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個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ


                                         就業規則・労働条件の規律



1.ポイント


(1)就業規則の内容は、

合理的な労働条件を定めている限りにおいて

個々の労働者の労働契約の内容になるという

判例法理が確立している。


(2)ただし就業規則と異なる労働条件を定める

労働協約や、

就業規則より労働者に有利な労働条件定める

個別合意が存在する場合には、

これらのものが就業規則に優先して

労働契約の内容を定めることになる。



2.モデル裁判例


  電電公社帯広局事件 最一小判昭61.3.13 労判470‐6

(1)事件のあらまし


 Y公社(被告)では、

電話交換手を中心に頸肩腕症候群の長期罹患者が多数存在

していたことから、

労働組合と労働協約を締結した上で、

長期罹患者に対してA逓信病院において精密検査を実施すること等を

内容とする総合精密検診を実施することとした。


 Y公社の就業規則には、

心身の故障により勤務軽減等の措置を受けた職員は

所属長等の指示に従って健康回復に努めなければならない(165条)

との規定が存在した。

また、健康管理規程(就業規則の性質を有する)には、

健康管理上の指示に対する従業員の遵守義務(4条)、

特に健康管理が必要な要管理者についての個別管理の実施(26条)、

健康回復努力義務(31条)などの規定が存在した。


 Y公社は、頸肩腕症候群を発症して軽易な業務に就いたまま

治療が長引いていた電話交換手Xに対し、上記精密検査を受診すべき旨の

業務命令を発令した。

XはA逓信病院は信頼できないなどとして2度にわたって命令を拒否し、

このこと等を理由として懲戒戒告処分を受けたので、

その無効確認を求めて提訴した。



(2)判決の内容


労働者側敗訴


 就業規則上の労働条件の定めが合理的なものである場合には、

個別的労働契約における労働条件の決定はその就業規則によるという

事実たる慣習が成立しているものとして、

当該事業場の労働者は当該規則の知・不知、当該規則への同意の有無を

問わず当然にその適用を受ける

秋北バス事件最高裁判決を引用)。

したがって、就業規則が労働者に対し、一定事項について使用者の

業務命令に服すべき旨を定めているときには、そのような就業規則の

規定内容が合理的なものである限りにおいて当該具体的労働契約の

内容をなしているといえる。


 本件におけるY公社の就業規則および健康管理規程の上記各規定の

内容は、公社職員が労働契約上その労働力の処分を公社に委ねている

趣旨に照らしていずれも合理的であり、各規定の定める職員の健康管理上の

義務は公社と公社職員の間の労働契約の内容になっており、

Xが本件受診命令に従う労働契約上の義務を負っていた。




3.解 説

(1)就業規則と労働条件


 就業規則は雇用関係の中で、労働者の労働条件や就業の際に

労働者が遵守すべき事項(服務規律)を定めるもっとも重要な手段として

機能している。しかし、法律の条文を見る限り、就業規則の効力としては、

労働契約の中に就業規則の定める労働条件基準を下回る労働条件を

定める部分がある場合にその部分を無効として就業規則の定め通りに

改める効力(「強行直律効」)、言い換えれば事業場における労働条件の

最低基準を定める効力が定められているだけである(労基法93条)。

そこで、冒頭に挙げたように、就業規則が(単なる最低基準でない)労働者の

労働条件そのものや服務規律を定める効力を持つとすれば、そのことの根拠を

何に求めるかが問題となる。



(2)秋北バス事件最高裁判決



 この点について最高裁は、モデル裁判例も引用する

秋北バス事件判決(最大判昭43.12.25 民集22‐13‐3459)において、

就業規則が合理的な労働条件を定めている場合には、

労働契約における労働条件決定はその就業規則によるという

事実たる慣習」が成立しており、この場合には、

その就業規則の定めを知らない労働者や、これに反対する

労働者の労働条件も、就業規則の定め通りに決定されるという

判断を示した。同判決をめぐっては、その意味内容を理論的に

どのように理解するかが問題となったが、やがて、同判決は就業規則の

法的性質を大量の定型的取引の場面で用いられる普通契約約款に類似した

ものと捉え、普通契約約款に関する法理を応用して就業規則の内容に合理性が

認められる場合には就業規則の定めが労働契約の内容になるという趣旨を

述べたものと解すべきであるという学説(「定型契約説」) が提起され、

有力な支持を得るに至った。



 モデル裁判例は、就業規則の効力について上述の

秋北バス事件最高裁判決の判旨を引用した後、労働者が使用者の

業務命令に従う義務を負うと定める就業規則規定について、

当該規定が合理的なものであればその定めが労働契約の内容になる

との判断を示しており、上述した「定型契約説」の立場に立つことを示す

ものといえる。ここで示された「就業規則の内容は、合理的な労働条件を

定めている限りにおいて個々の労働者の労働契約の内容になる」という

考え方は、以後の裁判実務において、判例法理として定着している。



(3 )就業規則規定の合理性


 このような判例法理の下では、いうまでもなく、いかなる場合に就業規則

規定の合理性が認められるかが、重要な問題である。

合理性が問題となるもっとも代表的な局面は、就業規則による労働条件

変更の適法性が問題となる場合である((69)[労働条件の変更]参照) が、

その他に最高裁が就業規則規定の合理性について判断した例としては、


モデル裁判例の他、使用者の時間外労働命令権を定めた就業規則規定の

合理性を認め、使用者が労働者に対して時間外労働を命令する労働契約上の

権利を有することを肯定した例がある

日立製作所武蔵工場事件 最一小判平3.11.28  民集45‐8‐1270)。




(4 )就業規則によらない労働条件決定



 このように、就業規則は、規定内容の合理性が認められる限りにおいて、

労働者の労働条件を定める上で重要な役割を果たすことが法的にも

認められている。しかし、就業規則が存在し、

かつ、その合理性が認められる場合であっても、労働条件決定が常に

就業規則によって行われるわけではない。



 まず、労働協約の効力は就業規則に優先する(労基法92条)ので、

労働協約の適用を受ける労働者の労働条件は就業規則ではなく労働協約に

よって定められることになる。この場合、就業規則が労働協約よりも労働者に

有利な労働条件を定めている場合にも労働協約の方が適用されることに

なるのか否かは問題になるが、裁判例の中には、この点を肯定したものがある

明石運輸事件 神戸地判平14.10.25 労判843‐39)。


 次に、労働者と使用者の間の個別合意によって就業規則よりも労働者に

有利な労働条件が定められている場合には、当該合意の効力が判例法理に

基づく就業規則の効力に優先し、合意された労働条件が適用されることになる。







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