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個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ
労働者の人権・人格権
職場の暴行行為
1.ポイント
(1)暴行行為が
従業員同士の行為であっても、
就業時間中に就業場所で行われた場合には、
会社の事業の執行行為を契機として、
これと密接に関連を有すると認められるため、
会社は被害を受けた労働者に対し使用者責任としての
損害賠償責任を負うことがある。
(2)従業員の暴行等に起因する精神疾患に関しても
使用者は使用者責任を負うことがある。
(3)暴言をあびせ罵倒する等の行為が、
恒常的に精神的苦痛を与え、人の生命・身体という
人格的利益を侵害し又は侵害するおそれがある場合には、
差止めを求めることができる。
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2.モデル裁判例
エール・フランス事件 東京高判平8.3.27 労判706‐69
(1)事件のあらまし
一審原告側労働者X(被控訴人)は、フランスに本社を置く航空会社である
一審被告側使用者Y1(被控訴人)の従業員であり、Y2 はY1代表者、Y3らはY1の
労働組合役員らでありXの同僚である。Y1では、労働組合との本社再建に関する
労使協議の結果、希望退職の募集が行われることになった。このY1の希望退職募集に
際し、X は、Y3から希望退職届の提出を強く求められたが、これに応じなかった。
Y 3らは、希望退職に応じようとしないXに対し、顔面への殴打、大腿部への足蹴り、
鉄製ファイル棚に後頭部を打ち付けるなどの暴行のほかにも、ゴミ入れを頭に被せる、
衣服にコーヒーをかける、Xの机の上にXを中傷する落書をする、机にコーヒーで湿らした
新聞紙を入れる、灰皿の灰を投げつける、罵声を浴びせる等の行為を繰り返し、
また、このほかにも仕事差別を行った。
そこで、X は、このようなY3の行為に対し、Y1 〜Y3に連帯して慰謝料の支払いを
求めた。
(2)判決の内容
労働者側勝訴
Y 3らは、暴力行為に関し、連帯して賠償責任を負うべきである。また、Y3らによる
暴力行為および仕事差別は、Y1の事業の執行につき従業員同士の間で行われたもので
あり、Y1はX に対して使用者責任を負うべきである。さらに、Y2は、少なくとも仕事差別を
知り得たのであり、それにもかかわらず何らの対処もしなかったものであるところ、損害
賠償責任を負う。
しかし、Xは、協調性に乏しく、他の従業員から遊離した存在になっていたことなどの
事情があり、このようなXの態度が、控訴人らの暴力行為等を誘発する一因となった
ものと推認することができ、また、Xの受けた暴力行為等は、客観的に見て、言葉で
表現したところから受ける印象よりも軽度なものであったと推認される。さらに、仕事
差別の点について、Y1は、Xの勤務成績及び勤務態度が悪いなどの評価の結果とも
考えられる。しかしながら、Xが反抗的な態度を示すようになったことには、管理職等が
勤務時間内外にわたり、Xに対して執拗に希望退職届を提出するよう強く要請し続けた
ことにもその一因があり、Xのみを責めることはできない。
以上から、暴力行為等につき、Y1およびY3らは連帯して慰謝料200万円および弁護士
費用30万円の支払い義務を負い、仕事差別につき、
Y1・Y 2は連帯して慰謝料100万円の支払い義務を負う。
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3.解 説
(1)使用者責任
最近、職場の暴行に関する事例がいくつか見られるようになってきた。このような
事件は、従業員間の暴行行為が問題とされるものであり、暴行行為の存在が認められ
ればこれを行った労働者の責任が問われることになるが、モデル裁判例のように、
労働者の行為が会社の事業の執行行為を契機として、これと密接に関連を有するものと
判断され、会社に使用者責任としての損害賠償責任が課される場合がある。
同様に使用者責任が認められた事件として、
大阪市シルバー人材センター事件(大阪地判平14.8.30 労判837‐29) が
あげられる。この事件は、労働者が上司に拳で右眼付近を殴打され失明し、もともと
左目を失明していたため、両眼失明に至った事例であるが、上司の行為がセンターの
事業の執行につきなされたと認定され、センターに使用者責任が認められている。
これに対し、使用者責任が認められなかった事例として、
ネッスル(専従者復帰)事件( 神戸地判平元.4.25 労判542‐54) がある。この
事件において裁判所は、2つの労働組合が対立・抗争し、一方の組合員が他方の
多数の組合員に取り囲まれ、罵声を浴びされ、暴行を受けたとの主張に対し、偶発的な
行為であったというべきであり、会社はその賠償をする責任を負ういわれはないものと
述べ、労働者の主張を棄却している。
慰謝料の算定については、本人の協調性の欠如等暴行に至ったことへの本人の
責任が考慮され、過失相殺がなされる傾向がある。
モデル裁判例も被害にあった労働者本人の責任に言及するものであったが、前掲
大阪市シルバー人材センター事件においても、協調性を欠き上司の指導を聞き
入れようとしない労働者の作業態度に上司の不満が爆発した点が考慮され、労働者の
被った損害の3割分が過失相殺され、センター加入の私的保険からの保険金357万円
および上司から損害賠償の内金として支払われた60万円が差し引かれ、損害額として
505万円と、これに弁護士費用50万円が付け加えられた555万円の支払いがセンターに
命じられた。
(2)暴行事件を原因とする精神疾患
暴行そのものの身体的傷害というより、暴行に起因する精神疾患が問題となる事件も
発生している。
例えば、
川崎市水道局(いじめ自殺) 事件( 東京高判平15.3.14 労判849‐87)において
裁判所は、上司らの揶揄・嘲笑・侮蔑的発言により労働者が精神疾患に陥り、その後
自殺したとして川崎市に安全配慮義務違反があったことを認め、本人の資質等の
要因から7割分を過失相殺し、労働者の逸失利益および慰謝料として両親それぞれに
約1,170万円の損害賠償支払いを認めた。
これに関連する事件として、
アジア航測事件(大阪地判平13.11.9 労判821‐45)があげられる。この事件は、
同僚の男性従業員の殴打に起因する心因性の疾患により欠勤するようになった女性
従業員を、無断欠勤による職務怠慢等を理由に解雇したという事例である。裁判所は、
当初の仲直り後、男性従業員が女性従業員にまったく謝罪する態度がなく、会社も
事務的な対応に終始し、女性従業員の精神的負担を強めたことは容易に推認できると
して、治療の遅れ等に関する女性従業員自身の責任を考慮した上で治療等のための
損害額として4割を控除した約194万円を認め、これに慰謝料60万円を加えた額の
支払いを男性従業員および会社に対し命じ、また、欠勤が従業員の暴行を原因としている
にもかかわらず、治療の見込みや復職の可能性等を検討せず直ちに解雇することは
信義誠実の原則(民法1条2項)に反するとして、解雇を無効と判断している。
(3) 暴行等の差止
以上のように、ほとんどの事件は、不法行為に基づく慰謝料を請求する事件であるが、
西谷商事事件( 東京地決平11.11.12 労判781‐72) は、上司らによる暴言・威嚇・
暴行の差止めを求めた珍しい事例である。
この事件において裁判所は、人格的利益が生命・身体等と同様のきわめて重要な
法的に保護されるべき利益であり、これを侵害された場合に、被害者は加害者に対し
侵害行為の差止めを求めることができるとした。しかし、暴言をあびせ罵倒する等の
行為が人格的利益を侵害する場合に該当するには、身体や精神に何らかの傷害の
発生することが予想される場合でなければならないとし、本件では、上司らの行為が
反復継続されても従業員の身体や精神に障害が発生することが予想されるとまでは
いえないし、人格的利益を侵害するおそれがあるということもできず、また、暴行は
偶発的出来事であったとして、労働者の申立てを退けている。
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