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個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ


                      女性労働・セクシュアル・ハラスメントの違法性判断基準

1.ポイント



(1)性的な言動は、当事者の属性対応行為の様子などから全体的に見て

社会的に許されないと考えられるものならば、性的自由人の尊厳

傷付ける違法な行為である。


(2)会社とその従業員はもちろん、

派遣先出向先取引先顧客

セクシュアル・ハラスメントに関与したと

認められる場合は法的責任を負う。


(3)セクシュアル・ハラスメントが認められないか、

被害者に落ち度があると認められるなどの場合には、

損害賠償を求めた労働者側が、

被告加害者に対する名誉毀損の責任を負ったり、

損害賠償額が減額されたりすることがある。



2.モデル裁判例



  金沢セクハラ(損害賠償)(解雇)事件 最二小判平11.7.16 労判767‐14,767‐16

(同事件 名古屋高金沢支判平8.10.30 労判707‐37)

(1)事件のあらまし


 一審被告の男性Y2は会社(一審被告Y1)の代表取締役であり、一審原告の

女性XY2の下で働く家政婦である。

Y2は次第にXの気を引くような態度を取りだしXの体に触れたりした。

性交渉をしつこく迫ったりもした。以後も日常的に性的言動を行うY2に対し

Xは、明確に拒絶の意思を表わしたが、それ以降Y2はXに対して家政婦の仕事の

やり方を注意したり変えたりさせた。そのことからXとY2は互いに不信感を募らせていった。

ある時、Xの行動についてY2が非難したところ、Xが反抗的な態度を取ったため、

Y2は激怒してXの頬を殴った。Y1にはボーナスを支給する定めはないものの、

他の従業員には支払っていたのに、Xには支給しなかった。

するとXはボーナスを支給するようしつこく抗議を繰り返した。

一方Xは第三者に、Y2 がXに対してみだらな行為を仕掛けたと言いふらした。

Y2が解雇予告手当を提示してXを解雇したところ、Xは上記の性的言動や

性交渉拒否に対する嫌がらせと解雇は違法な行為だとして、

Y1とY2に対して損害賠償を請求した。

一審二審ともにXの損害賠償請求を一部認めたが、Xの態度などに照らして

解雇はやむを得ないとした。

そこで、二審判決のうち敗訴部分につき双方が上告した。



(2)判決の内容


労働者側勝訴


 最高裁は実質的理由を述べずに上告を棄却。

以下は二審判決の理由(但しY1の法的責任については省略。

なお、慰謝料など総額は138万円)。


 職場で男性上司が女性部下に対して地位を利用して女性の意に反する

性的言動に出た場合、そのすべてが違法とされるのではない。

しかし、行為の様子、男性の職務上の地位、年齢、被害女性の年齢、

婚姻歴の有無、両者のそれまでの関係、言動の場所・繰り返しなされたか

否か、被害女性の対応などを総合的にみて、社会的に許されないと

考えられる程度のものであれば、性的自由や人の尊厳を傷付ける違法な

行為である。この事件では、Xに性交渉を迫るY2の強制猥褻行為はそれ自体

違法であるし、性的言動は社会的に許されず、Xの人格の尊厳性を損なう違法な

ものである。また、殴打は理由が何であれそれ自体違法な行為である。

しかしXがY2に対して拒否の意思を示して以降、Y2がXに対して仕事の仕方を

注意したり変えさせたりしたことはY2のビジネスライクな対応によるもので

違法ではない。ボーナスについては、明確な支給規定がないため具体的権利

とはいえない面があり、Xの抗議に対する報復ではない。解雇は、雇い主との信頼

関係が要求される家政婦の職務内容とXのしつこい抗議態度から考えて、

両者の信頼関係は完全に損なわれていて、Xの家政婦としての能力に疑問もある




ので、違法ではない。

3.解 説

(1)セクシュアル・ハラスメントが違法とされる判断基準と根拠


 モデル裁判例の事案は、最高裁判所として初めて、高等裁判所が示した

セクシュアル・ハラスメント(以下S.H.)の判断基準を支持したという意味で

重要である。
 地方裁判所や高等裁判所の判決は、契約違反や行為の違法性から、性的

自由や人間の尊厳、さらには良好な職場環境で労働者を働かせるという使用者の

義務を導き出して、S.H.の行為者と会社に法的責任を負わせ、被害者の損害賠償

請求を認めるという方法を用いている。ところが、S.H.が、人間の尊厳を害したり、

良好な職場環境で働かせる使用者の義務の違反と判断するに際しての判断材料は、

どのようなものであるのかを見究めるのは難しい。なぜなら、S.H.の行為者と被害者の

関係は、ほとんど例外なく職務に関連した男女間の関係であり、労働者・使用者という

一般的な関係に認められる関係よりも、より生の人間的な関係である。つまり、S.H.が

違法か否かを判断するに当たっては、雇用関係におけるよりも、より幅広く奥深い人間

関係の検討が必要とされる。従って、最高裁判所が高裁の判断基準を基本的に認めた

ことは、後の別の事件において、地方裁判所や高等裁判所が、前に述べた権利侵害や

義務違反を判断するに際して、重要な意味を持つと考えられる。



(2)セクシュアル・ハラスメントの法的責任の所在


 会社と、被害者の上司を含む従業員は、違法なS.H.の法的責任を負う(最近では

例えば、岡山セクハラ(リサイクルショップA社) 事件 岡山地判平14.11.6 

労判845‐73。損害賠償額約765万円)。S.H.が、取引先や顧客など会社外の人間に

よって行われた場合でも、被害者がS.H. を受けていることを知っているか、知りうる

場合には法的責任を負う(別途取引先や顧客の法的責任も生じうる)。派遣労働者の

場合、労働契約に基づく責任は派遣元にあるが、派遣先で被害を受ければ、派遣先は

法的責任を負う(東京セクハラ(航空会社派遣社員) 事件 東京地判平15.8.

労判856‐87。損害賠償額77万円)。また、出向元に在籍したまま出向先で就労して

いた従業員の法的責任を認め、出向先に使用者(会社)としての責任を認めた裁判例も

ある

(横浜セクハラ(建設関係A社)事件 東京高判平9.11.20 労判728‐12。

損害賠償額275万円)。



(3)セクシュアル・ハラスメントによる名誉毀損と損害賠償額の過失相殺


 S.H. がなかったか、違法ではなかった場合、または、違法であったが被害者に

落ち度があった場合、法的にはどのように対処しうるのか。


 一つには、S.H. が認定されなかったため、被告女性の原告男性に対する名誉

毀損の損害賠償責任を肯定した事件がある

神奈川県立外語短期大学事件 東京高判平11.6.8 労判770‐129。

慰謝料60万円)。もう一つは、損害賠償額の減額(過失相殺)の事件がある

東京セクハラ(派遣社員)事件 東京地判平9.1.31 労判716‐105)。

この事件について、裁判所は、原告は酒に酔ったうえで被告と同乗した

タクシー内で、「帰りたくない」と発言し、降車後、被告と連れ立って歩きホテルに

投宿したのであって、原告の言動には被告に性交渉を求めているものと

誤解させる部分があったのであり、これが被告の違法なS.H. のきっかけに

なったことは否定できないとして、原告の損害額4分の1を減額している

(暴行への慰謝料と休業による逸失利益の損害額210万6,660円のうち

158万円を支払賠償額として認めた)。








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