社会保険労務士田村事務所 事務所便り 『のぞみ』 平成21年1月号
裁判員制度による休みは
◆企業としての対応が迫られている
2009年5月から始まる裁判員制度、一般市民が司法に参加するこの制度は、平日に裁判に参加することになり、
勤労者は仕事を休む必要が出てきます。裁判員に選ばれた人の所属する企業では、その休みへの対応が迫られて
います。
◆裁判員制度とは
裁判員制度は、一般市民が刑事裁判に参加することにより、裁判が身近で分かりやすいものとなり、司法に対する
信頼の向上につながることが期待されています。一般市民が裁判に参加する制度は、アメリカやイギリス、フランス、
ドイツ等でも行われています。
日本の裁判員制度では、まず、地方裁判所ごとに裁判員候補者名簿が作られます。選ばれた候補者へ、調査票と
共に候補者となったことが通知されます。2009年5月以降、事件ごとに初公判の6週間前までに、くじで候補者が選ばれて
呼び出され、最終的にその中から6名が裁判員として選ばれ裁判に参加します。
辞退については、70歳以上の人や学生、重い病気やケガで参加できない人などは1年間を通じて辞退できます。
ただし、仕事を理由とした辞退については、単なる「仕事が忙しい」という理由では原則辞退できません。
◆有給・無給は各企業の判断による
裁判員制度に基づいて裁判に参加することは、いわゆる労働基準法の「公の職務の執行」に当たるため、その時間は
保障されねばなりません。多くの就業規則ではその旨の規定がありますが、裁判員の仕事に従事するための休暇制度を
設けることは義務付けられていません。したがって、有給か無給かについては、各企業の判断に委ねられることになります。
有給の場合は、裁判員としての日当と会社の給与を、両方受け取れることになります。また、無給の場合は、裁判員としての
裁判への参加意欲が減退することが危惧されます。
裁判所としては、裁判員が仕事を休みやすい環境作りが急務であることから、「裁判員としての仕事を行うための特別な
有給休暇制度を作っていただくことが重要であり、法務省、検察庁、弁護士会とも連携し、各種経済団体、企業等に対し、
休暇制度の導入の検討をお願いしている」と、ホームページ上などで説明しています。
正社員はもちろん、派遣社員にも「裁判員休暇」を与える企業や、配偶者が裁判員に選ばれた際に、有給で育児・介護休暇を
取得できる制度を導入する企業など、積極的に制度に協力する企業も見受けられます。今後、制度が定着するには、企業側の
このような協力が重要な要素となってくることでしょう。
景気悪化・大不況に伴う企業の動向と政府の対策
◆非正社員の失業、給与の減少…
景気悪化に伴う未曾有の大不況が大きな社会問題となっており、マスコミ等でも連日報道されています。
不況を理由として企業が実施するリストラによる非正社員の失業者が、今年10月から来年3月までに、全国で477件、合計で
約3万人に上るとの推計結果が、厚生労働省から発表されました。自動車などの輸出産業の減産を反映し、製造業における派遣
労働者が全体の約65%を占めています。そして、非正社員だけでなく、正社員のリストラや退職勧奨、賃金減額なども行われる
など、深刻な問題となっています。
また、同省から10月の毎月勤労統計調査(従業員5人以上)が発表されましたが、それによると、海外需要の低迷により輸出
企業などの残業時間が短くなったことなどが影響して、現金給与総額が1人平均27万4,751円(前年同月比0.1%減)と10カ月
ぶりに減少したそうです。製造業では、7カ月連続で残業時間が減少しています。
◆政府による対策は?
景気悪化により新卒者の内定取消が相次いでいる問題に関しては、内定取消を行った企業名を公表し、また、内定が取り消された
学生を雇用した企業に1人数十万〜100万円程度の奨励金を支給するとする雇用対策案が発表されています。詳細についてはまだ
決まっていないようですが、厚生労働省では、来春ごろまでに実施したい考えです。
また、同省は、労働者派遣契約の中途解除に係る指導・対応に関して、都道府県労働局長あてに通達(職発第1128002号)を
11月下旬に出しました。
「事業主が講ずべき措置に関する指針」に基づく徹底した指導を要請し、派遣先に対象労働者の直接雇用を求めていくとする内容と
なっています。
◆雇止め非正規労働者の失業手当受給要件を緩和へ
雇用保険関連では、雇止めされた非正規労働者などが失業手当を受給するために必要な雇用保険の加入要件について、
現行の「1年以上の雇用見込み」から「6カ月以上」に短縮する方針が明らかになりました。また、失業手当の給付日数も60日
程度上乗せされるようです。厚生労働省では、来年1月の通常国会に雇用保険法の改正案を提出し、2009年度から実施する
意向です。
◆政府による新たな雇用対策
上記に記載した対策も含め、政府(新たな雇用対策に関する関係閣僚会合)は、12月9日に「新たな雇用対策について」と
題する、今後実施していく施策を発表しています。詳細は下記の首相官邸ホームページをご参照ください。
http://www.kantei.go.jp/jp/kakugikettei/2008/1209koyou.pdf
国民年金の適用年齢を見直し!?
◆年金保険料はいつからいつまで払うのか
2009年度における財政再計算に向けて、社会保障審議会年金部会は国民年金の適用年齢の見直しを検討しています。
「20歳〜60歳が適用」ですっかり定着している国民年金ですが、どのように見直されているのでしょうか。
◆学生から取る保険料
現在国民年金の適用年齢は20歳からですが、現状では、22歳程度までは大学生等の学生の割合が多く、生産活動に
従事しているとは言い難い状況です。それを反映してか国民年金の保険料納付率は、20歳代が最も低く、年齢階層が上がるに
従って高くなる傾向にあります。これらの事情を踏まえて、「学生から保険料を取ること自体がおかしく、適用年齢を引き上げるべき」、
「より年金制度に関心を持つ世代に適用範囲をシフトさせれば、納付率の向上が期待できる」、「保険料の徴収は稼得と連動させる
べき」といった意見があります。
◆見直し案と検討事項
見直す際に考えられる選択肢としては…
(1)適用年齢を25〜65歳とする。(40年加入は堅持)
(2)適用年齢を20(または18)〜65歳とし、その間で40年納付すればよいこととする。
(3)適用年齢を20〜65歳とし、うち20〜25歳は一律納付猶予の期間とする(任意で保険料を納付した場合には保険料納付期間
として取り扱う)。60〜65歳については当面は任意加入とすることも検討する。
(1)の場合、20〜24歳については障害年金が給付されなくなるので、別途その期間中について障害者の所得保障のための措置
(福祉手当の創設)を講じる必要があると考えられます。(2)の案は、個々の被保険者が保険料を納めていない期間について、
「納付しなくてもよい期間(強制徴収不可)」と「納付すべきなのに納付していない期間(強制徴収がありうる期間)」との区別を
どのようにつけるのか、検討の必要がありそうです。最後に(3)の案は、40年間という現行加入期間を超える期間の年金額への
反映について、対処する必要があります。
適用年齢の問題とは別に、国民年金保険料の徴収時効を現行の2年から5年程度に延長することや、基礎年金の支給を受けられる
ようになるために必要な保険料を支払ったとみなされる期間(受給資格期間)を、現行の25年から10年程度に短縮することなどに
ついても検討されています。
国民年金法の成立は昭和34年、当時とは全く様相の異なる現代社会にマッチした、柔軟な年金制度改革の実施が、待ち望まれます。
そのための論議は、選挙の争点とするなどにより、国民全体で広く考えていくことも望ましいのではないでしょうか。
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