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個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ


                                                        女性労働・昇進・昇格差別

1.ポイント

(1)男女同一の採用試験職務内容にも拘わらず、

女性を昇進・昇格させないことは、違法である。


(2)同時期入社・同学歴の男性比べて

女性の昇進・昇格が著しく遅い場合は、

男女差別の違法な処遇がなされたと判断される。


(3)昇進・昇格請求は認められていない。

しかし、昇進・昇格していれば支給されていたであろう金額と、

実際の受取り額との差額の支払い認められる


(4)男女別人事制度下において女性を昇進・昇格させないことは

違法とされない

但し、均等法改正以降も男女別人事制度が維持された場合、

男女別の処遇は違法とされる。



2.モデル裁判例


  芝信用金庫事件(控訴事件) 東京高判平12.12.22 労判796‐5

(1)事件のあらまし
 金融業務を営む一審被告信用金庫Yでは次のように人事制度が運用されていた。

男性については入職後早い者で約13年、遅い者でも約15〜16年でほぼ全員が係長に

昇進しているのに対し、女性で係長に昇進したのは9名に過ぎず、入職から係長昇進

までの年数をみても最短で12年9ヵ月、最長で36年を要している。また、係長昇進後、

男性は遅くとも6〜7年で副参事職または課長職に昇進しているのに対し、女性で

副参事に昇格したのは1名に過ぎなかった。そこで一審原告女性Xらは、同期入社

同給与年齢の男性と比べて昇格・昇進について差別を受けたとして、課長職の資格

および課長の職位にあることの確認を求めるとともに、最も昇格・昇進の遅い男性と

同時に昇格・昇進したならば支給されたはずの賃金等の支払いを求めて提訴した

(請求総額約2億3,000 万円)。


 一審(東京地判平8.11.27 労判704‐21) は、昇格・昇進における男女間の格差は

性別を理由とするものであり、Xらが課長職の地位にあることを確認し差額賃金の

支払いをYに命じた(総額1億227万円余)。他方、昇進については使用者の専権事項で

あるとして請求を棄却した。XとYの双方が控訴したのが、この裁判例である。




(2)判決の内容


労働者側勝訴


 裁判所は、13名のうち8名の者が課長職の地位にあることを確認し、差額賃金・

退職金など総額1億8,000万円余について請求を認めた。 係長にある男性のほぼ

全員が副参事に昇格しているにもかかわらず、女性のほとんどすべてが副参事に

昇格していないのは極めて特異な現象である。Xらに同期同給与年齢の男性職員と

同様な時期に副参事昇格試験に合格していると認められる事情のあるときには、Xらが

副参事昇格試験を受験しながら不合格となり、従前の資格に据え置かれるという

その後の行為は労基法13条に反し無効となる。したがって、Xらは、労働契約の本質

(労基法3条4条に現れている男女を平等に取扱う使用者の義務)および労基法13条に

より、副参事の地位に昇格したのと同一の法的効果を求める権利を有し、昇格した職位に

あることの確認を求める利益がある。


 人事考課差別により、Xらは本来昇格すべきである時期に昇格できなかったのである

から、昇格していたことを前提にして支給される、本人給・資格給・退職金の額と実際に

支払われた額との差額を請求することができる。また、Yの差別行為は違法な行為に

当たるから、Yは、Xらが被った精神的苦痛に対する慰謝料などの損害賠償義務がある。

3.解 説

(1) 差別がある場合


 男女同一の採用試験を実施し業務内容も男女同じである場合に差別的に昇格

させなかったことは、公序に反する違法な行為となる

社会保険診療報酬支払基金事件 東京地判平2.7.4 労判565‐7)。

また、同時期入社同学歴の男性と比べて、女性の昇進・昇格が著しく遅い場合は、

昇進・昇格について男女差別があったと判断される(モデル裁判例。なお、

塩野義製薬事件 大阪地判平11.7.28 労判770‐81。

昭和シェル石油(賃金差別)事件 東京地判平15.1.29  労判846‐10)。



(2) 昇進・昇格は請求できるか


 昇進・昇格において差別が行われたと判断された場合でも、昇進・昇格は会社の

裁量判断が認められている人事権であることを理由に、昇進・昇格請求は否定

されている

(前掲社会保険診療報酬支払基金事件

商工組合中央金庫事件 大阪地判平12.11.20 労判797‐15。

住友生命保険( 既婚女性差別)事件 大阪地判平13.6.27  労判809‐5。

野村證券(男女差別)事件 東京地判平14.2.20 労判822‐13)。

この意味で、モデル裁判例の事案は、昇格した職位にあることの確認の利益を

認めるにとどまるが、高等裁判所判決であることも含めて、今までの裁判例の流れと

異なる非常に目新しい事案であるといえる(なお、モデル裁判例の事件は最高裁で

和解が成立している)。



(3) 昇進・昇格が認められないときの救済


 昇進・昇格請求が認められない場合であっても、昇進・昇格させないことが違法で

あると判断された場合、その違法な行為を理由に、差額賃金相当額の損害賠償請求が

認められる

(前掲社会保険診療報酬支払基金事件)。また、格付け差別については精神的苦痛に

対する慰謝料請求が認められる

シャープエレクトロニクスマーケティング事件 大阪地判平12.2.23 労判783‐71。

慰謝料500万円)。さらに、既婚者であることを理由に一律に低査定を行い昇格

させなかったことは、人事権を濫用した違法な行為に当たるとして慰謝料請求が

認められる場合がある(前掲住友生命保険事件。原告12人の総額5,090万円)。


 男女別人事制度の下では昇進差別に賠償は認められていない。男女で異なる

職務分けがなされている会社では、実際の職務内容や、会社において将来的に異なる

役割を持つという社員の位置付けから、同時期入社同学歴男性との間でなされた

昇給・昇進差別による賃金格差相当額の損害賠償請求は認められていない

住友電気工業事件大阪地判平12.7.31 労判792‐48)。任用職分格差による

賃金格差

住友化学工業事件 大阪地判平13.3.28 労判807‐10) や、昇格時期の著しい

格差

(前掲野村證券(男女差別)事件)でも、男女差別は否定されている。


 但し、平成11年に男女雇用機会均等法が改正された以降も従前の男女別コース制が

維持され続けた場合には、これによるそれ以降の処遇は違法な行為となり、使用者は

損害賠償責任を負う

(前掲野村證券(男女差別)事件)。

(4)均等法制定との関係


 配置・昇進が男女雇用機会均等法において努力義務とされていた時期にあっても、

男女別の昇格基準を運用することにより、職能資格等級の格付けとこれと連動した

定昇額や本給額等において男女間で著しい格差が生じている場合には、当該男女

差別的取扱いは社会的に許されず、違法な行為となると判断されている

(前掲昭和シェル石油(賃金差別)事件。差額賃金相当等損害賠償額約4,540万円)。


 なお、端的に勤務成績が芳しくない従業員を昇進・昇格させないことは差別とは

されない(全国商工会連合会事件 東京地判平10.6.2 労判746‐22)。








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