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個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ


                                 外国人労働者



1.ポイント



(1)わが国における外国人労働者の就労については、

出入国管理及び難民認定法(以下、入管法という)によって

一定の規制がなされている。

同法においては、単純・未熟練労働者受け入れないこととされている。


(2)外国人労働者不法就労者も含む)についても、

労働基準法労働安全衛生法、最低賃金法および労災保険法などの

労働法規、並びに、厚生年金保険法適用される。


(3)不法就労外国人労働者労働災害にあった場合において、

その災害による損害につき使用者に対し損害賠償を請求したとき、

その労働者の逸失利益をどの国の賃金水準に基づき算定すべきかが

問題となる。

2.モデル裁判例


  改進社事件 最三小判平9.128 民集51‐1‐78、労判708‐23

(1)事件のあらまし
 パキスタン国籍を有する第一審原告Xは、就労する意図の下、観光を目的とする在留

資格で入国し、製本業を営む第一審被告会社Y1(その代表取締役は第一審被告Y2) に

雇用され、製本等の作業に従事していた。X はY1の工場内で製本機を用いて

パンフレットの中綴じ作業を行っていた際、製本機に右手人さし指を挟まれその末節

部分を切断するという事故に被災した。Xはその後、同種の製本業を営む訴外A 会社で

働くようになり、約4ヵ月後に退職した。X は上記事故に関し労災保険から休業補償給付

(約13万3,000円)および障害補償給付(約164万5,000円)の支給を受けたほか、Y1から

約18万円の支払を受けていた。そのうえで、Xは債務不履行(安全配慮義務違反)及び

不法行為に基づき、Y1及びY2に対して損害賠償を請求した。


 第一審(東京地判平4.9.24 労判618‐15) は、Y1及びY2の安全配慮義務違反を

肯定し、その損害賠償責任を認めた。その損害額に関して、争点となった後遺障害に

よる逸失利益については、訴外A を退社した翌日から少なくとも3年間は日本国内に

おいてY1から受けていた実収入額と同額の収入を、その後67歳までの39年間については

、日本円に換算して1 ヵ月当たり3万円程度の収入をそれぞれ得ることができたものと

認定した。ただし、財産的損害(約234万3,000円)および慰謝料(約250万円) の算定に

つき、X の責任も一部認め3割の過失相殺を行った(結果的に合計195万円(うち弁護士

費用20万円)を認定、なお財産的損害分約164万円については労災保険給付により全て

補済み)。控訴審(東京高判平5.8.31 労判708‐26)もほぼ同様の理由により第一審

判決を是認し、各控訴を棄却した。そこで、Xが上告し、Y1及びY2も附帯上告した。



(2)判決の内容


労働者側勝訴(ただし、損害額については一部勝訴)。合計約216万6,000円を

認容(慰謝料175万円、弁護士費用20万円、財産的損害分約21万6,000円)。


 一時的にわが国に滞在し将来出国が予定される外国人の逸失利益を算定する際には、

その外国人がいつまでわが国に居住して就労するのか、その後どこの国に出国して、

生活の本拠をどこにおいて就労することになるのか等を、相当程度の蓋然性をもって

予測し、「将来のあり得べき収入状況を推定すべきことになる」。そうすると結局、予測

されるわが国での就労可能期間ないし滞在可能期間内はわが国での収入等を基礎とし、

「その後は想定される出国先(多くは母国) での収入等を基礎として逸失利益を算定

するのが合理的ということができる」。


 以上のことからすると、この事案において、Xのわが国における就労可能期間を3年の

期間を超えるものとは認めなかった原審の認定判断は、不合理ということはできない。

3.解 説


(1)外国人労働者の就労


 わが国における外国人労働者の就労については、入管法により単純・未熟練労働者は

受け入れないが、専門的・技術的能力を有する者等については可能な限り受け入れる

こととされている。そして、外国人労働者(不法就労者も含めて)についても、労働基準法、

労働安全衛生法および労災保険法などの労働法規等は適用される。もっとも、職業安定法

や、雇用保険法および健康保険法は、部分的又は全面的に不法就労者を適用対象外と

している。

(2)逸失利益の算定基準


 外国人労働者がわが国の企業において就労し、労働災害にあったような場合、労災

保険給付を受けたり、使用者に対して損害賠償を請求したりできるが、その際にその

労働者の逸失利益をどのようにして算定するのかが大きな問題となってくる。モデル

裁判例は、外国人労働者の労災民事訴訟に関する、また、特に不法就労者の労働

災害における逸失利益の算定についての最初の最高裁判決として非常に重要な意義を
有している。
 逸失利益の算定について最高裁は、判決内容で述べたような手法を用い、日本に

おける就労可能期間を3年、その後は母国に帰国して就労することを前提に算定を行った

第一審及び原審の判断を是認している。さらに、わが国における就労可能期間の認定に

ついては、「来日目的、事故の時点における本人の意思、在留資格の有無、在留資格の

内容、在留期間、在留期間更新の実績及び蓋然性、就労資格の有無、就労の態様等の

事実的及び規範的な諸要素を考慮」する旨を一般的に論じている。この事案において、

不法就労も認めたうえでこの3年という期間の判断に関しては賛否両論があり問題とも

なろうが、外国人労働者の逸失利益につき、わが国における就労可能期間は日本での

実所得を基準に算定するという枠組みを明確にした点では意義がある。


 なお、第一審判決においてではあるが、休業損害についての判断中、Xが入管法

違反の残留及び就労をしていたことに関し、「製本作業という就労内容自体は何ら問題の

ない労働であって、しかも入国自体が強度の違法性を有する密入国のような場合とは

異なるから、いまだ公序良俗に反するものであるということはでき」ないと述べられている

ことより、すべての不法就労者について上記のような財産的損害等が認められるわけ

ではない。



(3)その他の裁判例


 後遺障害による逸失利益の算定につき、モデル裁判例と同様の判断を示した

裁判例に、

三協マテハン事件
( 名古屋高判平15.9.24 労判863‐85( 要旨)、日本における

就労可能期間3年、過失相殺65%)、

中島興業・中島スチール事
件(名古屋地判平15.8.29 労判863‐51、同期間3年、

過失相殺3割)、及び、

植樹園ほか事件(東京地判平11.2.16 労判761‐101、同期間3年、過失相殺なし)

等がある。また、交通事故損害賠償の事案ではあるが、在留期間の延長許可等を

受けるなど適法に日本で就労していた日系ブラジル人につき、日本での就労可能

期間を5年、過失相殺を2割と判断した日系ブラジル人損害賠償請求事件(岐阜地

御嵩支判平9.3.17 判タ953‐224)等もある。


 また、外国人労働者が研修の履行を求めて行った集団的職場離脱に対し使用者が

なした懲戒解雇の有効性等が争われたケースで、使用者が出入国管理当局に申告

した賃金額と、その労働者たちとの間で合意した賃金額とが異なっていた場合に、

当局に申告した賃金額が雇用契約上の賃金となるわけではないと判断した裁判例に

山口製糖事件( 東京地決平4.7.7 労判618‐36) がある。わが国では政策上、

単純労働を目的とした外国人労働者は受け入れないこととされていることより、この

事案のように申告した賃金額と当事者間で合意された賃金額とに相違が出てくる場合が

あるが、今後このような事態が放置されることなく、行政上あるいは司法判断において

何らかの適切な対処が望まれよう。


 その他に、使用者による外国人労働者のパスポート保管行為の適法性、及び、

その労働者たちの渡航費用につき賃金から天引きすることの是非が問われた

裁判例として

株式会社本譲事件(神戸地姫路支判平9.12.3 労判730‐40)がある。









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