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個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ


                                                周知を欠く就業規則の効力



1.ポイント


(1)就業規則の法的効力

認められるためには

労働者に周知されている必要があるが、

この周知は必ずしも労基法106条の定めに従ったもの

であることを要しない


(2)裁判例によれば、

就業規則の届出義務就業規則作成

変更の際の意見聴取義務の違反

就業規則の法的効力を否定するものではない




2.モデル裁判例


  フジ興産事件 最二小判平15.10.10 労判861‐5

(1)事件のあらまし


 各種プラントの設計・施工等を業とするY会社(被告・被上告人)の

エンジニアリングセンター(大阪府門真市所在)に勤務する

従業員であったX(原告・上告人)は、平成6年6月15日に、

職場秩序を乱したこと等を理由として懲戒解雇処分を受けた。


 Y会社では、昭和61年に、労働者代表の同意を得た上で

就業規則(旧就業規則) を定め、労働基準監督署に届け出ていた。

また、平成6年4月からは旧就業規則を変更した新就業規則

実施することにし、同年6月に労働者代表の同意を得た上で

労働基準監督署に届け出ていた。

これらの就業規則には、

懲戒処分に関する規定が置かれている。


 Xは本件懲戒解雇に先立ち、エンジニアリングセンターの労働者に

適用される就業規則について質問したところ、

旧就業規則はYの本社(大阪市西区所在) には存在するものの、

エンジニアリングセンターには存在しないという状況であった。


 Xは、本件解雇の根拠となる事実が発生した時点で

エンジニアリングセンターの労働者に適用される就業規則が

存在しなかったこと等を理由に

本件懲戒解雇違法・無効を主張し、Yらを提訴した。

原審である大阪高裁は、本件懲戒解雇の根拠となるのは

旧就業規則であるとしたうえで、

それがエンジニアリングセンターに備え付けられていなかった

からといって同センターの労働者に対して効力を有しないとは

いえないとの判断を示した上で、

X敗訴の判決を下していた。



(2)判決の概要


労働者側勝訴(労働者側敗訴の原判決を破棄・差戻し)


 使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において

懲戒の種類および事由を定めておくことを要する。


 就業規則が法的規範としての性質を有するものとして拘束力を

生ずるためには

その内容を、適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続き

採られていることを要する。


 原審は、Yが労働者代表の同意を得て旧就業規則を制定し、

労働基準監督署長に届け出た事実を確定したのみで、

その内容をセンターの労働者に周知させる手続き

採られていることを認定しないまま旧就業規則に法的規範と

しての効力を肯定し、本件懲戒解雇が有効であると判断して

いるが、この判断には審理不尽の結果、

法令の適用を誤った違法がある。

3.解 説

(1)就業規則に関する使用者の義務


 労働基準法89条は、常時10人以上の労働者を使用する事業場の

使用者に対し、同条各号所定の必要的記載事項(1号から3号までは

必ず記載すべき絶対的必要記載事項であり、3号の2以下はそのような

事項が存在する場合のみ記載すべき相対的必要記載事項である)に

ついて定めを置く就業規則の作成を義務付けている。この場合、事業場の

労働者の過半数代表(過半数組合又は過半数代表者)の意見を聴取すること

(90条:意見聴取義務)と、所轄労働基準監督署長に届け出ること

(89条:届出義務) も義務付けられる(就業規則変更の場合も同様)。

さらに、使用者には労働者への配布、事業場への備え付け等の方法で

就業規則を事業場の労働者に周知することも義務付けられている

(106条:周知義務)。この周知義務は、作成義務を負わない使用者が

就業規則を作成した場合にも適用される。


 使用者が以上の義務を全て果たしている場合、就業規則は各種の

効力(労基法93条所定の労働条件の最低基準を定める効力、内容が

合理的である場合に労働契約内容を定める効力、懲戒処分の根拠としての

効力等)を有するが、これらの義務の違反がある場合に就業規則の効力は

どうなるのか、というのがここでの問題である。

(2)記載事項もれ、意見聴取義務違反、届出義務違反の場合


 まず、法定の必要的記載事項(労基法89条各号)に記載漏れがある就業規則に

ついては、労基法89条違反になるものの、作成された部分の効力には影響がない。


 次に、意見聴取義務(労基法90条) および届出義務(同89条) の違反に

ついては、これらの義務の違反があっても、使用者と労働者の関係では就業

規則の効力に影響はないというのが、裁判例の立場である(意見聴取義務

違反につき、

シンワ事件
 東京地判平10.3.3 労経速1666‐23、

ブイアイエフ事件
 東京地判平12.3.3 労判799‐74など。届出義務違反につき、

前掲ブイアイエフ事件

NTT西日本事件 京都地判平13.3.30  労判804‐19 など)。

これは、これらの義務は行政取締の観点から、国に対する使用者の

義務として設けられたものであり、その違反に対しては行政による取締

(行政指導など)や刑事制裁(労基法120条1号)が予定されているものの、

労働者と使用者の法律関係には直接影響を及ぼさないと解されているためである。



(3)就業規則の周知と就業規則の効力


 一方、就業規則の周知についてみると、裁判例は周知を欠く就業規則の

効力を否定している。モデル裁判例は、懲戒処分の根拠としての就業規則の

効力が問題になった事案について、このことを明確に述べた最高裁判決である

(下級審裁判例において周知を欠くとして就業規則の効力を否定した例として、

日本コンベンションサービス事件 大阪高判平10.5.29 労判745‐42、

日本ニューホランド事件
 札幌地判平13.8.23 労判815‐46など。

周知を肯定し就業規則の効力を認めた例として、

前掲ブイアイエフ事件NTT西日本事件)。


 もっとも、ここでいう周知とは、必ずしも労基法106条の定めに従った周知で

あることは必要でないとされている

朝日新聞社事件 最大判昭27.10.22 民集6‐9‐857、

須賀工業事件
 東京地判平12.2.14 労判780‐9)。モデル裁判例も、

就業規則の効力発生要件として、労基法106条所定の周知が必要であると

までは言っていない。


 どのような周知があれば就業規則の効力が発生するかについては、

労基法90条が定める過半数代表への意見聴取の際に過半数代表に

示されていれば足りるとする最高裁判決(前掲朝日新聞事件)があり、

下級審裁判例にもこの立場に立つものが見られる

(前掲須賀工業事件など)。一方、下級審裁判例の中には、

過半数代表への提示に加えて、組合の代議員大会で審議がなされている

こと等を認定した上で周知を認める例

片山工業事件 岡山地判昭40.5.31 労民集16‐3‐418)や、労働者に

対して就業規則内容の説明があったこと等から周知を認める例

角産事件 東京高判平12.8.23 判時1730‐152)、過半数代表の資格が

ない者の意見聴取を得ていただけでは周知があったとはいえないとする例

(前掲日本コンベンションサービス事件)なども見られる。

モデル裁判例は、労働者の所属事業場とは別の事業場で労働者代表の

意見を聴取しただけでは周知があるとはいえないとするが、何をもって

周知があったといえるかについては、明確な判断を示さずに事件を差戻している。







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