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個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ


                                                  人事制度・降給・降格

1.ポイント



(1)降格とは、

職位又は資格を低下させるものである。

降格は、懲戒処分又は配転としてなされるが、

降格が、権限や賃金の低下等労働条件の改悪

なることが多いことから、

降格が有効否かが厳格に判断されている。


(2)懲戒処分としてなされる降格では、

懲戒処分の有効要件が問題とされ、

観的に合理的な理由を欠き、又は

社会通念上相当として認められない場合には

懲戒権の濫用として無効とされる。



(3)配転としてなされる降格の場合、

人事権行使の裁量性を承認の上、

その行使が、その裁量権の範囲を逸脱し、

社会通念上著しく妥当性を欠き権利の濫用に

当たるか否が判断される。

この場合、使用者側の業務上の必要性

労働者側の能力・適性の欠如等の責任の有無や

労働者が被る不利益その企業における昇進・降格の

運用状況等の事情が総合的に考慮される。



(4)裁判例の中には、降格につき就業規則上

明確な根拠規定の存在を求めるものもある。



2.モデル裁判例


  医療法人財団東京厚生会事件 東京地判平9.11.18 労判728‐36

(1)事件のあらまし


 Yが経営する病院に、婦長としての雇用契約を締結し、勤務する看護婦で

ある労働者Xが、

婦長から平看護婦に2 段階降格した使用者の措置

(以下、降格という)を違法・無効として、退職した後に、

Yに対して、債務不履行などを理由として、

同退職時から定年退職時までの賃金相当額の逸失利益の賠償を

求めたものである。Yは、本降格がXの管理職としての不適格を理由と

する配転で、正当な人事権の行使と主張した。



(2)判決の内容


労働者側一部勝訴(控訴)


 一般に、人事権の行使は、基本的にYの経営上の裁量判断に属し、

社会通念上著しく妥当性を欠き、権利の濫用に当たると認められない限り、

違法とは言えない。

Yの判断が裁量の範囲を逸脱しているか否かを判断するに当たっては、

Y側における業務上の必要性の有無及びその程度、能力・適性の欠如等の

X側における責任の有無及びその程度、

Xの受ける不利益の性質及びその程度、

その企業における昇進・降格の運用状況等の事情を

総合考慮する。

婦長から平看護婦への2 段階の降格については、

業務上の必要性があるとは言えず、降格がその裁量の範囲を

逸脱した違法・無効である。

賠償額については、Yが違法な降格をしたことによって婦長として働くことを

拒否した場合でも、Xは少なくとも労務の提供の準備をすることを要する

ことなどから、33万円と遅延損害金のみが認められる。



3.解 説

(1)降格の意義・態様


 降格には、職位を引き下げるもの(昇進の反対)と、

資格を低下させるもの(昇格の反対)とがある。

又、降格は、懲戒処分又は人事異動(配転)として

なされる。

裁判例は、以下のように、各降格につき、それが一般的には

権限や賃金の低下等の労働条件改悪となることが多いことから、

慎重な判断を示している。




(2)人事権による役職・職位の降格



 配転としての降格について、裁判例は、先ず、人事権の行使は、

基本的に使用者の経営上の裁量判断に属し、社会通念上著しく

妥当性を欠き、権利の濫用に当たると認められない限り、違法とは

言えないとする。

その上で、その裁量範囲を逸脱しているか否かを判断する。

この場合、次のような事情が総合考慮されている。使用者側におけ

る業務上の必要性の有無及びその程度、能力・適性の欠如等の

労働者側における責任の有無及びその程度、労働者の受ける

不利益の性質及びその程度、企業における昇進・降格の運用状況等である。

例えば、これらにより、降格が有効とされた近時の例に次のものがある。

例@日本プラントメンテナンス協会事件(東京地判平15.6.30 労経速1852‐18):

部長からの降格、

例A 日本レストランシステム事件(大阪地判平16.1.23 労経速1870‐3):

自己の統括する店舗の従業員にサービス残業をさせる見返りに無銭飲食を

指示したとして就業規則の規定に基づきなされたマネジャーB職から1段下の

店長A職への降格処分およびそれにともなう職務給・職務手当の減額、

例B セフテック事件( 東京地判平16.3.9 労経速1871‐16): 部・課長から

平社員への降格に伴う賃金減額・賃金格差は、有効な降格に伴う措置で

不当労働行為ではないとして不法行為による損害賠償請求を棄却した例など

である。


 しかし、以下のように、降格・降給が労働条件の改悪となることが多い

ことから、降格の有効性につき厳格な判断を示す裁判例も少なくない。

例えば、

例C バンク・オブ・アメリカ・イリノイ事件(東京地判平7.12.4 労判685‐17)では、

課長職から降格された事例で、課長職から課長補佐職相当職への降格は、

使用者の人事権の濫用とは言えないが、この降格後の総務課(受付業務担当)への

配転は違法とされた(慰謝料100万円も認められた)。

例D デイエフアイ西友事件(東京地決平9.1.24 労判719‐87)では、

バイヤーからアシスタントバイヤーへの降格に関する事例で、職種が一定の

レベルのものに限定された労働者を不適格性を理由により低いレベルのものに

引き下げる降格はできないとされた。

東京アメリカンクラブ事件(東京地判平11.11.26 労判778‐40)では、

等級号俸制を採用する会社のもとで職種の変更に伴う賃金の減額措置につき、

会社においては職務の変更に伴い当然に変更された等級号俸が適用されている

とはいえない等として差額賃金の請求が認められた。



(3)降格根拠規定を求める裁判例


マルマン事件(大阪地判平12.5.8 労判787‐18)では、資格等級を3 級から

4 級に引き下げた降格処分が職能部分の賃金の減額を伴うもので合意や

就業規則上の根拠なしとして無効、などとされている

(同旨、アーク証券事件 東京地決平8.12.11 労判711‐57、アーク証券

( 第二次仮処分)事件 東京地決平10.7.17 労判749‐49、

アーク証券(本訴)事件 東京地判平12.1.31 労判785‐45等参照)。



(4)懲戒処分としての降格


 この降格については、他の懲戒処分の場合と同様な有効要件があるか

どうかが問題とされる

ダイハツ工業事件 最二小判昭58.9.16 労判415‐16参照)。

例えば、倉田学園事件( 高松地判平元.5.25 労判555‐81) は、

懲戒処分としての降職につき、労働契約の枠内でのどのような処分ができるか

という限界を示している。ここでは、満60歳までの終身雇用が予定されている

私立高等学校・中学校の教諭らに対して、懲戒権の行使として、

雇用期間を1年とする常勤又は非常勤講師への降格処分が、その処分前後の

雇用形態の差異に照らし、労働契約内容の変更に留まるものとみることは

困難として、許されないとされた。最近、懲戒降格を有効とした例として

バンダイ事件
( 東京地判平15.9.16 労判860‐92: 保険会社と所得補償

保険契約を締結していた従業員が就業不能状態にないにもかかわらず、

同僚に虚偽の証明をさせて補償給付を受けようとした行為)が、無効とした

例として

ヤマイチテクノス事件
(大阪地判平15.8.8 労経速1853‐15 :勤務態度不良)がある。



(5)変更解約告知による契約社員への降格


 理論的には、いわゆる「変更解約告知」による降格もあり得るが、

この用語の意味及び効果等の点については、

別項(71)[労働条件の変更]参照。







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