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個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ




                                  年休の取得と不利益取扱い



1.ポイント

 

年次有給休暇取得

実質的に抑制する定め措置違法である。


ただし、何をもって「実質的に抑制する」とみるかは、

ケース・バイ・ケースである。




2.モデル裁判例



  日本シェーリング事件 最一小判平元.12.14 民集43‐12‐1895



(1)事件のあらまし



 医薬品の輸入および製造販売業を営む第一審被告の会社Yは、

経営状況が良好でないことの一因が従業員の稼動状況にあると考え、

稼働率を向上させるための方策労働協約に定めることを考えた。


 Yは、従業員で構成される二つの組合に対して、賃金引き上げの条件として、

前年の稼働率80%以下の者を除くこと(以下「80%条項」)を含む協定を取り結ぶ

ことを求め、二つの組合とその条件を含む協定を取り結んだ。


 稼働率算定の基礎となる不就労に当たる事項は、

欠勤」「遅刻」「早退」「年次有給休暇」「生理休暇」「慶弔休暇」「産前・産後休業

育児時間」「労働災害による休業ないし通院」「ストライキなど組合活動によるもの」


が含まれる。


 第一審原告の労働者Xらは、数年間にわたる各年の賃上げに際し、

それぞれ前年の稼働率が80%以下であるとして賃上げ対象者から

除外され、各年の賃金引き上げ相当額およびそれに対応する夏季冬季

一時金退職金が支払われなかった。


 そこで、Xらは、Yに対して、賃金引き上げ相当額等と損害賠償の支払いを

求めて裁判を起こした。


 二審の高等裁判所判決(大阪高判昭58.8.31 労判417‐35) は、

80%条項を全体として無効と判断した。これに対してYが上告したのが

本件である。

(2)判決の内容


労働者側勝訴



 第二審判決のうち、Y敗訴部分を破棄して、事件を高等裁判所に

差戻した。


 80%条項は、労働基準法(以下、労基法) または労働組合法(以下、労組法) の

権利に基づくもの以外の不就労を基礎として算定する限りでは法的効力を認められるが、

反面、80%条項で、労基法または労組法上の権利に基づく不就労稼働率算定の基礎

していることは問題である。なぜなら、労基法または労組法の権利を行使したことに

よって、労働者が(賃金など)経済的利益を得られないとすることは、それぞれの法律に

定められた権利の行使を抑制してしまうからである。さらに、それぞれの法律が労働者


保障したそれぞれの権利の趣旨を実質的に失わせてしまうからである。


 したがって、80%条項にある、法律で定められた権利の行使によって就労しなかった

ことを稼働率算定の基礎とする定めは、違法である。





3.解 説

 法律で労働者に認められた権利の行使を抑制する定めや措置は

違法・無効であると解されている。

しかし、どのような場合に年休取得を抑止する定めや措置が違法と

されるのかは、背景にある個別具体的事実を見ないと判断できない。



エス・ウント・エー事件( 最三小判平4.2.18 労判609‐12) において、

会社は、就業規則の改正によって、週休日以外の祝日・土曜日・年末・年始の

休日を、「労働義務があるが欠勤して差し支えない日」として、これらを年休権

成立の「全労働日の8割以上の出勤」の計算に当たって、年休取得の判断基準と

なる「全労働日」に含ませた。そして、年休権を行使した労働者の出勤率は8割以下で、

年休権は成立していないとして、この労働者を欠勤として取扱い、欠勤日数に

カウントした上で、賃金と賞与を減額した。最高裁判所は、年次休暇を取得した日が

属している期間に対応する賞与計算の中で、年休を取得した日を欠勤として扱う

ことはできないと述べて、就業規則のこのような定めと労働者の取扱いを違法とした。


 他方、

沼津交通事件( 最二小判平5.6.25 民集47‐6‐4585) では、

タクシー会社の乗務員が月ごとの勤務予定表作成後に年休を取得した場合、

皆勤手当を支給しないとの取り決めは違法ではない、とされた。最高裁判所は、

まず、年休取得を経済的不利益と結び付ける措置は、労基法が年休権を労働者に

保障した趣旨から望ましくない、と述べた上で、

@そのような措置の趣旨・目的、

A労働者が失う経済的利益の程度、

B年休取得に対する事実上の抑止力の強弱、

を総合判断し、

労基法が労働者に年休を保障した趣旨を実質的に失わせるもの

ではない限り、公序に反する無効なものとはいえないとした。

そして、タクシー会社としては、自動車の実働率を高める必要のために

皆勤手当を導入する必要があり、年休取得を抑制するための措置では

なかったと判断している。具体的には、年休取得により差し引かれる

皆勤手当の額が相対的に大きいものではないこと(月額給与の最大1.85%)、

労働者は43ヵ月のうちに42日の年休を取得し、それ以外の年休9 日分については

タクシー会社が金銭補償(年休の買い取り)をしていることから、タクシー会社の

取扱いは違法ではないと認めたのである。










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