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個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ


                企業再編組織変更時雇用保障
                                                       合併・営業譲渡・会社分割



1.ポイント



(1)使用者である

会社が合併した場合、

合併前の労働者の労働契約は、

合併後の会社に当然に承継される。


(2)営業譲渡の場合、

近年の裁判例では、

労働者の労働契約を譲渡先に承継させるためには、

譲渡元と譲渡先の使用者の間でそのことが合意され、

かつ、当該労働者が譲渡に同意することが必要である

との考え方がとられている。

この合意については、

黙示的に認定される可能性もある。



(3)会社分割の場合、

分割後の会社への労働契約承継のあり方は、

原則的には分割計画書(又は分割契約書)によって決められるが、

労働契約承継法により、

一定の労働者異議を申し出ることで

自己の労働契約の承継先を変更できるもの

とされている。



2.モデル裁判例



  タジマヤ事件 大阪地判平11.12.8 労判777‐25

(1)事件のあらまし


 森林浴商品の製造・販売を主要業務とするA会社は、経営状況が悪化したため、

平成9 年8月に主要な資産のほとんどを親会社であるY会社(被告) に売却し、

同年9月に株主総会において解散を決議した。Yは、Aが行っていた事業の主要

部分を、「A事業部」において、Aから譲り受けた事務所、機材等を使用して遂行して

おり、解散当時Aに雇用されていた労働者は、全てYに雇用されていた。


 ところが、Aの労働者のうちXについては、同社解散前の平成9年5月に同社から

解雇を通告されていたため、Yに雇用されなかった。Xは、Yの従業員たる地位の

確認等を求めて提訴した。



(2)判決の内容


労働者側勝訴
 A社が行ったXの解雇は整理解雇の要件を満たしておらず無効である。


 ( 法人格否認の主張につき)YとAの間には密接な関係があるものの、解散前の

Aが実質的にYと同一であったとか、その一営業部門に過ぎなかったとまではいえず、

Aの法人格が形骸化していたとは認められない。また、そうである以上、Aの営業をYが

継続しているからといってAとXの間の労働契約までYが当然に承継しなければならないと

する理由はなく、YがXとの間の労働契約関係を否定することが法人格の濫用になるとは

認められない。


 (営業譲渡による承継の主張につき)営業譲渡がなされたからといって譲渡人と

その従業員との労働契約が当然に譲受人に承継されるというものではなく、Aと

Yとの間においてXの雇用契約を含む営業譲渡がなされたと認められるか否かが

問われなければならない。


 AとYとの間では営業譲渡という契約形態こそとられていないが、Aの資産売却に

当たってYによる事業継続が予定されていたことは明らかであり、それに必要な

ほとんどの資産を事業の一体性を損なうことなくAからYへ譲渡されたものといえるから、

AからYへの営業譲渡がなされたものと認めるのが相当である。そして、YがAに在籍した

従業員全員を雇用していることからすると、譲渡対象となる営業にはこれら従業員との

労働契約をも含むものとして営業譲渡がなされたものと推認できる。上記のようにAが

行ったXの解雇は無効であり、営業譲渡当時XはAに在籍したと扱われるべきである

から、AとXの間の労働契約もYに承継されたものと解される。


3.解 説

 労働契約の使用者側当事者に会社合併、営業譲渡、会社分割などがあった場合、

それによって労働者の労働契約関係にどのような影響が出るのかが問題になる。



(1)会社合併の場合


 まず、会社合併の場合には、合併前の会社の権利義務関係は、その全てが

当然に合併後の会社に承継される(包括承継。商法416条1項、103条など)。

したがって、合併前の会社の労働者の地位(労働契約上の権利義務関係)も、

合併後の会社に当然に承継されることになる。



(2)営業譲渡の場合


 1)譲渡先への労働契約関係承継の要件
 次に、営業譲渡の場合の労働契約の承継のあり方については見解が分かれており、

営業譲渡の対象とされた営業の範囲に属する労働者の労働契約関係は譲渡先に

当然に承継されるという考え方もある。しかし、この考え方をとる裁判例は近年あまり

見られない(この考え方をとると見られる比較的最近の裁判例として、

日進工機事件
(奈良地決平11.1.11 労判753‐15)があるが、譲渡元会社と譲渡先

会社の実質的同一性が肯定されたという事案の特殊性に影響された判断だと考え

られる)。


 近年の裁判例において支配的なのは、営業譲渡の当事者である譲渡元使用者と

譲渡先使用者の間で承継の合意がなされた労働者の労働契約関係のみが承継の

対象となるという考え方である(特定承継。

茨木消費者クラブ事件
 大阪地決平5.3.22 労判628‐12、

日本大学(医学部)事件
 東京地判平9.2.19 労判712‐6など。モデル裁判例もこの

立場に立つ)。このように営業譲渡の際の譲渡先への労働契約関係の移転を特定承継と

解する場合には、承継の対象とされた労働者が承継に同意していることも、譲渡先に

労働契約関係が承継されるための要件となる(民法625条1項。裁判例としてマルコ事件

 奈良地葛城支判平6.10.18 判タ881‐151、

本位田建築事務所事件 東京地判平9.1.31 労判712‐17)。



 2)黙示的な同意・合意の認定


 このように、譲渡当事者間における合意を労働契約承継の要件と考える場合、

譲渡当事者が承継から排除した労働者について、承継を否定することの是非が

問題になる。
 この点について、裁判例の中には、モデル裁判例のように、譲渡元会社の労働者の

大部分が譲渡先で雇用を継続していること等を手掛かりとして、承継から事実上排除

されている労働者の労働契約関係についても、譲渡先に承継するという黙示の合意を

認定するという考え方をとるものが存在する。同種の事案としては、モデル裁判例

同様親子会社の関係にある譲渡当事者間に、原則として全ての労働者を承継する

合意と、労働条件の引き下げに反対している労働者については例外的に承継から

除外する合意が存在することを認定した上で後者の合意を公序良俗違反により

無効とし、労働条件引き下げに反対している労働者の労働契約も譲渡先に

承継されるとした

勝英自動車(大船自動車興業)事件
(横浜地判平15.12.16 労判871‐108) などが

ある

(黙示的な労働契約承継の合意の否定例として、前掲日本大学( 医学部) 事件)。



 なお、裁判例の中には、法人格否認法理を用いるもの、譲渡元使用者と譲渡先

使用者の実質的同一性を根拠とするものなど、営業譲渡法理以外の法律構成で

譲渡先使用者の下での雇用継続を認める例も存在する((73)[企業の再編・組織

変更時の雇用保障]参照)。



(3 )会社分割の場合


 商法等が定める会社分割(商法374条以下など) が行われる場合、分割される

会社の労働者の労働契約の分割後の会社への承継のあり方は、使用者側が

定める分割計画書(又は分割契約書)によるのが原則である。しかし、これでは

労働者の利益が害されるおそれがあるため、この原則は労働契約承継法によって

一部修正され、分割計画書等の定めによる場合@分割の対象となる営業に

主として従事しているにもかかわらず、分割後の会社への労働契約関係の

承継から除外される労働者、および、A分割の対象以外の営業(分割後も元の

会社に残される営業)に主として従事しているにもかかわらず、分割後の会社に

労働契約関係が承継される労働者、については、所定の期間内に異議を申し

出ることで自己の労働契約関係の承継のあり方を変更させる(@の場合は承継

対象に含めさせ、Aの場合には承継対象から除外させる)ことができるものとされている(4条、5条)。


 なお、労働契約承継法は、会社分割の際の労働者側への情報提供・事前

協議(2条、7条)や、労働協約の承継のあり方(6条)についても規定している。









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