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個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ


                                      労働条件の変更

                                 合意による労働条件の変更



1.ポイント


(1)使用者労働条件変更を行おうとする場合

労働者当該変更に同意していれば、

労働条件は両者の合意に基づいて適法に変更される。

ただし、当該合意は、労基法などの強行法規に違反したり、

就業規則労働協約の定めよりも労働者に不利な労働条件

定めたりするものであってはならない


(2)労働者が労働条件変更について明示的な同意の意思表示を

していない場合であっても、その言動などからみて黙示的に変更に

同意していると認められる可能性がある。

しかし、多くの裁判例は、このような黙示の同意の認定

慎重に行う姿勢を示している。


(3)労働者−使用者間の合意によらない労働条件変更が許容される場合としては、

就業規則又は労働協約によって労働条件を変更する場合と、

使用者が労働条件を変更する権限を有すること労働契約に定められている場合

とがあり、それぞれ、一定の要件の下で労働条件変更の効力が認められる。


2.モデル裁判例


  更正会社三井埠頭事件 東京高判平12.12.27 労判809‐82



(1)事件のあらまし


 A会社は、平成10年5月に、管理職従業員に対し、

あらかじめ通知した上で賃金の20%減額を実施した。

その後A会社では同年10月に会社更生手続が開始された。


 A会社の管理職であったXら(3名) は、希望退職により同社を退職した後、

同人らは上記賃金減額には同意しておらず、

平成10年5月分以降の減額分未払賃金であるとして、

A会社の更正管財人Yに対し、その支払いを求めて提訴した。



(2)判決の内容


労働者側勝訴

 就業規則に基づかない賃金の減額・控除に対する労働者の承諾の意思表示は、

賃金債権の放棄と同視すべきものであり、それが労働者の自由な意思に基づいて

されたものであると認めるに足りる合理的な理由客観的に存在するときにかぎり、

有効であると解すべきである。


 Xらは賃金減額の通知があったことを知りつつ、これに異議を述べることなく

減額された賃金を受け取り続けたのであり、外見上、賃金減額を黙示に承諾したと

認めることが可能である。


 しかし、Xらが本件賃金減額の根拠について十分な説明を受けていないこと、

A会社において本件減額に対する各人の諾否の意思表示を明示的に求めようと

したとは認められないこと、

Xらは賃金減額に異議を述べなかった理由として、

異議を述べると解雇されると思った」

「自らの勤続期間が短く、他の人を差し置いて異議を述べるべきでない

思ったからで、賃金控除に納得していたわけではない」などと

供述していること、本件賃金減額によるXらの不利益は小さくないものである上、

管理職のみに負担を負わせるものとなっていること等に鑑みると、

Xらがその自由な意思に基づいて本件減額通知を承諾したものとは

到底いえないし、また、外形上承諾と受け取られるような不作為がXらの自由な

意思に基づいてなされたと認めるに足りる

合理的な理由が客観的に存在したともいえない



3.解 説


(1)労働条件変更の手段としての合意

 労働条件変更のための代表的な手段としては、

就業規則規定の新設・変更や、労働協約の新規締結・改訂があり、

それぞれ裁判例の積み重ねによって労働条件変更の有効性を判断する

枠組みが形成されている((69)(70)〜[ 労働条件の変更] 参照)。

また、新たな労働条件変更の手段として、

変更解約告知が注目されつつある((71) [ 労働条件の変更] 参照)。


 しかし、労働条件の変更とは、法的にいえば

労働契約という契約の内容の変更であるので、契約内容は当事者間の合意に

よって決定・変更されるという民法(契約法)の原則からすれば、労働者と使用者の

合意が、労働条件変更のもっとも基本的な手段ということになる。


 労働者と使用者の間で労働条件を変更する合意が成立した場合、労働条件の変更は

原則として、当該合意に基づいて適法に行われる(労働者が就業規則や労働協約に

よる労働条件変更に同意している場合も同様)。ただし、労働条件変更の合意は、労働

基準法などの強行法規に違反したり、就業規則・労働協約の定めよりも労働者に

不利益な労働条件を定めたりするものであってはならない(労基法13条、93条、

労組法16条など参照)。


 一方、労働条件変更の合意が成立しない場合には、後述する場合(→(3))に該当

しない限り、前述の民法の原則により、労働条件変更は不適法・無効となる。たとえ

労働条件変更を必要とする合理的な理由が存在するとしても、このことに変わりはない

(経営状況が悪化した中で使用者が労働者との合意を経ずに行った賃金引下げの

効力を否定した裁判例として

東豊観光事件
 大阪地判平13.10.24 労判817‐21など)。



(2)労働者の同意の有無


 労働者−使用者間の労働条件変更の合意の成否をめぐって実際上問題になることが

多いのは、変更に対する労働者の同意が明確な形で示されていない場合に当該

労働者の言動等の事実関係から「黙示の同意」を認定できるか否かである。裁判例

では、労働者が賃金体系の変更について十分に認識していたにもかかわらずこれに

異議を述べなかった場合に比較的簡単に黙示の同意を認定した例もある

エイバック事件 東京地判平11.1.19 労判764‐87)が、多くの裁判例では黙示の

同意の認定は慎重に行われている。

 同様に黙示の同意の認定を慎重に行っている裁判例としては、賃金体系の変更

(歩合制の導入)に合理性が認められ、変更直後には原告本人からも他の労働者からも

異議がなかった等の事実関係を踏まえた上で黙示の同意を認定する

光和商事事件(大阪地判平14.7.19 労判833‐22)、賃金減額の提示を受けた労働者が

一旦退職の意思表示をした後にこれを撤回したとしても黙示の同意とは認められないと

する

山翔事件
(東京地判平7.3.29 労判685‐106)、55歳以降の賃金減額の事案において、

労働者が変更直後に異議を述べていないとしても、55歳到達前に異議を述べている

以上は黙示の同意は認められないとする

日本ニューホランド事件
(札幌地判平13.8.23 労判815‐46)などがある。



(3)合意によらない労働条件の変更


 就業規則や労働協約による労働条件変更については、それぞれ一定の要件の下で、

労働者の同意を得ることなく労働条件変更を行うことが認められている((69)〜 (70)

[労働条件の変更]参照。変更解約告知の場合には、労働条件変更は結局のところ

合意に基づいて行われることになる)。


 また、使用者が労働条件を変更する権限を有することが労働契約に定められている

場合には、その定めに基づいて使用者が労働者の同意を得ずに行う労働条件の変更は、

権利濫用等に該当しない限り許容される。たとえば、成果主義的な人事・賃金体系の下で

低査定の労働者に対して資格の引き下げや賃金減額を行うものとする労働契約上の

定めが存在する場合、この定めに基づく資格や賃金の引き下げは、前提となる査定に

違法な点がなく、かつ、権利濫用等に該当しなければ適法に行いうる(成果主義的

賃金制度の下で使用者が就業規則の定めに基づいて行った賃金減額を有効とした例と

して

エーシーニールセン・コーポレーション事件 東京地判平16.3.31 労判873‐33)。











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