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個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ


                 労働者の人権・人格権
                                                     思想・信条差別

1.ポイント





(1)思想・信条による差別が問題となる事案において

次の実態が存在すれば、使用者の差別行為があったことが

推定される。


  @会社に一定の思想を排除する状況が存在していること。


  A年功序列的賃金制度がとられていること。


  B一定の思想をもつ者賃金一般の従業員と比べ著しく低いこと、

思想の転向者への優遇措置がとられていること、

一定の思想をもつ従業員標準者の人事査定を受けている者が存在しないこと

等の差別的取扱いの存在状況があること。


(2)これに対し、会社側が、差別を受けたと主張する労働者入社以来の

勤務成績が劣悪であったことや、能力向上の意思がないために人事考課

査定低位になされたことを証明すれば、上記の差別の推定は覆される。



2.モデル裁判例




  東京電力(群馬)事件 前橋地判平5.8.24 労判635‐22

(1)事件のあらまし


 原告側労働者Xらは、関東を中心に支店営業等を有する発電・送電等を

業とする被告側使用者Yの従業員である。


 Xらは、Yから共産党員またはその支持者であることを理由に、職給・資格・職位・

賃金などの賃金関係の処遇において差別され、共産党を辞めるよう強要され、交友

制限等の人権侵害を受けてきたと主張し、賃金などの処遇に関する差別に対する

財産的損害として、会社従業員中の、Xらと同年入社・同学歴の者の平均的賃金との

差額相当額、及び、人権侵害と差別による精神的苦痛に対する慰謝料300万円の

支払い、これらの行為による名誉毀損の回復措置として謝罪広告ならびに弁護士

費用の支払いを求めて訴えを提起した。



(2)判決の内容


労働者側勝訴
 Xらに対する慰謝料240万円及び弁護士費用24万円の支払いをYに命じた。


 労基法3条は、従業員の思想信条(宗教的信仰のみならず、人生や政治に関する

考え方)の自由を侵してはならず、これを理由に差別待遇をしてはならないことを

規定している。仮に、使用者の経営秩序の維持、生産性の観点から従業員の思想

信条が問題とされる場合であっても、会社の経営秩序、生産性を阻害するような現実

かつ具体的危険が認められない限り、思想・信条の自由を制約する等の行為は

許されない。


 YがXらに対し思想信条を主たる理由とする差別意思の下に不利益な賃金査定を

行ったことおよび思想信条の自由を侵す人権侵害行為を行ったことは、公の秩序善良の

風俗に違反し、不法行為(故意・過失によって他人の権利を侵害し損害を与える行為)に

あたる。Xらの請求のうち、差別賃金相当分の請求にかかる部分については

認められないが、Yの思想信条差別のためXらの賃金は、本来受け取るべき賃金額より

も低額であったことが認められ、違法な査定に基づき重大な精神的苦痛を被ったことは

明らかである。したがって、慰謝料・弁護士費用を認めるのが相当である。謝罪文の

掲示はその必要がない。


3.解 説

(1)思想・信条を理由になされた差別に関する一連の東京電力の事件


 労働者の思想・信条を理由になされた査定差別に関する立証は困難である。

そこで、実際の裁判では、ポイントに示したような差別の推定がなされることが多い。


 東京電力の思想・信条差別に関する訴えの提起は、平成5年モデル裁判例をはじめ

として6つの地域に分散してなされ、東京を除く5つの事件について一審判決が

下されている。モデル裁判例、

東京電力(山梨)事件
(甲府地判平5.12.22 労判651‐33)、

東京電力(長野)事件
(長野地判平6.3.31 労判660‐73)、

東京電力(千葉)事件
( 千葉地判平6.5.23 労判661‐22)、

東京電力(神奈川) 事件( 横浜地判平6.11.15 労判667‐25)である。



(2)査定差別による賃金格差


 これら5判決に共通する点は、いずれの判決も思想・信条を理由とする査定差別が

均等待遇を規定する労基法3条等に違反することを前提としていることである。また、

5判決とも、賃金格差の全部もしくは一部が使用者の違法な差別的査定によるもので

あることを認定し、賃金差別が不法行為(故意・過失によって他人の権利を侵害し損害を

与える行為)にあたることを認め、少なくとも慰謝料の支払いを認容している点も共通

している。



(3)救済内容


 5判決の相違点は救済内容にある。大まかに次の3つのパターンに区分することが

できる。


 @損害額算定不能によって生ずる不都合を慰謝料において考慮すべきであるとする

もの(前掲東京電力(群馬) 事件では、一人当たり300万円の請求に対して240万円の

慰謝料の支払いが認められ、

前掲東京電力(長野)事件では、原告の請求どおり1人あたり300万円の慰謝料の

支払いが認められている)。


 A標準者に支払われるべき「あるべき」賃金の合理性・正確性が認められ、かつ

労働者らが標準者と同等の業務遂行能力・業務実績を有していたことが立証されたと

して、あるべき賃金との差額のすべてを財産的損害として認め、これに加え

一人当たり150万円の慰謝料の支払いを認めたもの(前掲東京電力(山梨) 事件)。


 B標準者との格差が少なくとも3割認定できるとして3割の賃金差額の財産的損害を

認め、これに加え一人あたり150万円の慰謝料の支払いを認容したもの

(前掲東京電力(千葉)事件) と、同様の方法で、一般労働者については賃金額の5割、

下級管理職では3割の財産的損害を認め、これに加え一人当たり150万円の慰謝料の

支払いを認めたもの

(前掲東京電力(神奈川)事件)。



(4)その他の事例
 こられの事件以前における同様の事案に関して、富士電機製造事件(横浜地横須賀

支決昭49.11.26 労判225‐47)では、標準者との給与額の差額について支払いが

認められ、

福井鉄道事件(福井地武生支判平5.5.25 労判634‐35)では、勤務成績中位の

最低点の考課給を基準として損害賠償が認められている。


 比較的最近の同様の事件として、

中部電力事件
(名古屋地判平8.3.13 判時1579‐3)では、同期・同学歴入社者の

うち平均基本給を得ている者及び中位職級の地位にある者をもって格差算定の

標準者と想定して、これらの者が得ていた賃金額と被差別労働者の得ていた賃金額

との差額をもって被差別労働者の被った損害と認めるのが相当であるとし、これに

加えて、被差別労働者の事情によって各自100万円及び200万円の慰謝料を

認めている。
 また、

松阪鉄工所事件( 津地判平12.9.28 労判800‐61) においては、職能資格

等級制度に基づく賃金体系が実施されている場合、賃金の具体的な額は使用者に

よる人事考課により初めて決定されるとして、差額賃金額請求が否定されたが、

精神的損害として200万円の慰謝料は認容されている。

 さらに、最近の事件として、

倉敷紡績(思想差別)事件(大阪地判平15.5.14 労判859‐69)においては、

共産党員を敵対するものとして差別的取扱いが行われていたこと、すなわち、

他の従業員が同党員あるいはその同調者となることを抑制することを労務政策の

1つとしていたことが認められ、人事制度の実際の運用がいわゆる年功序列的

運用がなされており、人事考課上、労働者らが特段否定的に評価されるような

事情が見受けられないにもかかわらず、処遇上不利益を与えてきたことは、

労働者らが共産党員であることを理由とするものと推認でき、労基法3条の均等

待遇に違反するとされ、会社に対し労働者らそれぞれに150万、80万円の慰謝料

支払いが命じられている。









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