遣が解禁された2004年と
比較すると8.4倍になっています。
しかも、労災事故を報告しない「労災隠し」が横行しているとの疑いもあり、
上記の数は「氷山の一角ではないか」との声もあがっています。
このような状況を受け、厚生労働省では、派遣先事業場で発生した労災事故に
ついて、派遣先への求償権の行使を徹底することを目的として、
過失割合の判断基準を作成する方針を明らかにしました。
過去の損害賠償請求に関する裁判例などを参考にして、
今年の10月頃までにガイドラインをまとめる意向のようです。
◆企業に求められるコンプライアンス
派遣労働者をめぐっては、
偽装請負、偽装派遣、偽装出向などが一時期話題となり、
新聞等でも大きく報道され、多くの企業が派遣労働者の
雇用改善に取り組みました。
現在は「100年に一度の大不況」と言われる状況で、
多くの企業が経営に行き詰まっています。
しかし、そのような状況下であっても、「コンプライアンス遵守」の精神を
忘れてはいけません。
法律に則った派遣労働者の雇用、労災事故への対応等が企業には
求められます。
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