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個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ


                                            労働者の人権・人格権

                                                                    プライバシー

1.ポイント



(1)使用者は雇用契約に付随して

労働者のプライバシー侵害されないよう

職場環境を整える義務がある。


(2)社会的偏見・誤解を招きやすい情報であ

HIV肝炎感染等の検査業務上の

必要性あるいは本人の同意なく行うことは、

プライバシー侵害に該当する。


(3)労働者の私物貸与したロッカーをあける

使用者の行為は、労働者のプライバシー

侵害する行為である。


(4)Eメールの通信期待できるプライバシーの程度は、

通常の電話装置による場合より相当低減されたものであるが、

使用者による労働者の私用メール調査

次のような場合にプライバシー侵害に該当することがある。


@電子メールの私的使用を監視する責任の立場にない者が行った場合、

A責任ある立場であっても職務上の合理性・必要性がまったくなく

個人的な好奇心で行った場合、

B社内の管理部署その他の社内の第三者に対して監視の事実を秘匿したまま

個人の恣意に基づく手段方法により監視した場合等、社会通念上相当な範囲を

逸脱した監視がなされた場合である。


2.モデル裁判例


  関西電力事件 最三小判平7.9.5 労判680‐28

(1)事件のあらまし



 一審原告側労働者Xら(被控訴人・被上告人) は、関西を中心に支店営業等を

有する発電・送電等を業とする一審被告側使用者Y(控訴人・上告人)の従業員である。

Xらは共産党員もしくはその同調者であり、労使協調路線に反対する組合内少数派に

属する者である。


 Yは、企業防衛のために「特殊対策」を推進し、Xらにかかってきた電話を調査し、

ロッカー内の私物を密かに写真撮影し、他の従業員にXらと接触・交際しないように

働きかけ、会社の行事から排除し、Xらの孤立化を図った。使用者の内部資料を入手

した労働者らは、上記の対策を知るに至り、不法行為(故意・過失によって他人の権利を

侵害し損害を与える行為)に基づく各自200万円の慰謝料と87万1,000円の弁護士費用、

ならびに謝罪文の掲示と社内報への掲載を求めて訴えを提起した。



(2)判決の内容
労働者側勝訴
 Xら一人あたり80万円の慰謝料と10万円の弁護士費用の支払いをY に命じた

第二審の判決を支持した。


 Yは、Xらが現実には企業秩序を破壊し混乱させるなどのおそれがあるとは

認められないにもかかわらず、Xらが共産党員又はその同調者であることのみを理由とし、

その職制等を通じて、職場の内外でXらを継続的に監視する態勢を採った上、種々の

方法を用いてXらを職場で孤立させるなどしたというのであった。


 これらの行為は、Xらの職場における自由な人間関係を形成する自由を不当に侵害

するとともに、その名誉を毀損するものである。また、ロッカー内の私物を写真撮影する

行為はプライバシーを侵害するものでもあって、同人らの人格的利益を侵害するもので

ある。これら一連のYの行為は、YのXらに対する不法行為(故意・過失によって他人の

権利を侵害し損害を与える行為) にあたり、YはXらに対し慰謝料等の支払義務を負う。

3.解 説



(1)プライバシー侵害が問題とされた裁判例


 最高裁がモデル裁判例において「職場における人間関係形成の自由」や「プライバシー」

に言及した意義は大きいとされるが、これ以前にも、使用者が組合活動に関する情報

収集のため従業員控室に盗聴器を設置した事件で、使用者が従業員の控室に盗聴器を

設置し会話を傍受することは原告らのプライバシーを侵害するものであるとして、労働者ら

に各5万円の慰謝料を認めた

岡山電気軌道事件
(岡山地判平3.12.17 労判606‐50) や、引越業務での客の

所持品紛失に伴う従業員に対する身体検査がプライバシー等の侵害に当るとし、

慰謝料30万円の支払を認めた

日立物流事件(浦和地判平3.11.22 労判624‐78)などがある。



(2)労働者のプライバシーが侵害されないよう職場環境を整える使用者の義務 

裁判所は、男性従業員の女性更衣室におけるビデオによる隠し撮りをした事件で、

使用者は雇用契約に付随して、労働者のプライバシーが侵害されないよう職場環境を

整える義務があるとして、慰謝料等として男性従業員に約140万円の支払いおよび

会社に約215万円の支払いを命じている(京都セクハラ(呉服販売会社) 事件 京都

地判平9.4.17 労判716‐49)。また、覗き目的で女性トイレに侵入した男性従業員に

対する苦情に関し、会社がこれを放置すれば女性従業員のプライバシーが侵害される

可能性があり、会社に誠実かつ適正に対処する義務があったとし、慰謝料350万円の

支払いを命じた

仙台セクハラ(自動車販売会社)事件
(仙台地判平13.3. 26 労判808‐13)などの

事件がある。




(3)秘匿しておきたい健康情報


 HIV・肝炎等、社会に偏見や誤解が存在する情報の使用者の収集に関し、

裁判所は、プライバシー保護の観点から以下のように判断している。


 まず、HI V感染に関する

H I V感染者解雇事件( 東京地判平7.3.30 労判667‐14)において裁判所は

、HI V感染を理由とする解雇は社会的相当性の範囲を逸脱した違法行為であると

して解雇を無効とし、使用者がこのような情報をみだりに第三者に漏洩することは

プライバシーの権利の侵害として違法となるとし、会社・派遣先会社・会社社長

各々に慰謝料300万円の支払いを命じた。


 また、

T工業(HI V解雇) 事件( 千葉地判平12.6.12 労判785‐10) では、

HIV感染の有無を知る必要性は通常認められないことからHI V感染に関する従業員

個人の情報を取得してはならず、HI V抗体検査等を行うことはプライバシーの権利を

侵害するとし、これに基づく解雇が無効とされ、慰謝料として会社に200万円、抗体

検査を行った医療機関の経営者に150万円の支払いが認められている。このほかに、

東京都(警察学校・警察病院HI V検査) 事件( 東京地判平15.5.28 労判852‐11)

では、HI V陽性が判明した者への入校辞退勧告が行われた結果の警察官の入校

辞退に関し、このような行為がプライバシーを侵害する違法な行為として、東京都に

対し330万円、警察病院に対し110万円の損害賠償の支払いが命ぜられた。


 さらに、肝炎に関する検査に関する事件も発生している。採用選考に際し、本人に

無断で行った肝炎の検査によりB型肝炎ウイルスに感染していることを理由として

なされた内定の取消しに関する

B金融公庫(B型肝炎ウイルス感染検査)事件(東京地判平15.6.20 労判854‐5)では、

検査を行った行為がプライバシー権侵害に該当するとして、損害賠償150万円の支払いが

認められている。

(4 )Eメールに関する事件

 Eメールの調査に関する事件も生じている。まず、

F社Z事業部事件(東京地判平13.12.3 労判826‐76) は、労働者の誤送信メールから

自己のセクシュアル・ハラスメント行為告発の動きを知った上司が労働者のEメールを

監視し続けた事例であるが、裁判所は、職場における私用メールに一定の

プライバシー性を認めながらも、事業部の最高責任者である上司による監視は

相当性の範囲内にとどまっており、原告の私用の程度が限度を超えていたとして

労働者の請求を棄却している。


 また、

日経クイック情報事件( 東京地判平14.2.26 労判825‐50) は、

私用メールの内容の調査がプライバシー侵害に該当するかが争われた事例であるが、

裁判所は、プライバシーに一切触れることなく労働者の行為が職務専念義務に

違反するとに、労働者の訴えを退けた。


 これに対し、就業規則に特別規定がない限り、社会通念上認められる範囲での

私用メール送受信が、職務専念義務に違反しないとした

グレイワールドワイド事件
(東京地判平15.9.22 労判870‐83)がある。










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