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個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ
人事制度・昇給・昇格
1.ポイント
(1)職能資格制度では、
まず職務遂行能力が、職掌として区分され、
各職掌の中で様々な資格に類型化され、
その資格の中で等級と資格等に応じて給与が決められる。
資格の上昇が「昇格」、級の上昇が「昇級」(昇格等)である。
(2)昇進には2種類ある。
一つは企業組織における管理監督権限や指揮命令権の
上下関係における役職(いわゆる管理職)の上昇である。
もう一つは、役職を含めた企業内の職務遂行上の
地位(役位)の上昇である。
(3)昇進・昇給については、
その運用等における企業の裁量権が大幅に認められ、
例外的に、労基法3条の均等待遇、同法4条の男女同一賃金、
均等法6条の男女差別的取扱い禁止、
労組法7条の不当労働行為制度等による規制と
著しい裁量権の濫用の場合のみ
規制が加えられる傾向にある。
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2.モデル裁判例
光洋精工事件 大阪高判平9.11.25 労判729‐39
(1)事件のあらまし
使用者Yは、各種ベアリング・ステアリング等の製造販売を営む
企業である。その従業員であった労働者Xが、Yに対して、不法行為に
基づき同僚との賃金及び退職金の差額・遅延損害金の支払いを求めた。
その理由として、Yが職能資格等級制度において労働者の人事考課を
行なうに当たり、裁量権を逸脱・濫用した違法・不当な評価をし、その結果
賃金及び退職金が同僚に比較して不当に低く抑えられたと主張した。
Yは、Xへの人事考課は裁量の範囲内で適切に行なわれたもので、
むしろXには適格性に欠ける点があったなどと主張した。
原審(大阪地判平9.4.25 労判729‐40) は、Yの職能資格制度が同等の
勤続年数の従業員間に級の差が出ることを予定しており、Xに対しYがこと
さら不利な人事考課をすべき動機が見当たらないこと、Xが他の退職者の
平均勤続年数より約9年短いにもかかわらず、Xより勤続年数の長い従業員が
多数、Xと同じ級に格付けされていることなど、Xに協調性、積極性等に問題が
あったことを認定したうえ、Yの人事考課に裁量権の逸脱・濫用があったとは
認められない、として請求を棄却した。そこで、Xが控訴したのが本件である。
(2)判決要旨
労働者側敗訴
控訴を棄却し、Xの請求を改めて否定した。
原審を引用した上で、「人事考課は、労働者の保有する
労働能力… 実際の業務の成績…その他の多種の要素を総合判断
するもので、その評価も一義的に定量判断が可能なわけではないため、
裁量が大きく働くものであり、組合間差別の不当労働行為のように
大量観察を行うことにより有意の較差が存在することによって人事考課に
違法な点があることを推認できる場合は別として、個々の労働者について
これを適確に立証するのは著しく困難な面がある」。本件において労働者の
主張する「人事考課の違法は、…長期間にわたるもので、前記の人事考課の
性質からいって、個々の人事考課がなされた根拠を後日明らかにするのは
かなりの困難を伴うものであるし… 人事考課の適否を巡る立証には難しい点が
ある」。「人事考課をするに当たり、評価の前提となった事実について誤認がある
とか、動機において不当なものがあったとか、重要視すべき事項を殊更に無視し、
それほど重要でもない事項を強調するとか等により、評価が合理性を欠き、社会
通念上著しく妥当を欠くと認められない限り、これを違法とすることはできない」。
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3.解 説
(1)評価・人事考課・昇進等の裁量性の承認
今までの多くの裁判例では、原則として、使用者の人事評価・考課・昇進等での
査定権者・査定項目の決定、査定の幅・基準とその運用等での企業の裁量権
(決定権)を大幅に認め、例外的に、労基法3条の均等待遇、同法4条の男女
同一賃金、均等法6条の処遇についての男女差別禁止(例えば、濫用を認めた例
として、男女差別賃金の差額賠償等として100万円から6万5,000円を認めた
芝信用金庫事件 東京地判平8.11.27 労判704‐21、
同控訴事件 東京高判平12.12.22 労判796‐5、
同期男性との差額賃金2,518万円と慰謝料200万円の支払いを認めた
塩野義製薬事件 大阪地判平11.7.28 労判770‐81、
男女差別による昇進遅延を認めたが慰謝料5 00万円の支払いのみを認めた
シャープエレクトロニクスマーケティング事件 大阪地判平12.2.23 労判783‐71、
女性総合職の人事考課につき男女差別による慰謝料を認めた
商工組合中央金庫事件 大阪地判平12.11.20 労判797‐15等、
認めなかった例として、均等法施行前についての判断であるが、
住友電気工業事件 大阪地判平12.7.31 労判792‐48、
兼松(男女差別) 事件 東京地判平15.11.5 労判867‐19等参照)、
労組法7条の不当労働行為制度等による規制と著しい裁量権の濫用の
場合のみ規制を加えてきた(不当労働行為を認めて差額支給を命じた
例として、東京地労委( 国民生活金融公庫) 事件 東京地判平12.2.2 労判783‐116、
中労委(オリエンタルモーター)事件 東京高判平15.12.17 労判868‐20等、
逆に、差別なしとされた例として中労委(芝信用金庫従組) 事件 東京高判平12.4.19 労判783‐36、
日本ビル・メンテナンス事件 大阪地労委命平16.2.17 労判869‐92等)。
モデル裁判例の外にも、
安田信託銀行事件(東京地判昭60.3.14 労判451‐27)では、人事考課は、
企業の「広範な裁量に委ねられている」から、考課上「標準者」と評価せず、
協約所定の賃金額を支給しなかったからといって債務不履行には該当せず、
その考課における人事考課の基準、評定方法に特段の不合理はなく、
考課、昇格のないことは、勤務態度に基づくもので、損害賠償責任はないと
されている(同旨、
ダイエー事件 横浜地判平2.5.29 労判579‐35、
堺市農協事件 大阪地判平10.1.30 労判734‐20、
全国商工会連合会事件 東京地判平10.6.2 労判746‐22、
東京女子醫科大学(退職強要) 事件 東京地判平15.7.15 労判865‐57、
東日本電信電話事件 東京地判平16.2.23 労経速1871‐11等参照)。
(2)昇格差別の救済手段
従来の多くの裁判例では、原則として、昇格等についても、昇格等の決定、
その基準とその運用等における企業の裁量権を大幅に認め、
例外的に、労基法3条の均等待遇、同法4条の男女同一賃金、均等法6条の
処遇についての男女差別的取扱い禁止、労組法7条の不当労働行為等に
よる規制と著しい裁量権の濫用の場合のみ規制を加えるだけであった
(社会保険診療報酬支払基金事件 東京地判平2.7.4 労判565‐7等)。
但し、前述の昇進の場合と異なり、前掲
芝信用金庫事件は、差額賠償のみならず、課長職への昇格とその地位に
あることの確認を認めた。しかし、昇格請求権が認められうるのは、就業規則や
慣行上、勤続年数や試験への合格などの客観的要件の充足のみによって昇格が
行われる制度の場合である。前掲
芝信用金庫事件の結論も、男性に対して、実質的に一律年功的な昇格制度を
実施していたためであり、本来の成果主義人事制度が実施されていた場合には、
異なった結論となったであろう。
近時の職能給制度下の裁判例では、昇格差別に対する慰謝料を認めるに
とどめている(前に取上げた、差額賃金と慰謝料の支払いを認めた前掲
塩野義製薬事件、男女差別による昇進遅延を認めながら慰謝料の支払い
のみを認めた前掲
シャープエレクトロニクスマーケッティング事件、女性総合職の人事考課につき
男女差別による慰謝料を認めた前掲商工中金事件等参照)。
なお、昇格・賃金の男女差別を認めた前掲
芝信用金庫事件も、賃金と対応する資格である昇格は認めたが、
具体的な課長の職位への昇進については、適材適所の配置を決める信金の
専決事項として請求を認めなかった。
しかし、最近、和解とはいえ、大阪高裁において、均等法の施行前からの差別も
違法と宣言した上で一定の和解金と女性の昇給・昇格を認めた例が
報じられており(前掲
住友電気工業事件の控訴審で、裁判長より、「間接的な差別に対しても
十分な配慮が求められる」と言及の上、平成16年1月に上記の和解が成立した
と伝えられる。平成16年1月5日朝日新聞他記事参照)、他方、均等法改正作業に
おいてもこの間接差別規制が盛り込まれる方向にあり(平成16年6 月「男女雇用
機会均等政策研究会」報告書参照)、実務的にはその今後への影響が注目される。
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