社会保険労務士田村事務所 事務所便り 『のぞみ』 平成21年4月号
雇用情勢の悪化と助成金制度
◆厳しい情勢が続く
厚生労働省が発表した1月の有効求人倍率は、前月より0.06ポイント低い0.67倍で、
2003年9月以来、5年4カ月ぶりの低水準を記録しました。
また、総務省が発表した1月の完全失業率は4.1%で、前月より0.2ポイント改善したものの、
依然として高い数値となっています。完全失業者の数は、前年同月比21万人増の277万人に上っています。
世界的な金融危機と景気後退を受け、生産・雇用情勢が一段と悪化している折り、
政府は様々な雇用対策を打ち出しています。
◆数値でみる雇用情勢
有効求人倍率とは、公共職業安定所(ハローワーク)で職を探している人1人につき
何人分の求人があるかを示す数値で、雇用情勢の動向が比較的早く数値に反映されると
言われています。1月における数値の低下は、1992年以来の大幅なものとなりました。
完全失業率は、15歳以上の働く意思のある人のうち、まったく職についていない人の
比率を示す数値です。1月は3カ月ぶりに改善しましたが、これは厳しい雇用情勢を受けて
職探しを一時見合わせる人や、女性の短時間労働者が増えるなどしたための形式的・一時的な
ものとみられ、雇用情勢の厳しさは変わらないと判断されています。
◆助成金による政府の雇用改善対策
政府は雇用対策の一環として、助成金制度の新設と要件緩和・要件拡充を次々に
打ち出しています。
例えば、新たに「若年者等正規雇用化特別奨励金」が創設されています。
これは、雇用改善を目指し正規雇用を支援するもので、「採用内定を取り消されて
就職先が未決定の学生等」または「年長フリーターおよび30代後半の不安定就労者」を
正規雇用する事業主が、一定期間ごとに引き続き正規雇用する場合に、中小企業には
総額100万円、大企業には総額50万円の奨励金を支給するものです。
この他にも、「雇用調整助成金」・「中小企業緊急雇用安定助成金」、
「派遣労働者雇用安定化特別奨励金」、「離職者住居支援給付金」、
「介護未経験者確保等助成金」、「特定求職者雇用開発助成金」など、
様々な助成金制度が創設され、要件が緩和されています。
◆助成金による雇用改善策は実るか
このような助成金制度による雇用対策により、政府の目指す雇用改善は
どれだけ図られるでしょうか。その成果が有効求人倍率や完全失業率に数値と
して現れてくるまでには、まだまだ時間がかかりそうです。雇用情勢の悪化が
今後も続くことが懸念されます。
希望退職制度を実施する場合の
注意点
◆希望退職制度の実施企業数は?
新聞報道によれば、不況が本格化した昨年の9月以降、正社員の希望退職制度を
実施した上場企業は、全国で約120社に及んでおり、希望退職の募集人員は約2万人
(このうち約5,200人が応募し、退職が決定している)に上っているそうです。
上場企業だけでこの数字なのですから、中小企業も合わせるとこの数はさらに増え、
多くの企業が不況に苦しみ、人員削減に踏み切らざるを得ない状況であることがわかります。
◆希望退職制度とは?
希望退職制度は、退職金を増額することなどを条件として、
あくまでも企業側と従業員側との「合意」に基づいて実施される制度です。
従来、解雇回避のための、あるいは解雇等に先んじて行われるべき人員削減策と
して用いられてきました。
希望退職者の募集は、特定の労働者に対して行われるのものではなく、会社全体
もしくは少なくとも事業場単位で行われるものとされています。一般に、希望退職者の
募集は労働契約解約のための申込みの誘因であると考えられますので、希望退職者の
募集自体は、使用者側からの解約の申込みの意思表示ではありません。
そして、労働者が応募することにより、解約の申込みの意見表示をしたことになります。
そして、会社がこれに対して承諾の意思表示を行えば労働契約は終了します。
◆制度を実施する場合の手順
企業の状況により異なる場合もありますが、希望退職制度を実施する際の一般的な手順は、
次の通りです。
(1)募集対象・募集人員・募集期間などの検討・設定
(2)退職条件・退職予定日などの検討・設定
(3)労働組合や従業員代表との協議
(4)従業員への説明会の開催
(5)希望退職募集の案内(1次・2次・3次…)
(6)応募受付、募集の締切り
(7)合意書の作成など
◆トラブル発生の回避が重要
希望退職制度を実施する際には、労働者との間にトラブルが
発生しないような配慮が必要です。特に、従業員の退職合意の
任意性を損なわないように十分注意する必要があり、退職に応じる
ように個別の従業員を執拗に説得するなどの行為は、後々のトラブルに
繋がる可能性があります。
不法滞在外国人減少に向けた取組み
◆不法滞在外国人が大幅に減少
ここ数年、不法滞在の外国人が大幅に減少しているようです。
法務省の入国管理局によれば、2004年に約25万人いた日本国内における
不法滞在外国人の数は、2009年1月時点では約13万人になっているそうです。
5年間でなんと約48%も減少しており、同省では、政府の中期的計画に基づいた
「摘発の強化」と「入国審査の厳格化」が功を奏したとみているようです。
不法滞在外国人については、犯罪の温床になっているとも言われていますが、
来日外国人の犯罪(不法滞在者以外によるものも含む)も減少傾向にあり、
2007年中の来日外国人犯罪の検挙件数は3万5,800件(1万5,923人)で、
前年比で4,328件(10.8%)減少しています。
◆法改正による「在留カード」の発行
政府は、さらなる対策にも取り組もうとしています。従来からあった
「外国人登録証」(外国人登録制度)を廃止して、新たに「在留カード」
(3カ月以上の滞在を認められた外国人について発行される)を作成するため、
入国管理・難民認定法の改正案を、現在開会中の通常国会に提出する方針を
明らかにしています。
法務省の推計によれば、現在、約2万人の不法滞在外国人に「外国人登録証」が
発行されているそうですが、「在留カード」には、偽造を防止するためにICチップが
付けられ、不法就労者かどうかをすぐに見分けられるようにするそうです。
また、顔写真・氏名・国籍・住所・在留資格・有効期間などの情報が明記され、
情報の変更には届出が義務付けられます。また、就労する資格があるかどうかに
ついても記載されるとのことです。
なお、この在留カードを偽造した者には非常に重い罰則(1年以上10年以下の懲役など)が
課せられることになっています。この法律改正により、さらなる不法滞在者の減少が
期待されています。
◆「適法滞在者」には有利に
一方で、不法でない、適法な滞在外国人については、在留期間の上限を
これまでの3年から5年に延長することなども改正案に盛り込まれています。
また、再入国については、原則として1年以内は政府による許可が不要とされるようです。
また、特別永住者(在日韓国人・在日朝鮮人など)は上記の改正された制度の
対象外とされ、「特別永住者証明書」が発行されるそうです。
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