社会保険労務士・行政書士 田村事務所トップへ




個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ


                           労災補償

                            労災保険給付と損害賠償との調整



1.ポイント

(1)労働災害の被災労働者又はその遺族は、

労災補償ないし労災保険給付を請求できると同時に

使用者又は第三者に対しては損害賠償請求を行うことも可能である。

しかし、これでは被災労働者等の損害を二重に回復することとなってしまう

ため、労災補償・労災保険給付と損害賠償との間で一定の調整が行われている。


(2)労災保険法に基づく労災保険給付が被災労働者に行われた場合、

使用者は労基法上の災害補償責任を免れる(労基法84条1項。

使用者により災害補償がなされた場合、

同一の事由についてはその限度で使用者は損害賠償責任を免れる

(同条2項。

労災保険給付が行われた場合も

労基法84条2項を類推適用して、使用者は同様に保険給付の範囲で

損害賠償責任を免れる


(3)労災保険法の年金給付については、

使用者が賠償すべき損害額から将来支給予定の年金給付分を

控除できるか否かが問題となる(最高裁は基本的に非控除説の立場)。


(4)労災民事訴訟における損害賠償額算定の際過失相殺と、

労災保険給付の控除との先後関係が問題となる。

被災労働者等にとっては控除後相殺説の方が有利となる

(最高裁は控除前相殺説の立場)。





2.モデル裁判例


  三共自動車事件 最三小判昭52.10.25 民集31‐6‐836、判時870‐63

(1)事件のあらまし


 特殊自動車等の分解整備を業とする第一審被告Y( 使用者) に雇われていた

第一審原告X( 当時20歳) は、ある日Yの工場において作業中、ワイヤーロープに

吊り下げられていたバケット(重さ約1,500キロ) が突然その頭上に落下し、その

下敷きとなった。

Xは脳挫傷、頸骨骨折等の重症を負い、結果的に労働能力を喪失することとなった。

そこで、Xは民法717条及び715条に基づきYに対し逸失利益や慰謝料を求めて訴えを

提起した。


 一審(松山地宇和島支判昭48.3.31 高民集28‐2‐119)、

原審(高松高判昭50.3.27 高民集28‐2‐87) ともに、

Xが勝訴した。

ただし、Xは原審において、将来支給される長期傷病補償給付金の分につき

損害賠償請求額(逸失利益)から控除すべきでない旨、請求を一部拡張して

いたが、この点に関しては認められなかった。Xが上告。



(2)判決の内容


労働者側勝訴


 使用者の行為等による災害の場合において、被災労働者が労災保険法上の

保険給付を受給したときは、労基法84条2項の規定を類推適用して、使用者は

同一の事由についてその価額の限度で損害賠償責任を免れる。

そして、政府が保険給付をしたことにより、受給権者が使用者に対する損害賠償

請求権を失うのは、この保険給付が損害の填補の性質をも有している以上、

政府が現実に保険金を給付して損害を填補した場合に限られ、

「いまだ現実の給付がない以上、たとえ将来にわたり継続して給付されることが

確定していても、受給権者は使用者に対し損害賠償の請求をするにあたり、

このような将来の給付額を損害賠償債権額から控除することを要しない」と

考えられる。

3.解 説

(1)労災保険給付と損害賠償との調整


 労働災害に関して被災労働者又はその遺族は、労基法上の災害補償ないし

労災保険法に基づく労災保険給付を受けることができる。しかし、これら労災補償

制度による補償は、被災労働者の被った損害の全てをカバーしているわけではない

ため、全損害の回復が可能となる労災民事訴訟(使用者または第三者等に対する

損害賠償請求)が重要な役割を果たしている。わが国では労災補償制度と損害賠償

制度とが併存していることより、被災労働者等の損害回復が二重になされる可能性が

あるが、そのような事態を避けるため、労災補償・労災保険給付と損害賠償との間で

一定の調整が図られている(労基法84条等)。


 第三者行為災害の場合においては、使用者による災害補償および政府による労災

保険給付と(使用者以外の) 第三者による損害賠償との関係が問題となる。通説・

判例によれば、第三者が先に損害賠償を行った場合には、その限度で使用者または

政府は災害補償または保険給付を行わなくてもよい。また、使用者または政府が先に

補償または保険給付を行った場合には、使用者は民法422条の類推適用により(被災

労働者に代位して)、政府は労災保険法12条の4に基づき、被災労働者(あるいは受給

権者)が第三者に対して有する損害賠償請求権を取得する。他方、使用者行為災害の

場合にも、被災労働者等が労災保険給付等を受けたときには、同一の事由につき、その

価額の限度で使用者は損害賠償責任を免れることになる。



(2)労災保険の将来給付分の控除


 労災保険給付が年金として支給されるようになると、この年金給付と損害賠償との

調整をいかに行うべきかが大きな問題となってきた。モデル裁判例は、将来支給予定の

年金給付分を使用者が賠償すべき損害額から控除できるか否かが争点となったケースで

あり、使用者行為災害の場合における初めての最高裁判決として重要な意義を有し、

また、昭和55年の労災保険法改正(調整規定の新設(現在、同法64条))の契機とも

なった重要な判決でもある。このモデル裁判例で最高裁は非控除説の立場を採用した。


 他方、第三者行為災害の場合についても、モデル裁判例判旨にも参照として引用されて

いたが、非控除説に立つことが最高裁によって示されていた

仁田原・中村事件 最三小判昭52.5.27 民集31‐3‐427)。ただし、

寒川・森島事件(最大判平5.3.24 民集47‐4‐3039) において、最高裁は、

地方公務員等共済組合法に基づく遺族年金に関して、「被害者又はその相続人が

取得した債権につき、損益相殺的な調整を図ることが許されるのは、当該債権が現実に

履行された場合又はこれと同視し得る程度にその存続及び履行が確実であるという

ことができる場合に限られる」と述べたうえで、遺族年金につき、「支給を受けることが

確定した遺族年金の額の限度で、その者が加害者に対して賠償を求め得る損害額から

これを控除すべきものである」との判断も示している点に留意しておく必要がある。


 なお、モデル裁判例において敗訴した使用者Yは、その後、国を相手取って、控除され

なかった年金給付分につき、民法422条に基づき代位請求した。高裁では使用者の労災

保険給付に対する代位取得が肯定されたものの、最高裁では否定されている(三共

自動車(代位取得) 事件 最一小判平元.4.27 民集43‐4‐278、労判542‐6)。



(3)労災保険給付の控除と過失相殺など


 労災民事訴訟において損害賠償の額を算定する際、被災労働者に過失があった場合に

は過失相殺が行われるが、この過失相殺と労災保険給付の控除との先後関係について、

最高裁は、損害額につき過失相殺した後で、労災保険の給付分を控除すること(控除前

相殺説) を明言している

鹿島建設・大石塗装事件 最一小判昭55.12.18 民集34‐7‐888、労判359‐58;

高田建設事件 最三小判平元.4.11 民集43‐4‐209)。


 なお、労災保険給付は、被災労働者等の財産的損害を補償することを目的としている

ため、慰謝料等には影響を与えないことから、被災労働者等は保険給付との調整とは

無関係に慰謝料等を請求できる

東都観光バス事件 最三小判昭58.4.19 民集37‐3‐321、労判413‐67)。

また、特別支給金については、その性質等に鑑み損害賠償額から控除できないと

されている(コック食品事件 最二小判平8.2.23 民集50‐2‐249、労判695‐13等)。










   行 政 書 士 田村事務所
     社会保険労務士田村事務所
               
       〒531-0072     大阪市北区豊崎三丁目20−9 (三栄ビル8階)
   
     TEL(06)6377−3421         FAX(06)6377−3420
  
     E−mail tsr@maia.eonet.ne.jp URL http://www.eonet.ne.jp/~tsr   


                                         行 政 書 士
               所長  特定社会保険労務士 田村 幾男

                     

           お問合せは、下記メールをご利用下さい
     
                                             





            

                      行 政 書 士 田村事務所
                                            社会保険労務士田村事務所の営業区域

     (大阪府)
      大阪市(北区・中央区・西区・浪速区・天王寺区・都島区・旭区・鶴見区・城東区・東成区・生野区・平野区・東住吉区
       全区
            住吉区・阿倍野区・西成区・住之江区・大正区・港区・此花区・福島区・西淀川区・淀川区・東淀川区)
     
      豊中市・吹田市・箕面市・池田市・茨木市・摂津市・高槻市・枚方市・交野市・寝屋川市・守口市・門真市・大東市

      四条畷市・東大阪市・八尾市・藤井寺市・柏原市・羽曳野市・松原市・富田林市・大阪狭山市・河内長野市・和泉市

      堺市・高石市・泉大津市・岸和田市・貝塚市・泉佐野市・泉南市・阪南市・
     
       島本町・美原町・忠岡町・熊取町・田尻町・岬町  

    (兵庫県)

      神戸市・尼崎市・伊丹市・川西市・宝塚市・芦屋市・三田市・西宮市・明石市・加古川市・高砂市・姫路市・
      
      播磨町・稲美町・猪名川町


社労士に委託するメリット      トピックス      トピックス(2)     国民年金・厚生年金保険      健康保険制度
社会保険労務士業務  取扱い法律一覧      個人情報保護方針      就業規則    社会保険労務士綱領の厳守      
助成金概要      助成金診断について      リンク集へ       報酬額表     最新NEWS  サービス提供地域
田村事務所へようこそ   田村事務所運営理念  社労士業務(その二)  特定社会保険労務士    産業カウンセラー
代表者プロフィ−ル   田村事務所アクセス   大阪の社労士からの、発信    お問合せ
     キャリア・コンサルタント

 あっせん代理      改正雇用保険法    メンタルヘルス対策      中小企業労働時間適正化促進助成金

短時間労働者均等待遇推進等助成金         均等待遇団体助成金   外国人雇用状況届出制度      常用雇用転換奨励金

                                                                           社会保険労務士・行政書士田村事務所トップへ

本ページトップへ



          お願い:当事務所のホームページの記載事項に関しましては、充分に細心の注意を払い記載しておりますが、

           万が一記載内容により、発生した損害につきましては、責任を負い兼ねますので、ご留意・ご了承下さい。
          

             copyright(c)2007-2008 Ikuo Tamura All Rights Reserved 社会保険労務士・行政書士田村事務所